『人数の町』(20)の荒木伸二監督がオリジナル脚本で撮りあげたタイムループサスペンス『ペナルティループ』(3月22日公開)。恋人を殺され大きな喪失感を抱えた男が、自らの手で犯人を殺す復讐を計画。完璧に遂げたはずの復讐だったが、翌朝男が目を覚ますと犯人は生きていて、時間は昨日に戻っている…。本作は、そんな男が、殺人犯に復讐をする日々を“幾度となく”繰り返す姿を描く物語だ。

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多くのタイムループを扱った作品は主人公が意図せずループに巻き込まれるものが主流だが、荒木監督が本作で挑むのは「ループものの典型、現実には不可能な時間軸の修正と、それによる正常化、あるいは改善などからの脱却」だ。恋人を殺された主人公の岩森役を若葉竜也、岩森の復讐相手である溝口役を伊勢谷友介、岩森の恋人、唯役を山下リオ、謎の男をジン・デヨンが演じる“異色のタイムループ”はどのように作られたのか。MOVIE WALKER PRESSでは、若葉、伊勢谷、山下、デヨンの4人に共演を通して感じたお互いの印象や物語の感想、撮影現場でのやりとりなどを和気あいあいと語ってもらった。

■「この台本を書いた人に会ってみたいというのが僕のスタートでした」(若葉)

――本作は荒木監督のオリジナル脚本ですが、最初に台本を読んだ時の感想や物語の印象を教えてください。

若葉「オファーをいただいた時はコロナ禍真っ只なか。一つの言動がきっかけで、揚げ足を取られたり叩かれたりして、周囲がどんどん保守的になっているような状況でした。僕は沸々と怒りのような、破壊衝動のようなものが溜まっていた時だったので、『こんな変な映画を一緒に作りませんか?ぶっ壊しちゃいませんか?』と言われているような気がして、すごく救われたんです。だから即決でしたね」

――作品の内容はすぐに理解できるお話でしたか?タイムループという分かりやすいキーワードはありますが、パッとイメージするタイムループものとはかなり違う印象です。

若葉「最初は全然(理解できず)。まず、この台本を書いた人に会ってみたいというのが僕のスタートでした」

伊勢谷「僕は復帰第一作が『やりたいな』と思える作品になったこと自体がすごくうれしくて。時には、前にでなければ、有名にならなければとやってきた仕事もあったけれど、この作品はそういうのを全部抜きにして興味深かったし、若葉竜也と一緒にやれるというのも本当におもしろそうだなと思いました」

――この映画に出たいと感じた具体的なポイントはどこですか?

伊勢谷「逆に言うと、“そういう”ものづくりの仕方をしていないところかな。売れるためにちょっと色めき立つようなドラマをつけたり、キスシーンを入れてみたり、というところにまったく触れていない。ものづくり、クリエイションとしてそういうのは本来好きなタイプじゃないから、荒木監督との作品づくりはおもしろそうだなって感じたのかな」

――山下さん、デヨンさんはいかがでしたか。

山下「荒木監督から『お会いしたい』と言っていただき、脚本の内容も知らないまま、なんの説明もなく『読んでください』という感じのオーディションがあって(笑)。ワケもわからずお芝居をして。そこで監督とたくさん話したわけではないけれど『なんか変な人だな』って思って」

伊勢谷「いま、山下さんが『変な人』って言った瞬間に、デヨンさんがおもしろい顔したよ。『変な人って言っちゃったよ、大丈夫?』みたいな感じで(笑)」

デヨン「いや、“変な人”ってライターさんがメモをしていたのが気になって…」

山下 「良い意味ですよ!(笑)。そこで監督にめちゃくちゃ興味が湧いて、このオーディションに受かって一緒に仕事をしてみたいなって思ったんです。脚本を読んでいない状況だったから、監督の頭のなかを覗いてみたいなっていう感じかな。脚本を読んだらその一部が見えるかなと思ったけれど、結局よく分からなくて(笑)。でも、若葉くん、伊勢谷さんと共演できるのも楽しみでしかなく、結構あっけらかんとワクワクしていました」

