通常、多くのナレッジワーカーにおいて、仕事をする上で計画は立てても、行った内容を時間とともに記録する人はほとんどいないのではないでしょうか。

にもかかわらず、「今週は、来期の計画書づくりにほとんど費やしたよ」「今日は1日中クレーム処理だった」などといった感想を言います。しかし、実際に費やした時間は、1日2~3時間程度、「ほとんど」には程遠い実態だったことがよくあります。

ナレッジワークの時間の使い方

かつて、100年以上も前に、生産性向上の仕組みを開発したフレデリック・テイラーは、工場内での作業、鉄を取り上げる時間、運ぶ時間、次の作業に移る時間等、どれくらい時間がかかるかをストップウォッチで測り、各作業にかかる時間を分析しました。そして、生産性を上げるためにどのように時間を使えば良いのかを研究しました。

現在においても、この考え方は生産現場や工場などで受け継がれており、「PDCA」のサイクルが回っています。

ところが、この「ものづくり」の基本的な考え方は、ナレッジワークにおいては関係ないと考える人が多く、自分自身の仕事を正確に振り返り、時間の使い方を検証するプロセスには、私自身含めほとんどお目にかかったことはありません。

時間自由のタスクにかかった時間

普段の仕事がほとんどルーティンワークの人たちは、時間割の中で仕事をする人たちが多く、自分の作業内容は分かりやすいでしょう。仮に、ルーティン以外の作業が起きた場合も、ルーティン作業の進行に支障が出るため、時間の振り返りも比較的簡単です。

問題は、自分で作業内容を組み立てる必要のある人、あるいは、タスクはあっても、時間は自由に設定できる人です。

私たちが行う仕事には時刻が決まっている「アポイントメント」(会議や商談、時間指定の作業等)と、時間的な制約の少ない「タスク」(書類の作成や資料収集、計画等)があります。

アポイントメントが伴う作業は、決めた時間に行いますから、そのまま実行記録となりますが、タスクの場合、この時間にこの仕事をすると決めていたとしても、メールや電話、飛び込み仕事などが起こり、あとからでは正確な時間を記録することは簡単ではありません。

どれだけ「些事」に時間を取られているか

ピーター F. ドラッカーの「汝の時間を知れ」はあまりにも有名ですが、自分の時間の使い方を正確に理解するには、記録作業が必要です。ドラッカーの言葉を引用します。

『時間の記録をとり、その結果を毎月見ていかなければならない。最低でも年二回ほど、三、四週間記録をとる必要がある。記録を見て日々のスケジュールを調整し、組み替えていかなければならない。しかし半年も経てば、再び仕事に流されて些事に時間を浪費させられていることを知る。時間の使い方は練習によって改善できる。だが、たえず努力をしないかぎり、仕事に流される。したがって次にくる一歩は体系的な時間の管理である。時間を浪費する非生産的な活動を見つけ、排除していくことである』(『ドラッカー名著集 経営者の条件』ピーターF. ドラッカー著)

私たちの仕事には、意外なほど雑多なことが多く、いわゆる「無駄な仕事」や「集中力の欠如」によって、多くのことに時間を使われてしまっています。

自分の時間をどのように使っているのかを理解し、どれだけ「些事」に時間を取られているのかを知る必要があると言っています。

なぜ振り返ることができないか

生産性向上に役立つことがわかっているのに、振り返ることをしないのはなぜでしょうか。

ひとつは、すでに自分が「生産性の高いナレッジワーク」をしている時間はほとんどないことを自覚しているケースです。その事実を受け入れたくないのでしょう。

しかし、現在地を知ることができなければ、目標を立てることもできません。たとえ、今は自分の思い描くクリエイティブな仕事が1日に1時間しかできていないとすれば、1時間30分、次は2時間と増やせばいいことです。成長のためには、今の自分を知る必要があります。

もうひとつは、突然の依頼や緊急事態が起こることが多すぎて、事前に立てた計画がほとんど意味をなさないといったケースです。

「忙しい」と常に思っているにもかかわらず、知的生産性がまったく上がらないことは、できる人ほど陥るパターンで、他者からの依頼事項があまりにも多い人に多く現れます。

アウトプットも記録する

作業を記録する際には、自分が行った内容とそれによって得たアウトプットも併せて記録するようにしましょう。

そうすることで、どのような環境、状況、時間の使い方のときに、最大のアウトプットが出るかを理解することにつながります。

時間の使い方を記録するのは意外に大変です。忙しい人は、1日が終わった段階で記録をしても、思い出せないことも多いでしょう。できれば、1日3回程度の振り返り時間を設け、できるだけ詳しく自分の仕事内容を記録してみましょう。

次のドラッカーの言葉を肝に銘じておきたいものです。

『私の観察では、成果をあげる者は仕事からスタートしない。時間からスタートする。計画からもスタートしない。時間が何にとられているかを明らかにすることからスタートする』(『ドラッカー名著集 経営者の条件』ピーターF. ドラッカー著)

時間を浪費しないために。何を行い、何をアウトプットしたか、時間とともに記録する