中国製旅客機「ARJ21」は、かつて同国でライセンス生産をしていた米国産モデル「MD-90」のコピーといわれています。実際、どこが同じで、どこが異なるのでしょうか。

中国はかつて「MD-90」のライセンス生産を担当

2024年2月に開催されたシンガポール航空ショーで広く国際デビューした中国製リージョナル機「ARJ21」。報道によると同国はあくまで独自開発としているものの、世界的には「アメリカのヒット機の設計を流用して設計された」とみなされています。これらの2機は、どれほど似ているのでしょうか。

そのベース機とされているのが、かつてのアメリカに存在した航空機メーカー、マクダドネル・ダグラス社(現ボーイング)によって開発された「MD-90」シリーズです。

この機は2機のエンジンが胴体最後尾に備わり、水平尾翼が垂直尾翼の上部についたT字型の尾翼デザインが特徴です。国内でもJAS(日本エアシステム。現在はJAL)が導入していたことでも知られています。

ARJ21も、機体サイズこそMD-90よりひとまわり(12m程度)小さいですが、機首周りや尾翼の配置など全体像は、MD-90ほぼ同様といえるほど酷似しています。

そして、過去に中国はMD-90のライセンス生産を担当していたことがあります。このときの経験を活かし、ほぼトレースする方針で開発されたのがARJ21というのが、海外の航空関係者間における常識とされています。

実際にARJ21は、MD-90シリーズの完全なるコピー機なのでしょうか。

ショーで遠目ながら実機を見たところ、外観から違いがありました。ジェット旅客機ならたいていは機首に定番としてある、速度計測装置(ピトー管)の付く場所が両機種で異なっているのが分かりました。

この装置は、飛行中の気流を受けて速度を測るためのもの。ほぼすべての航空機は、センサーとなる“ひげ”のような管を前に向けています。MD-90シリーズはこの管が風防前にありますが、ARJ21は脇へと移っています。付き方も、MD-90は機首先端から風防への傾斜と平行ですが、ARJ21は傾斜とかかわりなく、脇の管の先端がやや下がっています。

正確な飛行速度を得るには、管の先端を気流にまっすぐ向けなければなりません。MD-90の管が機首の傾斜に沿って流れてくる気流を受けるため、外板に平行なのは理解できますが、ARJ21はなぜわずかに下がっているのでしょうか。

「ヒゲ」から見える2モデルの相違点

旅客機は長距離を水平飛行する際は、わずかに機首を上げます。ARJ21はこの機首上げ姿勢に合わせて、管が気流にまっすぐ向くようにしていると、筆者は推測しています。そうなると、MD-90と水平飛行中の姿勢が異なることも意味し、あながち完全なるコピー機ではない、ということになるでしょう。

また、ARJ21の主翼は、実はウクライナアントノフが設計した新しいものを採用しているとされています。

MD-90は1960年代に開発された「DC-9」というモデルの派生型にあたります。つまり基本設計自体はかなりクラシカルで、新しく設計した主翼を付けたとしても不思議ではありません。

新しい主翼の特性や、最適な取り付け角度がMD-90 から変わった結果、飛行姿勢も異なるようになり、管の取り付け場所も角度も変わったのかもしれません。それならば、コピーでなく自分たちで設計したとも主張できます。

ただ、シンガポール航空ショーでは機内は公開されず、接するほど近づいて観察はできませんでした。このため、速度計測装置の違いから、ARJ21がコピーでないと判断するのも早計です。

中国が今後とも、今後も速度計測用の管を機首脇に付けた設けた理由も含めて自ら相違点を多く語らなければ、これまで通りARJ21はMD-90シリーズのコピーと、世界的にはみなされ続けることでしょう。

なお、ARJ21はこれまでほぼ国内運航に限っていた姿勢を一転させて、シンガポール航空ショーで計3機を展示するという大盤振る舞いを見せました。これは、中国が今後、この機を海外へ積極的に売り込むと見て間違いありません。

シンガポール航空ショーに展示されていたARJ21(加賀幸雄撮影)。