意味もなくグラスに入った赤ワインを傾け三日月を描く夜。
珍しく一人、家の中でグラスにワインを注ぎ、大好物のブルーチーズを切り分け皿に盛り付ける。
今夜は気合が入っている。
なんてったってずっと楽しみにしていた進撃の巨人のマーレ産赤ワインを飲んでいるのだから。 これは、兵団内の中でも偉い人しか飲めない噂のワイン。
肝臓を捧げよ。
夜が溶けてグラスの中はずっしり重く飲むたびに微熱が喉元に残る。
真っ赤なマフラーが巻かれたように温かく心地いい。
漫画や映画の主人公のように前向きでも天才でも努力家でもないけれど、赤ワインの香りをまとっている時だけ人生の主役になれる。
ワインを仲間達と外で飲むと雰囲気に飲まれ瞬く間に奇行種のごとく暴れ出し、葡萄のようなアザを膝に作っていることしばし。 やはりワインはゆったりとした空間で静かに飲むものだと再実感する。
夜はエモーションを連れてくるので、最終話まで見終えてしまった進撃の巨人の愛おしいシーンが脳内で再生される。
『進撃の巨人』
ここ最近で一番感動した作品「進撃の巨人」。
実は大学生の頃に途中まで漫画で読んでいたけれど、どこまで読んだか忘れてを繰り返し、結局途中で止めてしまった。
アニメが完結され、世間で話題になっていたのでミーハーな自分も履修しておくかと軽い気持ちでアニメを見始めたら最後。 全ての作業は停止し、寝る間も惜しんで一週間ほどで全94話見終えてしまった。
渋っていた父親にも全力で布教。 二週間後、60歳近いにも拘わらず私の推しでもあるリヴァイ兵長というキャラクターと同じ髪型・ツーブロックにしていたことには流石に驚いた。
見終えた後は、しばらく放心状態で何をするにも身が入らない。
時間が経てば経つほど少しずつ元の生活に戻っていくけれど、あの時の熱がもうこれ以上遠くへ行かないでよと悔しさを感じるほどだ。
壁の外がどうなっているのか、是非自分の目で確かめてほしい。
夢中になっている作品の赤ワインをグビグビ飲み饒舌になっていると、外からおっさんの「ウォォォォォーーーーーッッッ」という叫びが聞こえてきて心臓止まるかと思った。
最近、深夜におっさんが酔っ払っているのか毎晩叫んでいるの。
映画の感動シーンで雄叫び聞こえてきた時には、流石に駆逐してやるというどす黒い気持ちが溢れそうになる。
基本引きこもっているので雄叫び以外にヒヤッとする経験は少ないけれど、同じくらいヒヤリと冷や汗をかいた経験があったことを思い出した。
芋女サシャ
進撃の巨人の中でこれまた推しのサシャという女性の兵士がいるのだけど、彼女の食い意地は世界一。
いかなる時でも取り憑かれたように食糧を貪り食う。
鬼のような教官の訓練中でも蒸した芋をむしゃむしゃと食べ、なぜ芋を食べ出したか問われると、頃合いの芋だったからと答えるのだ。 挙げ句の果てには教官も食べたいのかな?と芋を分け出すほどの愛されバカ。
私にもサシャのように食べ盛りの頃があった。
大学時代、まだ進撃の巨人を読んでいないのにも拘わらず大阪のユニバで調査兵団の遠征飯に課金し、結構値が張るのに蒸した芋とパンとスープに一欠片のベーコンしかないって萎えるな…と思っていた頃の出来事だ。
お昼前の2限の授業で事件は起こった。
怒れる教授と、歌う焼肉弁当
その日は1限のフランス語の授業の時に友人が帰省したお土産だとちょっと強面な牛の顔の駅弁を差し入れしてくれたの。
いつも購買で豚の生姜焼き弁当ばかり食べていたので、ちょうど違うものを食べたいなと思っていたこともありラッキーと胸を高鳴らせていたんだ。
そのまま、友人たちとは解散し、2限の授業に向かいスマートフォンの電源がしっかり切れているか二重確認を行い準備完了。
この授業はプロジェクターに映し出された昔のアニメーションを見るものだったんだけど、教授がなかなか気難しいの。 スマートフォンをいじったり、アニメーションを遮るような話し声や音を出したら問答無用つまみだされ落単の危機。
…なんだけど部屋が結構暗いので居眠りしていたりこそこそお菓子を食べている人もいたり、なんならいつも炊飯器を持ち込みコンセントにつなげている人もちらほら。
永遠に丸と三角と四角が動いているだけの映像に眠気もさしてきたし、丁度今手元にもらった弁当もあるし、こっそり食べちゃおうと取り出して蓋になっている牛の仮面を持ち上げたんだ。
その瞬間、うさぎ追〜いし、かの山〜♪と一昔前の着メロのようなメロディで「ふるさと」が流れ始めて大パニック。
そういう時に限って、アニメーション静かになるんだよな。 もちろん、教授すかさずリモコンで映像を止めて震度2くらい震え始め、やがて激おこ大噴火。
30秒程度流れた後にメロディは止まったんだけど、犯人探しは止まらない。 「あれほどスマートフォンや電子機器は禁止と言ったはずだ」と一人一人点検が始まった。
当時単位ギリギリを攻めていた自分はどうしても落とすことはできず、名乗り出る勇気はなかった。
私の前に鼻息荒い教授が来たとき、ふざけた駅弁(ちなみにモー太郎弁当というらしい)に気付かれたらどうしようと冷や汗が止まらなかったけど可愛げが全くない真っ黒な牛のビジュアルのおかげかスルーされ安堵。
何事もなく、このままやり過ごせると思ったが、炊飯器ボーイの前に立ち止まったのだ。 机の上から伸びる黒いコードの先には真っ白な炊飯器。
ほのかに漂う甘いお米の香り。
ぼそっと炊飯器ボーイが何かを言った直後、「今炊き上がったから保温になっているんだろうが!!」と教授の声が教室内に響き渡る。
このコンセントは授業中に炊飯器を繋いで置く場所じゃない!!と説教が続き、授業は幕を閉じた。
今でも思い出すたびに、彼に対して本当に申し訳ない気持ちで胸が痛い。
いつか焼肉でも何でもご馳走させてください…。
この世の中には音が鳴る駅弁が存在するので食べる時はくれぐれも注意してほしい。
ちなみに甘めの焼肉がぎっしりと詰まっていて、付け合わせもちゃんと入っているので最高においしーーー!!
マーレ産のこの赤ワインにも合うこと間違いない、もう一度、あの駅弁に会いたい…。
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