『親を見送る喪のしごと』の著者で作家・エッセイストの横森理香氏は、愛する母を亡くしたあと、形見分けで後悔したことがあるといいます。横森氏の体験談を通じて「損をしない形見の選び方」をみていきましょう。

ジュエリーこそ必要なものだけを

母の死後、形見として黒真珠のネックレスは取っておけばよかったかなと、アラカンのいま、思う。

というのも、葬儀参列がますます増える年代に突入し、先日は友人が知人の通夜に参列。ロータスにて「ベリーダンス健康法」のあと、喪服に着替えた。

「駆け付け通夜っていって、お通夜は黒ならどんな服装でもいいっていうけど、一応ね……」と言って、本真珠のネックレスも着けていた。「これは私が嫁ぐとき父が持たせてくれたものだけど、本式は黒真珠なんだって」「え、そうなんだ。黒真珠のネックレスなんていらないからあげちゃったよ」「それはもったいないことをした」

黒真珠、私もハワイでタヒチアンパールを買ったが、一粒でもお高いのだ。

形見のジュエリーは「鑑定書」を見てから選別を

親の宝飾品は玉石混交。特に高齢者は、軽くて疲れないようデザインされた、本物のジュエリーを持っていたりするから要注意だ。私もうっかりエメラルド三連ネックレスを親友にあげてしまった。

メレダイアぐらいの小粒で軽く、留め金がメッキでいかにもフェイクジュエリーな感じだった。が、あとから鑑定書が出てきて天然石であることが発覚。腰が抜けた。

でも、こういうものは似合う人がしたほうがいい。母も親友も色白で大柄だから、エメラルドグリーンが良く似合うのだ。

「親のローン」は返さなきゃだめ?

年金生活者でありながら、最後までお買い物を楽しんだ母。36回払いのローン残金請求書は、死後、すぐ私のところに送られてきた※故人のローンが残っていた場合は、相続人に支払い義務が発生します。相続したくない場合は放棄することが可能ですが、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内と期限が決まっています。難しい場合は、裁判所に期限延長の申し立てが可能です。

着物もジュエリーも、懇意の呉服屋さんで買ったものらしかった。こういう親の借金は、未使用のものは返品すれば返さなくてもいいらしいが、それでは母が浮かばれないだろうと、合計158万円のローンは完済した。

買ったばかりでまだしつけのとっていない着物、帯、羽織、新品のジュエリーは、口惜しいので私がもらった。大粒の真珠のネックレスは、しばらく遺影にかけておいてあげた。一度も着けられなくて残念だったろうから。

イタリアの職人に作らせたというカメオのブレスレットは、どこか素敵なところにお出かけするたんび、着けて行った。裏には「ラブエテルノサチコ」と彫らせてある。

永遠に、愛す。サチコ。「は〜」私はうなだれた。「このブレスレットはお母さまが、2人のお嬢さんとお孫さんにひとつひとつお分けになるつもりで作らせたものです」と呉服屋さんの手紙にあった。でも、支払いをしたのは私なので、私がもらっておいた。

3つのカメオがつながってブレスレットになっているものを、ばらしてペンダントなりに作り変えるのも、またお金がかかるから、それはなしだ。

ジュエリーは「リメイク」で愉しむ

新しいものはともかく、古い宝飾品はもらっても現代のライフスタイルに合わない。私は母の縦爪のダイヤモンドリング(婚約指輪)大粒ひとつを中心に、自分のプチダイヤ二個を両脇に置き、カジュアルリングにリメイクした。縦爪はニットにもひっかかるから、プラチナリングに埋め込む形にしたのだ。

こういうリメイク屋さんは街のいたるところにある。私は自由が丘デパートのリメイク屋さんでやってもらった。お直し代はたいしたことなかった。地金も買い取ってくれるから、それで支払えたぐらいの金額だ。

遺品といっても、ただ取っておいてもしょうがないから、リメイクして普段使いで楽しんだほうがいい。そのほうが故人も喜ぶだろう。

横森 理香 一般社団法人日本大人女子協会 代表 作家/エッセイスト  

(※写真はイメージです/PIXTA)