不確実性が高まるなか、未来予測に基づくビジネスがますます困難を極める現在。一方で、世界は地球温暖化や人口問題、エネルギー問題、国際秩序の変容といったさまざまな難題に直面しており、そこには間違いなく未来を拓く「商機」が潜んでいる。本連載では『グローバル メガトレンド10――社会課題にビジネスチャンスを探る105の視点』(岸本義之著/BOW&PARTNERS発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。起業や新規事業の創出につながる洞察を得るべく、社会課題の現状を俯瞰・分析する。 

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 第6回目は、飛躍的成長を遂げた中国の今後を占いつつ、国家間パワーシフトが「経済」によって引き起こされている現状と今後を読み解く。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ「未来予測」は当たらないのか? 「メガトレンド」と社会課題の関係
第2回 日本が連続受賞した「化石賞」とは? 脱炭素社会の実現に向けた世界の動き
第3回 水素、アンモニアは脱炭素の切り札になるか? 経産省も期待する新技術とは?
第4回 2058年に世界人口は100億人へ、「一足飛び」の成長が期待できる有望市場は?
第5回 サントリー、JTなどの海外企業の買収で考える「経営のグローバル化」とは?
■第6回 「アメリカ側」vs.「中国側」の先へ・・・世界が向かう「多極化」とは?(本稿)


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国家パワーはこれからどうシフトしていくのか

■中国の繁栄はまだ続くのか

 2000年以降、中国の経済成長は際立っていました。

 14億人の人口を抱える国ですから、都市部の経済発展が一段落しても、まだ中堅都市の発展が続くでしょうし、そのあとにまだ農村部にも多くの人口が残っています。

 さらには在外の中国人(華僑、華人)たちも経済的に成功しています。

 華僑とは中国の国籍を持ったまま海外で生活をしている人、華人とは居住国の国籍を取得して海外で生活をしている中国人というような意味で使われています。東南アジアで経済的に成功している財閥も、多くは華僑、華人系が占めています。

 人口の多さと、海外でのネットワークの広がりを考えると、「中国人」経済の発展はさらに続くと考えられます。インターネット利用者で見ても、中国発祥のバイドゥテンセントアリババにはすでに巨大な利用者数がいます。人口の多さで有利なのは、ハイテク系の学生や研究者、起業家の人数も非常に多いという点です。こうした人材が多くいれば、新たな技術が出てくる可能性も高くなります。

 しかし、一党独裁の政治体制が長持ちするかは不透明です。中国は旧来の社会主義を脱して資本主義を取り入れましたが、中国共産党の一党独裁は残しています。経済発展が続くほど貧富の差は拡大し、汚職に手を染める役人の腐敗も進み、民衆の不満が高まっていくことは間違いありません。

 中国共産党の幹部たちは、「旧ソ連の崩壊」を見たので、国内(特に周辺部)での不満の高まりに対しては敏感で、これらに対する政府の統制を強めています。

 ハイテク系企業に対する統制を強めているのも、政府よりも強い影響力を持つ企業が現れることを嫌っているからと見られています。習近平国家主席が任期制限を撤廃したのも、より集権体制を強化して民衆の不満を押さえ込まないといけないという危機感によるものと言えます。

 1980年代以降の中国の「改革開放」路線の頃は、アメリカをはじめとする西側諸国は、「これで中国も徐々に民主化していくはずだ」と楽観視していました。経済発展をさらに続けるためには、グローバル化をさらに強めることが必要で、西側の経済体制と同質化していくと期待されていたからです。

 しかし、14億人もの人口がいると、経済全てをグローバル化させなくても成長が可能で、国内の締め付けは厳しくしながら、海外で儲けるというような、二兎を追うことも可能でした。

 しかし、中国の最大の弱点は、民衆の不満を押さえつければ押さえつけるほど、その不満が解消されずに蓄積されていくということです。

 本来であれば、そうした不満が解消するように、失業者対策などを充実させるべきところですが、景気対策としての不動産開発に資金を投入することを優先させてきたため、日本のバブル崩壊や、アメリカのリーマン・ショックのような経済危機を引き起こす可能性が高まっています。

 いったんそのような経済危機が起きてしまうと、民衆の不満が表面に出てきてしまいますから、押さえ込むのが難しくなっていくでしょう。

■世界は再び分断されていくのか

 2013年以降、中国は「現代のシルクロード」として、中国から西アジア、中東、ヨーロッパへと広域経済圏づくりを推し進める「一帯一路」政策を進めてきました。

 こうした地域の新興国に経済支援を行って、中国の味方をしてくれる国を増やそうという意図があると見られていますが、「援助に見せかけた支配」ではないかとの批判もあります。

 例えば、スリランカに対しては、経済支援として港湾建設の融資を行ったのですが、その港湾が赤字続きで返済困難に陥ると、港湾の運営権が中国企業にわたりました。

 この件では、最初から交通の要衝である港を獲得することが目的だったとの疑いも持たれています。このため、周辺国も中国に対する警戒心を持つようになってきました。

 かつての東西冷戦時代には、世界が「西側」「東側」に分断されましたが、今後世界が「アメリカ側」と「中国側」に単純に分断されるというわけではなさそうです。特にカギを握るのはインドです。インドは中国との間に国境紛争を抱えてきたこともあり、中国とは関係が良好ではありません。

