―[テーマパークのB面]―


3月1日にオープンした「イマーシブ・フォート東京」。かつてお台場に存在した「ヴィーナスフォート」の跡地を活用した話題のテーマパークだ。プロデュースしているのは、これまでUSJ西武園ゆうえんちのリニューアルに携わってきた森岡毅が代表を務める株式会社・刀。否が応にも期待は高まるものだ。

本邦ではじめてとなる「イマーシブシアター」というアトラクションを主体としているようだが、具体的には何が特色で、どういった楽しみ方があるのか。テーマパークラボ代表の中野キューさんに見どころを紹介してもらったのが前回の記事後編となる今回は、「戦略面」について重点的に聞いてみることにした。

◆「シャッター街であること」に違和感がない設定

イマーシブ・フォート東京が話題になった理由の一つ、それは「居抜き」で作られたことだ。もともとヴィーナスフォートというショッピングモールで、ヨーロッパの街並みが忠実に再現されていた場所だった。

「園内の街並みはヴィーナスフォートの内観を活かしていて、雰囲気づくりのきっかけにはなっています。ちなみにアトラクションになっていない部分は、商業施設だったということもあってシャッターが閉まっており、アトラクションの壁になっていたりもします。入り口から20mぐらいシャッター街が続くのですが、ここにも一つ仕掛けがあります。街自体の治安があまり良くないというバックグラウンドストーリーがあるんです。

例えばスパイ・アクション!』という、パーク内の通路を用いたアトラクションでは、マフィアが銃を撃ち、街中で住民を人質に取るというようなストーリーが展開されています。だから、『治安悪化により臨時休業にご理解ください』という案内がマップに書かれているんですよね。『夜間は営業を自粛しているのでシャッターが閉まっている』、と理屈が付く」(中野キューさん、以下同じ)

◆「逆向きのジェットコースター」にも通じる理念

「居抜き」によって、必然的に前の建物から残る部分も、設定をうまく作り込むことで、テーマパークの要素とする。そんな手法がここには見られる。このように、もともとある施設を「再利用」して、うまく新しい体験を作り出すことは、森岡毅がUSJのリニューアルから心掛けてきたことだ。例えば、森岡はUSJジェットコースターを逆向きに走らせることで、その施設を新しいものにした。

「森岡さんがこれまで取り組んできたことの集大成ともいえます。テーマパークで体験できる物語体験の最上位のものを目指して、イマーシブ・フォート東京を作ったんだと思います」

◆これまでのテーマパークと異なるポイントは…

一方で、イマーシブ・フォート東京とこれまでのテーマパークが異なるポイントは「生のエンターテイメントを提供し続ける」ことにあるという。

「今までのテーマパークで実現できなかったのは『生のエンターテインメントを日々提供し続ける』ということ。でも、イマーシブ・フォート東京は、生の演者が常に目の前で何かを起こし続けています。グランドオープンの時に森岡さんが言っていましたが、従来のテーマパークは一度に多くの人数を入れて、そこでみんなに同じ体験をしてもらうことが重要だった。しかし、逆に、もう少し高い金額を取って、生のパフォーマンスや目の前でしか起こらない、より凝縮した体験をお客さんに届けるのが、今回の施設のコンセプトだと。

プレスリリースで書かれているのですが、『ザ・シャーロック』に関しては、アトラクションで48種類のキャラクターが出てくるのに対して、お客さんの参加は180人なんです。また、『江戸花魁奇譚』は出演者15人に対して一度に体験するお客さんの数が30人。どれだけ濃密な体験になっているのかが理解できると思います」

◆沖縄での新テーマパークに経験が活かされるはず

株式会社・刀が、沖縄北部に建設する予定の新テーマパークがジャングリア」だ。どのようなコンセプトになっていくのだろうか。

「イマーシブ・フォート東京は、森岡さんがUSJを離れ、初めてイチから作ったテーマパーク。接客やサービスなどのオペレーション部分でネガティブな意見がネットで出てきていますが、実はそれらはUSJ時代、現場のプロに任せていたところだと思うんです。逆に、さまざまな意見を今後のテーマパーク作りの参考にしていきそうです。

森岡さんのこれまでのプロジェクトのパターンは、小さなプロジェクトでお金やノウハウを貯めて、最終的に大きなプロジェクトを作っていくというものです。USJではジェットコースターを逆走させたり小さめのイベントを行ったりしたのち、最終的にハリーポッターのエリアを作りました。ジャングリアがオープンするときには、イマーシブ・フォート東京でオペレーションへの理解を深めた経験が活かされるはずです

沖縄の密林というハード面に対して、ソフト面では日本初の「イマーシブシアター」運営で培った知見が十二分に発揮されるのではないか。ジャングリアは恐らく日本でも有数のテーマパークになるだろうが、その前にイマーシブ・フォート東京を体験しておきたいところだ。

<取材・文/谷頭和希>

【谷頭和希】
ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)

―[テーマパークのB面]―


商業施設だったことを最大限活かす設定になっている(撮影・中野キューさん)