世界で唯一、海上での救難に特化した飛行艇US-2を持つ海上自衛隊。海洋国家たる日本の救難訓練を密着取材すると、機体や装備のハードウェアもさることながら、11名の乗員による所作はまさに職人芸でした。

「自分が降りる場所は自分の眼が決める」

海上で不時着者を探すのは、現代技術をもってしても校庭に落としたビーズを探すに等しいといわれます。それでも救難専用飛行艇US-2は、最新技術のハードウェアと11名の搭乗員それぞれの職人技ともいえる技能を駆使して救助活動を行います。波のある海に離着水するのは特殊な技能ですし、機上救護員は准看護師資格、機上救助員は潜水士資格を持っています。

2024年3月13日(水)、海上自衛隊の救難訓練の様子を密着取材しました。

地面の滑走路とは違い、海面は常に流動しています。搭載している波高計のデータは通過した過去の波であり、これから降りる波を正確に示しているわけではありません。波の状況を観察し続けて波高や波長、波の方向を見極めて、どこに降りるべきか見極めるのは結局カンと経験しかないそうです。波高をセンチ単位で見極め、着水時には計器はほとんど見ていないといいます。まさに職人芸です。波の頂点を超えた反対側に降ろすのがベストだそうです。

操縦士には「降りられる波間が光って見える」そうです。着水後も海面で停止や移動、旋回するのに、4発のエンジンを個別に制御する独特の方法が使われます。

救難に特化した最先端器材も搭載しています。そのひとつが、発見した救助対象位置の座標を記録し、ヘルメットに装備したヘッドマウントディスプレイで表示できる目標位置指示捕捉装置「スポット」です。ヘッドマウントに座標計が付いており、グラス上に表示される十字のポイントに目標を捕え、ロックオンスイッチを押すと座標が決定され、その座標位置が乗員間で共有できるというものです。

職人芸の連係プレー 着水不可なら救命キット投下も

救助には搭乗員間のチームワークに加え、要救助側との素早い連絡調整と意思決定が必須で、着水から要救助者収容までの標準的な時間は10分とされています。

具体的な手順は捜索、海面評価、要救助者発見、そして着色剤や発煙筒を目標位置に投下し、救助という流れ。爆撃機のように照準器があるわけではなく、正確な位置に投下するには投下高度と速度が決められており、目標との距離を見極めて投下タイミングを計ります。これにも練度が必要です。着水できる場合は直接救助、着水できない場合は救命キットを投下する間接救助、または船舶誘導を行います。

このたびの救難訓練を取材するにあたり、搭乗申込の際に海上幕僚監部の広報官から「乗りもの酔いしやすいですか?」と聞かれました。飛行中はともかく着水すると海上では波に揺られますが、主翼の補助フロートの影響で船とは違う独特の揺れがあり、それでやられてしまう人が多いそうです。訓練場所は四国の八幡浜沖。晴天も北風やや強く、波高1.1m、波長15m。離着水難度55%(100%が最も難しい)という状況でした。

降ろされたゴムボートからUS-2を見る。当日の波高は1.1mとそれほど高くないが、ゴムボートは激しく動揺する(月刊PANZER編集部撮影)。