デヨン「私は(俳優としての)経験が少ないので、作品を選ぶ権利はまだない立場。作品に誘われたらどこにでもついていきたいということで、出演を決めました!」

若葉・伊勢谷・山下「(一同笑)」

デヨン「私はまだ漢字が読めないので、脚本はアプリで翻訳しながら読みました。でも翻訳に時間がかかるので後半になると前半の内容を忘れてしまって、また読み直すみたいなことを繰り返して(笑)。日本語が難しいからなのか、内容が難しいから理解できないのか、どちらなのか分からなかったけれど、3人が出演すると聞いて『ぜひやりたいです!』という気持ちになりました」

■「劇中での岩森と溝口の関係性の変化にシンクロしていく感じ」(伊勢谷)

――御三方にはどのような印象を持っていましたか?

デヨン「本格的に日本の映画やドラマを観始めたのは5年くらい前から。いまでは1日平均5時間くらいは観ています。そのなかに出ている人たちだから、皆さんは憧れの存在です。私にとって日本(の作品)は夢の世界。だから出演が決まってからは『本当に明日会えるのかな?』『眠れるかな?』という毎日を過ごしました。第一印象は緊張しすぎて覚えていません。読み合わせの時に初めて会ったのですが、プロデューサーさんに『救急車を呼んでください!』ってお願いしたくらい(笑)」

――伊勢谷さんは若葉さんが出るならおもしろそうと思ったとのことですが、伊勢谷さんから見た若葉さんはどんな俳優ですか?

伊勢谷「役者として多くの人が持っているプライドのようなものがまったくない人という印象です。僕自身、シーンを作っていく時にいらないプライドが渦巻いているのを気持ち悪く感じるタイプだから、それがない人とやるのは本当におもしろくて。『伊勢谷さん、ちょっとここどうしたらいいですかね、僕』みたいに普通に訊いてくるんです。すごく珍しいことだから『なんだコイツ』と思うと同時に『おもしれー!』ってなって。劇中での岩森と溝口の関係性の変化にシンクロしていく感じが僕の感情にもあって、余計に楽しくなっていったし、リスペクトにもつながりました。こういう感情を抱ける稀有な存在です。とにかくおもしろい!」

若葉「伊勢谷さんには、隙がない完璧主義者という印象を勝手に抱いていました。でも、現場に来た伊勢谷さんは全然そんなことはなくて…」

伊勢谷「いや、完璧だったな、俺は!」

若葉「いやいや、小学6年生の男の子みたいでした(笑)。こんなに自由でいいんだなって思ったし、その自由さというのは日本映画、そして俳優には必要だと思っています。(考え方や言動が)スクエアな人たちが多くておもしろくないと思っていたので、やっぱりすてきだなって。山下さんは映画をやる前から知り合いでしたが、現場で緊張している姿に『愛らしい人だな』と思いました」

山下「ありがとうございます!」

若葉「僕、“なんにも怖くない”みたいな、現場に慣れすぎている人がちょっと苦手で」

伊勢谷「アハハハ!」

若葉「山下さんは非常に臆病で、決して器用でもない。そこがすごく好感度が高かったです。やっぱり一緒に作品をやってみないと分からないなって思いました。デヨンさんは穏やかで一つ一つ丁寧に確認し合いながらシーンを作ることができて。言葉が通じるというのも正直すごく大きかったです。デヨンさんの共有の仕方、本当はとっても優しい眼差しなどに救われた瞬間がたくさんありました」

伊勢谷「確かに。デヨンさんは日本が大好きなんだよね?」

デヨン「はい。日本の全部に憧れています。住まわせていただけて光栄です」

■「本当に感謝しています。感動的な撮影でした」(デヨン)

――伊勢谷さんから見た山下さんの印象は?

