ガイア宇宙望遠鏡の観測データをもとに、宇宙の謎を解明する鍵となる、約130万個のクエーサーからなる史上最大の地図がこのたび公開された。
クエーサーは、非常に明るい活動銀河核の一種で、その中心には「超大質量ブラックホール」が存在するため、超大質量ブラックホールの地図でもある。
とは言え、すべてのクエーサーを網羅したものではない。だがボリュームにおいては過去最大規模となる。
この地図は、宇宙がたった15億年の若さだった時代からのクエーサーの輝きもとらえており、宇宙の深淵を見渡す窓となって宇宙構造の秘密を解き明かす貴重なヒントをもたらしてくれるかもしれない。
過去最大となる超大質量ブラックホール(クエーサー)の地図は、欧州宇宙機関「ESA」が運用する「ガイア宇宙望遠鏡」のデータから作成された。
ガイア宇宙望遠鏡の主な任務は、私たちが暮らしている天の川銀河の地図を作ることだ。だが、星空を観測しているとき、はからずも天の川銀河の外にある天体を発見することもある。
米ニューヨーク大学のケイト・ストーリー=フィッシャー氏らの研究チームは、そうして集められた660万個のクエーサー候補をほかのデータと見比べることで、恒星や銀河のような余計な天体を取り除き、本物のクエーサーを特定した。
可視宇宙全体にわたる約 130 万個のクエーサーの新しい地図の作成を説明するインフォグラフィック
クエーサーとブラックホールの関係
「クエーサー」とは、地球から遠く離れた「活動銀河核」の一種で、恒星のような点光源に見える天体のことだ。
内部には超大質量ブラックホールがあると考えられている。太陽の数千億倍も明るく、数十億光年 離れた場所からも観測することが可能だ。
光すら逃れられない巨大なブラックホールがあるというのに、宇宙一明るいのは、この怪物のような天体の強烈な重力によって、周囲にあるガスや塵が引き寄せられるからだ。
そうした物質は、ブラックホールの周りに渦を描くように円盤状に集まる。これを降着円盤という。そしてその際、摩擦によって膨大な熱が発生し、さまざまな電磁波が放たれる。
また降着円盤の一部は、まるでジェットのように、光速に近い速度で噴出される。こうした大量のエネルギーが、クエーサーを明るく輝かせているのだ。
観測地点から見たクエーサーの位置。クエーサーがない領域は、天の川銀河の円盤によって視界が遮られているところ。強く赤方偏移しているクエーサーほど遠い/Credit: ESA/Gaia/DPAC; Lucy Reading-Ikkanda/Simons Foundation; K. Storey-Fisher et al. 2024
宇宙の構造を示す地図
クエーサーの地図は、この宇宙の構造やそこに存在する物質を知る大切なヒントになる。
たとえば、クエーサーが存在する銀河は、「ダークマター(暗黒物質)」という目に見えない謎の物質に囲まれている。だからクエーサーを調べれば、ダークマターについて理解するヒントを得ることができる。
モルワイデ図法を使用して表示された、銀河座標でのクエーサの天空分布地図。パネル (a) は、より信頼性の高い赤方偏移を備えたバージョンであるG
この地図は、だんだんと膨張する宇宙についても教えてくる。例えば、クエーサーの位置を宇宙でもっとも古い光と比べてみるのだ。
この「宇宙マイクロ波背景放射」は、地球に届くまでに、その途中にある暗黒物質によって曲げられる。
だから、地図と宇宙マイクロ波背景放射を見比べてみることで、暗黒物質の分布を推測できる。これが宇宙の膨張を理解する手がかりになる。
ストーリー=フィッシャー氏は、「この地図が新しい科学を後押ししてくれるのは、胸が躍りますね」と話す。
世界中の研究者が今、このクエーサーの地図を使って、コズミックウェブ(銀河をつなぐダークマターやダークエネルギーの網目構造)が生まれるきっかけとなった初期密度の揺らぎ、超空洞(宇宙を巨視的にみたとき、銀河がほとんどない領域)の分布、宇宙を通過する太陽系の運動まで、あらゆることを調べようしているそうだ。
この研究は『The Astrophysical Journal』(2024年3月18日付)で発表された。
References:Largest-Ever Map of Universe’s Active Supermassive Black Holes Released / Largest-ever map of universe's active supermassive black holes released / written by hiroching / edited by / parumo
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