西アフリカで1万1000人余りの命を奪ったエボラウイルス病の大流行から10年が経過した。現在2種の承認された治療薬が存在するが、必要とされる場所での備蓄が進んでいない。治療薬は、米国の製薬会社リジェネロンとリッジバック・バイオセラピューティクス(以下、「リッジバック」)の 2社が独占的に管理。そして現在、ほぼすべての在庫が米国の国家安全保障とバイオテロ対策用に備蓄されているからだ。国境なき医師団(MSF)は、将来の流行に備え、同治療薬を2社から調達し「ワクチン供給に関する国際調整グループ (ICG)」の下で管理する国際的な緊急備蓄体制を構築する必要があると訴える。

コンゴ民主共和国の赤道州でエボラ対応の第一線に立つ医療チーム=2020年2月8日 (C) Franck Ngonga/MSF
  • 流行を制御する新しい技術

「10年前の世界には、西アフリカのエボラ流行に備えることはできませんでした。抗ウイルス薬がないため、患者さんに治療センターへ来るよう説得するのは難しく、ワクチンもなかったため、人びとを守るには行動を変えるよう説得するしかありませんでした。それはあまりにも時間のかかる、効率の悪い方法であり、そのことが流行の制御を難しくしていたのです」。MSFの公衆衛生専門家であるアルマン・シュプレッヒャー医師はそう振り返り、「有効な抗ウイルス薬ワクチンがある今、病気を予防し、命を救い、流行を制御する技術の導入が可能になりました。でもその大前提は、必要かつ十分な量が利用可能な場合に限られます。だから私たちは緊急備蓄を呼びかけているのです」と話す。

エボラウイルス病は、治療薬が存在しないまま半世紀近く経過した後に、2014年に西アフリカで大流行した。この時、富裕国もこの感染症の脅威に直面し、治療法とワクチンの研究開発資金は劇増した。その後、8億米ドルを超える公的資金と、臨床試験に協力した流行国政府、NGO、学術機関、および治療薬の試験に参加した患者や生存者の総力が結集した結果、2020年に米国食品医薬品局(FDA)は2つの治療薬を承認した。2022年には世界保健機関(WHO)によって推奨され、現在同治療薬はWHOの必須医薬品モデルリストに掲載されている。現在、2種類のワクチンもあり、エボラの予防と流行対応に不可欠な要素をなしている。エボラ対応に重要な薬とワクチンであるが、2014年の流行を引き起こした最も一般的なウイルス種であるザイールエボラウイルスにしか対応できない(2022年にウガンダで起きた流行はスーダン種によるものであった)。

  • 「善意だけに頼っていては、医薬品普及にはつながらない」

治療薬はリジェネロンがインマゼブとして販売している「REGN-EB3(アトルティビマブ・マフティビマブ・オデシビマブ)」と、リッジバックがエバンガとして販売している「mAb114(アンスビマブ)」。エボラの流行時に治療薬を迅速に展開するには、多くの課題がある一方、2020年以降に5回流行した集団感染では、患者の3分の1しか治療を受けていない。流行が最も頻繁に起こる地域では、この治療薬が容易に入手できないからだ。リジェネロンとリッジバックは、特許やライセンスを通じてこれらの治療薬を私的に管理しており、利用可能な治療薬のほとんどすべてを米国が保有・管理している。

MSFの医薬品アクセス・キャンペーンで感染症顧問を務めるマルシオ・ダ・フォンセカ医師は、「この10年間で学んだ明確な教訓のひとつは、民間企業や政府の善意だけに頼っていては、医薬品普及にはつながらないということです」と述べる。「現在、そして未来のエボラ治療薬と予防の技術を、より広く利用できるようにするためには、公的資金で開発された医療技術は、研究開発プロセスの早い段階で全世界への普及を大前提としなければならないことと、治療薬の臨床試験に応じた地域社会の利用を法的に保証することが欠かせません。10年前のような多くの犠牲者を出さないためにも、他のエボラ種を含め、適切な医療手段へのアクセスに格差が生じないようにしなければなりません」

さらにMSFは、エボラ治療薬の全ての特許保有者に対し、使用を許諾して適確に製造できる業者には技術を移転するよう求めている。より多くの製薬会社がエボラ治療薬の製造が可能になれば、将来的な供給量を増やすことができるからだ。

配信元企業:国境なき医師団(MSF)日本

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