韓国では、MLBの開幕戦サンディエゴ・パドレスvsロサンゼルス・ドジャースの試合がアメリカに先駆けて開催される。大谷翔平山本由伸ダルビッシュ有松井裕樹ら日本人選手の活躍を期待して熱狂することになる。

 その一方で、サッカーFIFAワールドカップ26アジア2次予選がスタート。日本代表は3月21日国立競技場で、26日に平壌・金日成スタジアムで、いずれも北朝鮮代表と対戦する。日本代表はこの2戦ともに勝利を収めて勝ち点6を獲得することで、最終予選への進出が決まる重要な局面を迎えている。

アジアカップ敗退後の初の試合は難敵・北朝鮮

 サッカー日本代表にとって、「AFCアジアカップ カタール」の敗退後に迎える初の試合。敗れたイラン戦もさることながら、大会全体を通して“アジアの厳しさ”を再認識させられた。2026年6月からアメリカ、メキシコカナダで共催されるFIFAワールドカップに向けて立て直しはもちろん、2次予選・最終予選と当面続くアジアとの戦いに向けての取り組みについても問われるだろう。

 アジアカップで弱点を露呈した日本代表にとって、アジア勢との戦いはより険しい道のりになった。戦術的な対策が求められることになるが、今回の北朝鮮戦は試合中の要素以外にも懸念されることが多い。

◆「中国経由の移動」と「完全アウェイのスタジアム」

 まず懸念材料として挙げられるのは環境面。ホーム国立での試合は、普段と何ら変わらずに万全の準備で臨めることだろう。しかし、アウェイ戦はこれまでとは一味違う。国交がない故に、移動も中国を経由しなければならない。中4日ではあるが、当然余計な時間がかかってしまう。

 また、入国後の行動も制限される。試合前に気持ちを整えるにしてもこれまでどおりにはいかない。そして、言わずもがなスタジアムは完全アウェイ。日本のサポーターは入国することができず、観客の100%が北朝鮮を応援しているのだ。そんな環境での試合開催は世界中を見渡しても、ほぼない。

 このように試合以外の部分が大きく影響すると考えられ、日本代表の平壌での過去成績は4戦2分け2敗と未だ白星がない。この状況を打破するために招集されたのが、「FIFAワールドカップ2022 カタール」以来の復帰となった長友佑都だと考えられる。

◆なぜ長友が招集されたのか

 森保一監督はピッチ内外で存在感を発揮してもらえればと思っています」と、メンバー発表の会見で長友招集の理由を明かした。森保監督はプレー面でも代表レベルであることを付け加えていたが、精神的支柱としての役割を期待した招集であることは明らかである。

 アジアカップ敗退後の試合で、そもそものチームの雰囲気を不安視される状況。加えて、アジア勢でも屈指に厳しい環境となるアウェイの北朝鮮戦では、試合までに気持ちをつくる準備が難しくなる。技術や戦術面以前の問題が懸念されるなか、チームの雰囲気づくりに長ける長友の力を頼らざるを得なかったのだろう。

 さらに、サイドバックが枯渇している日本代表の現状は深刻でもある。それも踏まえて、精神面だけでなくプレー面でも期待している部分はありそうだ。技術や戦術面だけ見れば、他の若手選手を呼ぶべきだったのかもしれない。ただ、今回に関しては外には見えない場面で、長友の力が必要になるだろう。

満身創痍の選手たちをいかに休めるか

 37歳と大ベテランの域に達している長友の招集によって、精神的コンディションを整えようとする試みは理解できる。しかし、今の日本代表メンバーはそもそもフィジカル的なコンディションがよろしくない。

 三笘薫冨安健洋は負傷を理由に今回の招集を見送られた。さらに、リーグ終盤を迎えるヨーロッパのチームに所属する選手らは、激しい戦いの連戦でフィジカル面が下降気味でパフォーマンスに影響を与えている。

 特に、カップ戦を勝ち上がっていたレアル・ソシエダ久保建英リバプール遠藤航などは、パフォーマンスが下降気味だ。それでも所属チーム、日本代表にも欠かせない存在であるため、乗り越えてくれることを願うばかりになる。

 とはいえ、そういったコンディション不良の選手を90分間フルで使う必要はないし、状況によっては別の選手が出場したほうがいい。おそらく森保監督も織込み済みで、今回は遠藤と同じポジションを務められる選手が招集されている。守田英正、佐野海舟といったアジアカップ組に加えて、田中碧と川村拓夢の姿も。佐野は負傷を理由に辞退することになったが、それでもアジアカップ時と比べたら層は厚い。先に行われるホームの一戦で早めの大量得点で試合を決めてしまい、遠藤を早めに休ませることが理想的な展開となる。

北朝鮮との2連戦は今後に向けた試金石に

 多角的な要因によって万全の状態で臨むのが難しい日本代表だが、ベストではないにしろベターな状況にできるかがカギとなる。長友の招集からも読み取れるように、試合以外の部分をこれだけ考えているのだから、試合自体の準備・対策も当然のように綿密に進めていると信じたい。

 アジアカップと同様に北朝鮮も含めた今後の対戦国は策を練ってくることは間違いない。だからこそ、日本代表はそういった対策を上回る必要がある。北朝鮮との2連戦はまさに試金石となるだろう。

<TEXT/川原宏樹 撮影/加藤圭祐>

【川原宏樹】
スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる

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