カラパイアの元の記事はこちらからご覧ください

Image credit: MPA/Ma, Jing-Ze et al

 余命あとわずかと言われているオリオン座に輝く恒星、ベテルギウスの表面はボコボコと激しく動いている。その理由は何なのか?

 これまでは、狂ったように高速回転しているからと考えられてきたが、実際には激しく沸騰しているのかもしれないことが、新たなる研究で明らかになった。

 ベテルギウスの自転速度は1秒間に5kmと推測されていた。老いた星としては桁違いの速さだが、本当は激しく回転していない可能性もあるという。

【画像】 死にゆく恒星、ベテルギウス

 オリオン座でオレンジ色に輝く恒星(赤色超巨星)ベテルギウスが死にかけていることは有名な話だ。

 2019年、ベテルギウスに異変が起き、いよいよ超新星爆発を起こすのではと注目されたのは記憶に新しい。だが結局爆発は怒らなかった。

01

オリオン座(画面左上)の一角を担うベテルギウス / photo by iStock

・合わせて読みたい→ベテルギウスが再び輝きを取り戻しつつある兆候。超新星爆発は免れたか?

ベテルギウスは本当に高速回転しているのか?

 遠くにある星が自転する速さは、その左右の光の違いを観察することでわかる。

 通り過ぎた救急車サイレンが突然低くなるのは、車が近寄ってくる時は音の波長が短くなるのに対して、遠ざかる時は長くなるからで、これはドップラー効果と呼ばれている。

 星の自転によって、これと同じことが光の波長に起きる。

 自転によって地球に近づく側の光は、その波長が短くなるのでスペクトルの青方向に偏る(青方偏移)。それとは逆に、地球から遠ざかる側の光は赤に偏る(赤方偏移)。

4

赤方偏移と青方偏移 / image credit:Aleš Tošovsky / WIKI commons

 この青方偏移と赤方偏移の様子から、星が自転する速度を計算できるのだ。ベテルギウスの場合、秒速5km。これは異常なまでの速さで、老いた星として理論上考えられるスピードの2桁も速い。

4

シミュレーションとアルマ天文台の観測データとの比較 / image credit:Ma et al., ApJL, 2024

高速回転ではなく熱対流の沸騰の可能性

 一体何が原因でベテルギウスは狂ったように回転しているのか? だがドイツ、マックス・プランク天体物理学研究所の馬竟沢氏らは、本当は目の錯覚ではないかと考えた。

 ベテルギウスは寿命がつきかけた星で、燃料をほとんど使い果たし、とんでもない大きさに膨れ上がっている。

 そしてその表面では、高温の物質が沸騰して湧き上がり、冷えては下に沈むというサイクルが起きている。

1

 こうした「熱対流」は、太陽でも起きている。だがベテルギウスのそれはずっと激しく巨大なものだ。

 ベテルギウス自体は、木星軌道と同じくらいの大きさで、1つの対流構造(対流セル)は、太陽を周る地球の軌道と同じくらい大きいのだ。

 もしかしたらこの激しい熱対流による沸騰が、超高速の自転と勘違いされているのかもしれない。

 馬氏らのチームはこれを確かめるため、ベテルギウスのような巨大な対流が起きており、なおかつ”自転していない赤色超巨星のシミュレーションモデルを作り、それが地球からどのように見えるのか調べてみることにした。

 その赤色超巨星モデルは自転していない。それでもアルマ天文台で観測されたベテルギウスのように見えるのなら、高速回転は勘違いである可能性が高い。

 はたしてシミュレーションが描き出したのは、巨大な対流セルが赤色超巨星の片側から上昇し、もう片側では崩壊して内側に沈んでいく姿だった。

 それは観測データ上、自転と解釈することもできるものだ。

 実際、馬氏らのシミュレーションの9割が、アルマ天文台で観測されたベテルギウスのように、1秒間に数kmの猛スピードで自転しているように見えたという。

3D simulation of Betelgeuse's boiling surface mimicking rotation

ベテルギウスでは何が起きているのか?

 この結果は、ベテルギウスが超高速自転していないという決定的な証拠ではない。だが少なくとも現時点では、本当に超高速回転しているとも断定できないという。

 いずれにせよ、それは興味深いものだ。もしベテルギウスが命を燃やし尽くすかのように激しく自転しているのなら、周辺にある小さな星を飲み込んで、勢いづいたのかもしれない。

 そうではなく、本当はもっとゆっくりと回転しているのであれば、不安定な星の観測は、かなり慎重に行わねばならないという教訓になる。

 フランス国立科学研究センターの天文学アンドレア・キアバッサ氏は、「ベテルギウスのような沸騰する巨大な星については、わからないことがたくさんあります」と、プレスリリースで語っている。

それはどのように振る舞い、どのように質量を失うのか? そこからの流出でどのような分子が形成されるのか? そしてなぜベテルギウスは突然暗くなったのか?

私たちはコンピュータ・シミュレーションを改良するために必死に努力していますが、アルマ天文台のような望遠鏡から得られるデータがもっと必要です

 現在の研究では、ベテルギウス超新星爆発を起こすまでにはまだ10万年以上時間がかかると推定されているが、ベテルギウスにはまだ多くの謎が残されている。

 オリオン座の一角が消えてなくなる瞬間を、もしかしたらみられる可能性0%ではないかもしれないので、天気のいい日はオリオン座をチェックなのだ。

 この研究は『The Astrophysical Journal Letters』(2024年2月16日付)に掲載された。

References:Highlight: March 2024 | Max Planck Institute for Astrophysics / Betelgeuse's Wild Surface Seems to Be Baffling Our Telescopes : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo

 
画像・動画、SNSが見られない場合はこちら

ベテルギウスがボコボコ動いている理由は、表面が激しく沸騰しているからなのかもしれない