伊勢谷 「『堂々としてるな、この人』って思いましたね」

山下「私も伊勢谷さんのことは若葉くんと一緒で完璧な人というイメージでした。でも、本読みの時に『こういう言い方できますか?』と荒木監督に訊かれた時に、『よく分からない』みたいに答えていたのが意外で」

伊勢谷「え?やろうとはしてたよね。話を端折らないでね。俺のレピュテーションが悪くなるようなことはやめてよ(笑)」

山下「そういう話じゃないから大丈夫です(笑)。分からないことは分からないっていう人なんだなって。人間の“ヒビ”を見た感じがしたんです」

伊勢谷「でも、ちょうどシーンに合って、結果よかったでしょ(ニヤリ)」

山下「味になってました(笑)。現場にもスケボーでひゅーっとやってくるし。固定概念がない、自由な大人という感じにすごく憧れました。若葉くんは作品にすごくこだわりがある人というイメージがあって」

若葉「『カッコつけんな!』って言われたことあるよね。『(番宣の)バラエティとかもやれよ!』って言われたことも… (笑)」

――書いて大丈夫ですか?(笑)

山下「大丈夫です、事実なので!」

伊勢谷「アハハハ!」

山下「若葉くんは本当に怒らない人、そしてすごく柔軟な人。現場での若葉くんには前からとても興味がありました、どういう感じで(お芝居を)やっているのかなって。だけどイメージはほとんど変わらなくて。いつのまにかお芝居をして、いつのまにか終わっていてという感じ。(恋人という今回の)役柄との関係性も含めてすごくやりやすいという印象があります。若葉くんと伊勢谷さんには子どもの心というのかな、遊び心があるという共通点を感じました。デヨンさんはお花見かなにかの席で会ったんだよね?」

伊勢谷「遊び歩いてるじゃん!」

若葉「いや、飲み歩いているんです(笑)」

山下「その時からすごく優しい方だなという印象。現場で絡みはなかったけれど、私が癒しを与えられるタイプの人間ではないので、ヒロイン的な立場を担ってくれたと思っています(笑)」

デヨン「私は山下さんと伊勢谷さんとはセリフを合わせるシーンがなくて…。あ、これ、ネタバレになりますか?」

若葉「急に(笑)」

伊勢谷「大丈夫だよ、続けて!」

デヨン「現場で皆さんの演技を見学させてもらったのですが、本当にすばらしかったし、とても優しくしていただいたので、本当に感謝しています。感動的な撮影でした。若葉さんと一緒のシーンではいろいろとお芝居について話したかったけれど、緊張でそれどころではなくて。大事なシーンだったので若葉さんの邪魔をしたくないという気持ちもあって、あまりたくさん話はできませんでした。でも『いまの大丈夫でしたか?』と訊いた時に『すごくいい、好きです!』と言われて心からホッとしたのを覚えています」

■「観る人によってテーマが変わる映画だなと思います」(山下)

――ひとことで表現するのは難しい作品です。本作をどのようにおすすめしますか?

伊勢谷「なんだろう。深い心の闇が広がっていると感じられる状況で、自分を見つめ直すきっかけになるような気がするし、闇がある人には余計に響くと思います。映画に関わったキャストやスタッフがいいというのもおすすめできるところだけど、やはり、物語が内包している根本的な人間の暗いものがシンクロしていい方向にいくんじゃないかな」

若葉「“映画”に触れたことのない人たちに届けたいと思っています。いろいろな娯楽が溢れているなか、『なにを見せられたんだろう』と思えるものが出来上がったことが本当にうれしくて。興味を持ってもらえたら、映画館に、その体験をしに来てほしいです」

山下「観る人によってテーマが変わる映画だなと思います。愛とは、友情とは、生きるとはみたいな。観た人が汲み取っていく映画になる気がしています」

デヨン「被害者が加害者に復讐できるチャンスがあったら、自分だったら殺せるかというのを考えさせられる映画ですが、そのなかで(溝口と岩森)2人の関係が変化していく姿を見てさらにいろいろ考えるんじゃないかなと思います。“考える”、そんな体験をしたがっている人が観てくださったらうれしいです」

取材・文/タナカシノブ

映画『ペナルティループ』(3月22日公開)若葉竜也、伊勢谷友介、山下リオ、ジン・デヨンにインタビュー!/撮影/野崎航正