 インド自体が今後経済成長して、世界第3位の経済大国になることを目指しているので、アメリカ側に単純につくこともなく、第三の道を作り出そうとすると考えられます。トルコインドネシアなどのイスラム文化圏の国も、どちらの側にもつかない形を選択するでしょう。

 つまり、世界は「分断される」というよりは「多極化していく」ことになると考えられます。

■政治パワーから経済パワーへ

「多極化していく」というのは、どういうことでしょうか。アメリカのパワーが相対的に低下していき、中国、インド、ヨーロッパ、日本、そしてインドネシアなどの新興国が、各々にパワーを維持していくようになるでしょう。では、かつての超大国ロシアはどうでしょう。

 2022年のロシアによるウクライナ侵攻は世界に衝撃を与えました。冷静に考えてみると、この裏にある流れは東欧の民主化でした。東欧諸国は経済停滞していた社会主義から脱して資本主義に転換し、その結果として生活水準が大きく改善しました。

 東欧諸国はさらなる経済的発展を目指してEU(欧州連合)にも加盟しました。EU内は関税もなく、人々の移動にパスポートも不要です。旧ソ連の構成国だったバルト三国エストニアラトビアリトアニア)もEUに加盟しました。

 つまり、ロシアのすぐ隣国にまでEUが広がってきたのです。ロシアは天然ガスという資源が出るのが強みですが、GDPで見ると韓国なみ(11位と12位)にまで低下しています。一人当たりGDPではバルト三国より下です。

 もしウクライナまでEUに加盟して豊かになってしまうと、ロシア国民が「次は自分たちも民主化すべきだ」となってしまうでしょう。そうなることを防ぐために、つまりロシアの既得権益層の利益を守るためには、ウクライナを西側の一員にしてしまうわけにはいかなかったのです。

 このことの意味合いは何かというと、結局のところ、資本主義化して、民主化していった方が国民は豊かになれるということです。

 国内に課題があったとしても、その課題を解決するビジネスを自由に起こすことができれば、それで起業した人は儲かりますし、そのビジネスを利用する人々は、かつてあった課題を解決できるわけです。

 社会主義ではそうした民間企業の行動は認められませんでしたし、一党独裁体制でも自由な経済活動が制限されていれば、課題を解決するビジネスができません。

 鎖国していた時代の日本の庶民も「そこそこ幸せ」だったはずです。海外の情報がほとんど入ってこなかったので、産業革命がどれほどの変化を起こしていたのか、当時の日本人は知る由もありませんでした。

 今のロシア人や中国人の多くも(ネット時代であるにもかかわらず)情報を統制されているので「そこそこ幸せ」に感じていることでしょう。しかし、親戚も大勢いるような隣国(ロシア人の中にはウクライナに親戚が住んでいる人も多くいます)で経済発展が起きていることを知ると、自分たちは幸せではなかったと気づいてしまいます。

 もちろん、資本主義には欠点があり、経済的に成功した人とそうでない人の格差が起きてしまいます。しかし、その格差を減らすこともビジネスで可能なのです(第7章でのマイクロファイナンスはその好事例です)。一党独裁の力で平等にしようとしても、それは低所得での平等化にしかなりません。

 このため、多くの新興国の政府は、グローバル化して経済発展することを目指しているのです。経済成長が持続していけば、国内の矛盾も次第に解決していきます。逆に経済が停滞に入ってしまうと、一気に民衆の不満が高まってしまいます。

 独裁的政権を選択した新興国はたいてい経済政策で失敗してしまいます。このため、新興国の多くでは政治的課題よりも経済的課題が優先されるようになり、外資規制などを緩和したり、国営・国策企業よりも民間企業による成長を後押ししたりするようになります。

 その結果、旧来的な政治勢力の地位は、(締め付けや反動はあるものの)長期的には低下していくのです。

 2018年には、日本が主導してCPTPP(環太平洋経済連携協定)という経済協定が締結され、アジア太平洋、北米・中南米の11か国が署名しました(アジアからは、日本、シンガポールベトナムブルネイマレーシア、その他の地域からはオーストラリアニュージーランドカナダメキシコペルー、チリ)。

 これは、太平洋でつながる国々の経済市場を統一化し、大きくすることを目指す協定です。ヨーロッパのEUのように政治的にも統合するものではありませんが、経済・貿易に関して統一的な枠組みにして、農産物や工業製品の多くの品目で関税を撤廃しようというものです。

 まだ具体的な成果が出ているわけではありませんが、こうした取り組みによって、より自由な貿易や投資が行えるようになれば、日本のみならず加盟国の経済活動の活性化につながるものと期待されています。

 本章で見てきたように、現代において国家間のパワーシフトの源泉は経済力にあります。つまりビジネスをやりやすくする新興国がどんどん発展することになります。

 このため、国家間のパワーシフトが起きる際に様々な摩擦が起こるとしても、最終的にはグローバルなビジネスが展開しやすくなっていくでしょう。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ「未来予測」は当たらないのか? 「メガトレンド」と社会課題の関係
第2回 日本が連続受賞した「化石賞」とは? 脱炭素社会の実現に向けた世界の動き
第3回 水素、アンモニアは脱炭素の切り札になるか? 経産省も期待する新技術とは?
第4回 2058年に世界人口は100億人へ、「一足飛び」の成長が期待できる有望市場は?
第5回 サントリー、JTなどの海外企業の買収で考える「経営のグローバル化」とは?
■第6回 「アメリカ側」vs.「中国側」の先へ・・・世界が向かう「多極化」とは?(本稿)


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