マッチング
『マッチング』(内田英治/KADOKAWA

 日常では出会うことがない人との縁を紡いでくれるのが、マッチングアプリの良さ。だが、その一方で、相手の本性が分からないため、思わぬ事態に巻き込まれてしまう危険もある。その怖さを描いたのが、小説『マッチング』(内田英治/KADOKAWA)だ。著者は自身が監督・脚本を務めた『ミッドナイトスワン』で、日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞している。

 本作は、マッチングアプリでの出会いの裏に隠された恐怖に背筋が寒くなる、サスペンススリラーだ。俳優の土屋太鳳とSnow Manの佐久間大介を主演として映画化もされており、2023年2月23日(金)より、劇場で多くの人を震撼させている。

 人を幸せにする仕事に就きたいと思い、ウェディングプランナーになった、唯島輪花。主任コーディネーターという肩書きも得て充実した日々を送っていたが、私生活は上手くいかず。幼い頃に母親が家を出ていったことが心の傷となり、いつまでも続く恋などあるはずがないと、恋愛に対して臆病になっていた。

 だが、同僚から勧められたことで、マッチングアプリに登録。アプリ内で、吐夢という25歳の男性と親しくなり、会う約束を交わす。しかし当日、現れたのは、プロフィールとは別人なほど薄気味悪い男。底知れない暗さをまとった吐夢は自身の不幸な生い立ちを明かし、自分たちの出会いは「運命」と発言。その日以来、吐夢は執拗に連絡を寄越すようになり、輪花は恐怖を感じはじめる。

 そんな時、寄り添ってくれたのが、取引先のマッチングアプリ運営会社でプログラマーをしている、影山。2人は距離を縮めていくが、吐夢からのストーカー行為は止まらず。やがて、輪花は予想だにしなかった危機に直面することとなる。

 一方、世間ではマッチングアプリで出会って結婚した夫婦が惨殺されるという、「アプリ婚連続殺人事件」が発生。被害者は互いの両手を繋ぐように鎖で縛られ、顔をバツ印に切り裂かれるという、あまりにも残忍な手口で命を奪われていた。

 事件解決に挑むのは、自身もマッチングアプリで婚活中の刑事・西山茜。西山は犯人の手のひらで踊らされつつも、真相に迫っていく。

 意外な人物の本性が次々と明らかになる本作はまさに、ノンストップスリラー。特に物語の中盤からは衝撃的な悲劇が続々と起き、「早く先を知りたい」と、ページをめくる手がはやる。

 そして、その先に待ち受ける、まさかのどんでん返しと広がる絶望に唖然。人間にはいくつもの顔があるということを改めて痛感させられ、私は身近な人たちのことを、どこまで知っているのだろうかと自問自答したくなった。

 また、本作に描かれている、輪花を過剰に愛す吐夢の姿を見ていると、「人を心から愛する」とは一体、どういうことだっただろうかと改めて考えさせられもする。

 愛は目に見えず、形も様々。だから、人は自分が思う愛を正しい形だと思い込み、相手に押し付けてしまうこともある。けれど、互いに笑顔でいられる関係を築くには自分の感情を大切にしながら、相手の想いも尊重していくことが大切だ。

 真の愛は、どちらか一方の熱情だけでは築くことができない。そんな気づきが得られるこの物語は、自分が思う“正しい愛“の歪さを知れもする一作。誰が味方で、誰が嘘つきなのか推理しながら、楽しんでほしい。

文=古川諭香

Amazonで『マッチング』を見る

土屋太鳳×Snow Man佐久間大介で映画化『マッチング』。マッチングアプリ×惨殺殺人のノンストップスリラー小説