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 背中に8枚の殻が並ぶ軟体動物「ヒザラガイ」は、硬い殻に目玉を埋め込んだ世にも珍しい生き物だ。風の谷のナウシカに登場する王蟲にどことなく似ているが、殻に目が複数あるところまで一緒だったとは驚きだ。

 ヒザラガイの殻には小さな穴やレンズが無数に並んでおり、それらが全て目として機能するのだという。光しか感じられない目もあれば、形まで認識できる本物の視覚を持つ目もあり、殻はほぼ目に覆われているのだ。

 科学者たちは、この独特な視覚システムがどのようにして進化したのか、その謎をついに解き明かした。ヒザラガイはこれらのユニークな目をかれこれ4度も独自に進化させてきたのだという。

 

【画像】 ヒザラガイの殻にある無数の目

 ヒラサガイは岩場やサンゴなど硬いものに付着して生息する、楕円形の扁平な体の背面に一列に並んだ8枚の殻を持つ軟体動物だ。日本はもちろん世界中の海で見られ約900種存在するといわれている。

 その多くは草食性で、強力な口器で岩をかじり付着藻類を削り取って食べる。そんなヒザラガイの甲羅のような殻に光を感じる器官があることは、すでに知られていた。

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ヴァージン諸島の岩にしがみつくヒザラガイ / image credit:Douglas Eernisse

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 だが、この「エステート(aesthete)」という器官はただ光を感じられるだけで、視覚とまでは言えなかったが、じつはきちんと視覚がある目が2種類も存在したのだ。

 その1つが、「シェルアイ(shell eye)」という球根のような器官だ。「アラゴナイト」という鉱物製のレンズが備わっており、きちんと形まで認識できる。

 また別のグループの殻には「アイスポット(eye spot)」というもっと小さな器官が並んでいる。その一つ一つは、昆虫やシャコの複眼のパーツにも似ており、個々のピクセルのように機能する。

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ヒザラガイの目。黒い斑点がきちんと見える目で、小さなツブツブは光の実を感じ取るエステートと呼ばれる器官だ/Image ccredit:Wyss Institute at Harvard University

ヒザラガイの目の進化の歴史

 ヒザラガイは、このユニークな目をどうやって獲得したのか?

 それを知るために、カリフォルニア大学サンタバーバラ校をはじめとする研究チームは、化石の比較やDNAの分析などを通じて、ヒザラガイの目の進化の歴史をたどってみた。

 そこから判明したのは、ヒザラガイ全体では2タイプの目がそれぞれ2度独立して誕生しているということだ。つまり、ヒザラガイは合計4度目を発明した。

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 しかも面白いことに、同タイプの目を進化させたのは、近い親戚グループではなく、数百万年離れたかなり遠い親戚グループなのだ。

 ヒザラガイにとって最初の目はアイスポットだった。それが誕生したのは、恐竜が出現した三畳紀(2億6000万~2億年前)のことだ。

 そしてジュラ紀(2億~1億5000万年前)になると、また別のグループが今度はシェルアイを作り出した。

 シェルアイは白亜紀(1億5000万~1億年前)にまたもや発明される。これを発明したのはアヤヒザラガイ亜科(Toniciinae)とウニヒザラガイ亜科(Acanthopleurinae)の仲間だ。

 そして最後、古第三紀(7500万~2500万年前)にまた別のグループがアイスポットを進化させた。

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ヒザラガイの殻を拡大したもの。無数の小さな穴はヒザラガイのいわば目だ。エステート(左、緑丸)は、ただ光を感じることしかできない。だがシェルアイ(中央、青丸)とアイスポット(右、赤丸)には本物の視覚がある/Varney et al., Science, 2024

ヒザラガイが何度も目を進化させていった理由

 だが一体なぜヒザラガイは、こう何度も目を進化させたのだろう?

 その理由はまだよくわかっていないが、ヒザラガイの目について1つ興味深いパターンが確認されている。

 それは視神経が通る殻の開口部の数と目の複雑さとの関係だ。

 すなわち開口部が少ないグループほど、数は少ないかわりにより複雑な目を進化させている。その反対に、開口部が多いグループほど、数は多くてもシンプルな目になる。

 こうした進化の歴史を紐解くことで、遠く離れた種がときに同じ特徴を進化させる理由を理解できるようになるだろう。

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photo by iStock

 研究チームは現在、ヒザラガイの目の構造が視覚情報を脳に送る仕組みについて調べているところだ。

 また別の研究によれば、シェルアイの場合、それが捉えた視覚情報は全身に伸びるリング状の神経構造に送られているらしい。

 そのときに活性化したリング状視神経の位置に応じて、ヒザラガイは周囲にあるものの位置を感じることができるそうだ。

 この研究は『Science』(2024年2月29日付)に掲載された。

References:Unraveling the mystery of chiton visual systems | The Current / Researchers Solve Mystery of The Sea Creature That Evolved Eyes All Over Its Shell : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo

 
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