銀行は社内結婚率が高い職場として知られている。筆者が働いていたメガバンクでも、行内結婚が5割を超えていると聞いていた。

これには様々な理由が考えられる。新卒一括採用なので、結婚適齢期かつ独身の男女が会社に溢れていること。業務上のストレスが多いため、職場に癒しを求めがちなこと。長くても3年で異動するため、人の入れ替わりが激しいこと。挙げたらきりがない。

筆者(綾部まと)は新卒でメガバンクに入行し、地方や都内の営業店で法人営業をしてきた。その中ではキレイな純愛だけでなく、ぎょっとするような恋愛や、汚い不倫もたくさん見てきた。今回は、そんなメガバンクの営業店における恋愛事情をご紹介する。

◆①外回りと見せかけて上司とラブホ

営業店では、課長が5〜8人からなるチームをまとめている。そのチームはお客様取引課と呼ばれ、課が一つしかない小さい店もあれば、第七課まである大きい店もある。課長はだいたい30代、既婚で子育て世帯の男性が多い。

そんな課長が束ねるチームには、22歳の新人や、25〜27歳の二ヵ店目の女性行員もいる。これらの若手行員はまだ経験が浅いため、一人で案件を決めることができない時もある。そのため、取引先に課長についてきてもらうことも多い。これには能力以外の問題もある。

◆根強い差別を受ける女性行員、魅力的な30代男性に惹かれ…

ダイバーシティが進んでいる世の中だが、銀行の営業店が取引する中小企業では未だ男女差別が根強く、若い女性に対して偏見を持つ経営者も少なくない。そのため課長が一緒に行けば、案件がスムーズに進むということも多々あるのだ。

都内の店は取引先が近いため、徒歩で行くことが多い。しかし地方の店では片道車で1時間半という先もザラにある。帯同の際は、往復3時間も二人きりでドライブすることになる。もちろん恋愛に発展しない場合もあるが、中には特別な感情が芽生えてしまうことも……。

20代女性にとって、仕事でも家庭でも先を行っている30代男性は魅力的に映る。同年代の男子と違って、あまりがっついてこないのも高ポイントなのである。

ラブホから出る姿を、支店長に目撃される

支店長が単独で、支店長車に乗って取引先に挨拶回りをしている時のこと。ラブホから課長と、同じ課の女性行員が出てきた。支店長は慌てて車を止めて、様子を伺った。二人は親密な様子で話し合い、和やかな様子で店に戻っていったという。

銀行では店内恋愛はご法度である。何とも時代遅れに感じるが、ルールを破った者への処罰は重い。良くて地方店に飛ばされるか、ひどい場合には関連会社や事務センターに飛ばされてしまい、二度と銀行本体に戻れなくなってしまう。もちろん給料も減る。

◆制裁によって、二人は自然消滅

この課長も女性行員も営業成績が良く、仕事ができる人たちだった。支店長は、そんな二人を失うのは惜しいと考えた。そもそも女性行員の担当する取引先の近くに、ラブホがあることが元凶なのではないか……そこで支店長は担当替えを行った。ラブホ近くの取引先を、別の課員に担当させることにしたのだ。

この急な担当替えにより、二人は感づいたのだろう。両者とも出世コースを歩んでいて、キャリアを失いたくなかった。彼らのやり取りはそっけなくなっていき、傍から見ていて「あぁ、あの2人は終わったんだな」ということが分かった。

◆②新入行員の実家にラブレターを送り続ける40歳

銀行のシステムに名前を打ち込むと、あっという間に住所や家族構成、実家の住所が特定できる。これは時として、恋愛に悪用されることがある。

たとえば、こんなことがあった。40代の男性行員が、22歳の新入行員に恋をしてしまった。毎日せっせとラブレターを書いてこっそり渡すのだが、一向に返事がない。痺れを切らした男性行員は、彼女の実家にラブレターを送りつけた。

彼女の実家は北海道で、両親は驚いた。娘には大学時代から両親公認の彼氏がいて、結婚を見据えて付き合っていたはずだったからだ。彼女は手紙について、両親から問いただされた。しかし半沢直樹の「倍返し」ではないが、ここで終わらないのが銀行員である。

◆「やられたら、やり返す。倍返しだ」女性行員の反撃が始まる

彼女は激怒して、銀行のシステムを使って男性行員の住所を調べ、そこに今まで受け取った手紙を全て送りつけた。彼には妻も子供もいるのに、である。全くめげずに、愛を伝え続ける男性行員。しかし女性行員は先輩には相談したものの、上司に相談することは決してなかった。

それは銀行は信賞必罰ではないからだ。良くて喧嘩両成敗か、最悪のケースには声を上げた方が負けて、飛ばされてしまうこともある。彼女もそのことをよく分かっていたので上には言わずに、手紙送り合戦を続けた。後に片方が異動になり、この恋愛沙汰は解消された。

◆「石橋を叩いて、叩き壊す」恋愛はしても事件には至らない

このように、職場での恋愛が多い銀行員だが、裁判沙汰や離婚にまで発展するケースは少ない。

銀行員は、普段から散々リスクを重視して仕事をしている。火遊びはするものの、相手の家庭をぶち壊しに行ったり、不倫したもの同士で結ばれるという極端な例は、ほとんどない。大きな冒険をしたがらないのは、職業病なのだろう。

<文/綾部まと>

【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother

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