映画やドラマ、CMのロケ地として日々撮影が行われている東京都日野市。昨年は映画『PLAN 75』(22)とテレビドラマ妻、小学生になる。」が1年で最も地域を盛り上げた作品とその地域を表彰する「ロケーションジャパン大賞」にノミネートされるなど、数多くの名作のロケ地となっている。また、東京都内のなかでも様々な作品のロケ地巡りが行われているエリア。なぜ日野市がロケ地として選ばれるのか?日野市のフィルムコミッション「日野映像支援隊」のスタッフ、西川智子へのインタビューでその背景に迫った。

『PLAN 75』で倍賞千恵子演じるミチが友人たちとカラオケをした「中央福祉センター」

東京都日野市が福井にも、新潟にも大阪にもなっちゃう!?

日野映像支援隊は、日野市の映像文化発展に寄与することを目的に設立された団体。市内に点在する「人と文化と街環境」をロケ資源として再発掘しながら、暮らし・経済・観光の活性化を目指し、市民の交流づくりを図っている。具体的には、ロケ地情報の提供と案内、エキストラや弁当の紹介などを行う。また、2017年より年刊フリーペーパーとして、「日野市ロケ地マップ」を制作しているのも特徴だ。

そんな日野市がロケ地として選ばれるのは、東京都のほぼ中央に位置していながら自然豊かという立地に秘密があるようだ。「都心から高速で30分で来られる利便性は大きいと思います。そして、高い建物がなく自然が多いので地方設定がやりやすい。テレビドラマ『チア☆ダン』の時は福井設定になりましたし、新潟や大阪、山梨の設定になったこともあります。できれば1か所でまとめて撮りたいというのが制作側の意向としてあるようなので、そういった点で選ばれているのかなと思います」と推察する。

また、行政の運営ではなく民間運営であることも制作側から選ばれるポイントに。「行政が運営している場合、道路なら道路課、公園なら公園課と、それぞれの管轄に相談しなければなりません。ですがうちは、ロケに関する相談窓口を一本化しているので紹介がスムーズなんです」と日野映像支援隊ならではの仕組みを語る。例えば道路での撮影の際、本来であれば制作側は市役所と警察署の両方へ許可申請が必要なところ、6年前より警察署からの許可書を日野映像支援隊が市役所に提出することで撮影が可能になったのだという。これは仲介する日野映像支援隊への信頼の証だろう。

さらに、NPO法人ならではのメリットもある。行政の運営だと公共施設の紹介しかできないのだが、日野映像支援隊は民間の施設も紹介してくれる。「特に個人宅の問い合わせが多く、うちがカギをお預かりしている空き家はものすごく人気があります。ほかにも日野映像支援隊の会員さんのお宅をお借りすることもあります」と話す。ではここからは、近年撮影された作品をピックアップして、ロケ地でのエピソードを紹介していきたい。ぜひロケ地巡りの参考にしてみてほしい。

Netflixオリジナルシリーズのドラマ「御手洗家、炎上する」では、村田杏子(永野芽郁)と御手洗希一(工藤阿須加)の思い出の場所として「ほほえみ公園」が登場する。いろいろな公園をロケハンした末、監督が「ほほえみ公園」を気に入り撮影が決定したそう。「市内の公園では一番人気。普通の公園に見えるんですが、ちょっと高台にあって、滑り台の築山やいくつかの遊具があるのもポイントです」と人気の理由を説明。TVドラマおっさんずラブ」や「帰ってきたぞよ!コタロー1人暮らし」など、数々の作品で使われていることから“イケメンが来る公園”として推しているとか。「おっさんずラブ」の聖地巡礼スポットとしても有名だ。

■普通の会議室が「いちばんすきな花」多部未華子の職場に!

多部未華子、松下洸平、今田美桜神尾楓珠の4人が主演した昨年放送のドラマ「いちばんすきな花」では、多部演じる潮ゆくえが勤務する学習塾「おのでら塾」の撮影場所として、「ひの市民活動支援センター」の会議室が使用された。この場所は社会貢献を目的とする市民活動を支援・促進するための施設。3か月もの間ロケ地として使用できたのは、理解ある市民の方々の協力があってこそだったという。「個々の団体と話し合い、撮影期間中は学習塾の美術が入ったままの状態で使用していただきました。ほかにもスケジュールを調整していただくなど、利用者の皆様の協力なしでは実現できませんでした」と振り返る。さらに、「制作会社さんからしてもスタジオを借りるよりもリーズナブルだったと思うので、ご協力できてよかったなと(笑)。そしてここは取り壊しが決まっている場所なので思い出にもなりました」と笑顔を見せる。

ドラマ「妻、小学生になる。」では、堤真一演じる主人公、新島圭介らが通る土手のシーンが「浅川サイクリングロード」で撮影された。「ここもレギュラー場所だったので、近隣の方々にたくさんご協力いただきました。近くで借りられる広い駐車場がなかったのですが、近くにお住まいの一軒家の方や空き家事業をされている方に、駐車場や支度部屋を貸していただきました。本当にありがたかったです」と感謝を述べる。

■撮影実績を市民に伝えることも大切な仕事

数多くの映画祭を賑わせた映画『PLAN 75』では、倍賞千恵子演じる角谷ミチが友人たちとカラオケを楽しむシーンが「中央福祉センター」で撮影された。ほかにもミチの友人が一人で暮らす一軒家でのシーンでは、日野市内の空き家が使われた。近年ニュースでも取り沙汰される空き家問題の解決法としても興味深い事例だ。一軒家への問い合わせは多いものの、民間施設の借用依頼は難易度が高いという。たとえ制作側がロケ地として気に入って飛び込み依頼をしても断られてしまうことも多く、日野映像支援隊が間に入ることでスムーズに話が進むこともよくあるそう。よそから突然「ロケ地として場所を貸してほしい」と依頼されるより、名前や活動を知っている日野映像支援隊からの依頼のほうが安心できるのは当然だ。

「以前、日野市出身のアーティストの方から母校の小学校で撮影をしたいと問い合わせがあり、校長先生にアポをとってご挨拶に行きました。最初は難色を示されていましたが、そのアーティストの方が日野市出身だとわかると快く貸してくださったんです。地元の出身者ということで安心していただけたのではないかと思います」と過去のケースを振り返る。

こうして市民の方々に協力を得られるのは日野映像支援隊の地道な努力の賜物だ。これまでに、市が刊行する広報誌「広報ひの」にロケ地情報を掲載したり、イオンモール多摩平の森で撮影風景の写真やポスターを展示するパネル展を開催したりして撮影実績を市民の方々に伝えてきた。なかでも年刊フリーペーパー「日野市ロケ地マップ」の反響は大きい。「ロケ地マップを見ながら日野市を巡ってくれる方もいらっしゃるようでうれしいです。また、以前不動産屋に行った際にこのロケ地マップがカウンター置いてあって、これを置いておくと市外から来た人が『この撮影って日野市なんですね!』と言ってれて、イメージアップにつながっていると聞いた時は、作っていてよかったと思いました」と回想する。

「ここ最近は“ロケの街”として認知されてきたので、外で撮影の立ち会いをしていると『日野映像支援隊ですか?』とお声がけいただきます」と喜びを語りつつ、「今後も市民の皆様から応援していただき、制作側からも支持されるような活動をしていきたいです。そして日野市を盛り上げていければ」とさらなる意気込みを見せた。

取材・文/石川ひろみ

浅川サイクリングロードでドラマ「妻、小学生になる。」の撮影を敢行した/提供/日野映像支援隊