筆者は、70代目前で勤めていた百貨店が閉店し、無職になりました。69歳の人を雇ってくれる職場はあるのか? と思いながらも、勇気を出してアルバイトに応募してみます。70歳を過ぎても働きたいと思ったきっかけと、いったいどこで働きだしたのかみていきましょう。著書『72歳、好きな服で心が弾む、ひとり暮らし』(KADOKAWA)よりロコリ氏が、体と頭を動かして、若いエネルギーに刺激をもらうことができる仕事についてお話します。

69歳、仕事探しの4つの条件

百貨店に勤めているとき、70代くらいのかっこいい女性が売り場に来られたことがありました。おしゃれだし、姿勢や歩き方がシャキッとしていてどこか普通の人と違う雰囲気を持っている方だな、と思っていたところ、向こうも私に興味を持ってくれたようで、3〜4回お話をする機会がありました。

あるとき「これから仕事なの」とおっしゃるので「なんのお仕事ですか?」とうかがうと、スイミングクラブのコーチをしているとのこと。詳しく聞くと、なんと1964年東京オリンピックに八幡製鐵から出場した、元水泳選手の方だったのです。

もう、さすがというか、ああ、70代でもこんなふうにかっこよくいられるんだ、すごいなあ! と思いました。

母も70歳を過ぎても活動的でしたし、こんな出会いもあり、私には70代はまだまだこれからという感覚がもともとあります。

そんな私が70代目前で、母が旅立つのとときを同じくして勤めていた百貨店が閉店し、無職に。年金だけでは到底生活できないので、新しく仕事を探さなくてはなりませんでした。さすがに、「69歳の女を雇ってくれる職場なんてあるのだろうか?」と不安がよぎりました。

それでも、母の介護も終わり、これからは自由に時間を使えるのだからと前向きに考え、仕事探しに際して4つの希望条件を設定しました。

1.今までに経験のない職種であること  

2.若い人たちに混じって働けること  

3.外が見えること  

4.トイレがきれいなこと

10年間母の介護をしていたので気分を変えたかったこともあり、介護職は候補に入れない。販売職はもう十分やった。以前に派遣された古いショッピングセンターでは従業員用トイレが汚くてすごく嫌だったからトイレがきれいなところで、若い人から刺激を受けられるところがいい。そして外が見える明るいところと考えていったらこの4つになったのです。

そして驚いたことに、この条件にぴったりのところが、近所にできた新しいマクドナルドだったのです。特に思ったのは、このマックは3方向が窓で、なんというか、気の巡りがとてもよく気持ちよいということでした。「この空間の中で働きたい、ここだ!」と直感的に感じました。

「スタッフ募集!70代の定年退職者も活躍中!」のチラシを見ておそるおそる応募したい旨を伝えると、すぐに面接の日取りが決まりました。

行ってみると、当たり前ですがスタッフは若い人ばかりです。百貨店に勤めていたときの黒のスーツで来ちゃったけど場違いだったかな、変に思われてないかな……。勢いで申し込んでみたけれど、いざ面接当日になったらどんどん緊張してきました。

面接をしてくれたのは、30代と思しき店長。自分の半分くらいの年齢だなと思ったらますます緊張してきましたが、とても話しやすい方だったので、なんとかにこやかに応対ができました。そして2日後、お電話をいただき、晴れて採用となったのです。

アルバイトは「お金がもらえる楽しいジム」

マクドナルドでは、たくさんあるメニューを覚えて複雑なオーダーを受けるのはとても無理と思ったので、2階のフロアを希望し、トレイを運んだり、清掃をしたりといった仕事をしています。

シフトは、はじめは6時間×週5日でしたが、若い子から「なんでそんなにいっぱい入るんですか〜?」と聞かれ、ふと周りを見ると、みんなはもっと短時間で好きなときに入っているようです。フルタイムで百貨店で働いていたときの感覚で長時間入っていましたが、だんだん疲れてしまい、YouTubeが収益化できてからは週2日、土日のランチタイムの2時間だけにしています。

ただ、週末だけにすると、平日はずっと家にいることになるので、金曜日になるとなんだか体がドテッとした感じが……。ですから、理想は週の真ん中の水曜日にも出ること。そうすると1週間のリズムがちょうどよく、ダイエットにもなり、若い同僚たちと話すのも楽しくて気分転換になり、一石三鳥。「お金をもらえるジム」だと思ってがんばっています。

マクドナルドでの仕事は、広い店内を歩き回るのでけっこう疲れますが、百貨店のようにノルマがあるわけではないので精神的にはずっと楽です。

最初は、困ったお客様が来たらどうしよう? ということが心配でしたが、実際にはとてもよいお客様ばかりでした。びっくりしたのは、ほとんどの方が、私がトレイを下げに行くと「ごちそうさまでした〜」とか「ありがとうございます」といってくれること。私自身はファストフード店で「ごちそうさま」なんていったことがなかったので感激しました。

ちょっと困った子たちもいます。そういうときは、「ここは飲食店だからね。公園や学校とは違うから静かにしようね」と注意したりもします。

この店舗には私の母校の後輩たちもよく来るのですが、彼女たちがグループで来て、足をおっ広げてだらしなく食べていたときは、さすがに見過ごせなくてこういいました。

「あのね、マックのおばちゃんとしてじゃなくて、あなたの高校の先輩として注意してるからね。ここはあなたのお家じゃないのよ。もっとかっこよく座って食べようよ」

最初はきょとんとした顔をしていましたが、「マックの人」ではなく「高校の先輩」といったことがよかったのか、「はい!」といって座り直してくれました。

マクドナルドでは、同僚も大学生など若い人が多いので、彼らの若いエネルギーの中にいると、自分も若くなった気になれます(錯覚ですが)。

これまでは、休憩室で「その服かわいいやん、どこで買ったん?」といった雑談をするくらいでしたが、今回出版のために店で撮影をさせてもらい、みんなにYouTubeのことがバレたことで、「応援してます! チャンネル登録しましたよ!」「インスタフォローしました! 私のもフォローしてください」などと声をかけてもらえるようになりました。新しくちょっと深い交流が始まったのがとても嬉しいです。

この店舗で1番高年齢の方は、70代の男性で、朝の早い時間に働いているようです。外国の方もたくさん働いていて、この間も、長いカタカナの名前の若い男の子と同じ時間帯を2人で担当し、「どこの国の人?」なんて話をしました。

たくさんの刺激をもらえて好きなタイミングで好きな時間働けますし、何よりクルー全員で一丸となってスピーディーに臨んでいくワンチーム感が、とても気に入っています。

ロコリ

YouTuber

(※写真はイメージです/PIXTA)