TTLのフォトミック

ニコマートFT/FSの発売から2か月後の1965年9月に、ニコンFフォトミックTが発売された。弟分のTTL機が出たので、当然ニコンFもTTL露出計内蔵機に進化しなくてはならないわけだが、ここでフォトミック形式にした利点がフルに活用されることになった。

外光式のフォトミックまでは交換ファインダーに露出計を内蔵する必然性は、それほど重大なものではなかった。ニコンFフォトミックの項で述べたようにファインダー視野内に露出計指針を導入するために交換ファインダーとしたものと推測されるが、単にセレン光電池を用いた外付け露出計ニコンメーターの受光素子をCdSに変えて適当なスペースに電池ケースを設けただけでもよかったはずである。

それがTTLの時代になって、いよいよフォトミック形式の本領を発揮することになったわけだ。TTL測光の受光部については、いろいろなメーカーがいろいろな方式を工夫しているが、中でも多いのがファインダースクリーンに結像した被写体像の明るさを測る形式である。この方法だとファインダーの光路や撮影光路に影響を与えることなく撮影レンズを通った光を測ることができるのだ。ただ、それにはファインダー光学系に隣接して受光素子を設けることになる。フォトミック形式ではペンタプリズム部と露出計が合体したようなものなので、カメラボディ側はなんら手を加えることなく交換ファインダー側でTTL測光のシステムが完結することができた。それまでのニコンFのユーザーや外光式のフォトミックのユーザーでも、交換ファインダーを新たに購入するだけで最新のTTL測光を手に入れることができたわけである。

TTLの測光光学系

一眼レフの測光系が外光式からTTLへと進化するにあたって、様々な測光光学系が工夫された。TTL測光は撮影レンズを通った光を受光素子で受けてその結果で露出を決めるものだが、もともと撮影レンズを通った光は撮影時以外は一眼レフファインダーに導かれ、撮影の瞬間には撮像面(当時はフィルム面)に導かれるものだ。測光のためにそのどちらの光路も邪魔してはならない。そこで、一眼レフのメインミラーにスリットを切ってその裏にCdSを貼り付けたり、メインミラーやファインダーのコンデンサーレンズなどの一部をハーフミラーにしたりして光路を分割し、被写体光の一部を受光素子に導く方法が試みられた。トプコンREスーパーのミラーメーターやキヤノンFTのカットコンデンサー方式などがこの範疇に入る。

しかし、こうやって光路を分割する方法は、ファインダーとして利用される光と測光に用いられる光の両方にロスが生じる。それはファインダーの一部が暗くなったり、絞り込み時にファインダー像にスリットパターンが現れたりする形で影響した。

ペンタックスSPは別の手段としてペンタプリズムの射出面、接眼レンズの両脇に2個のCdS受光素子を配置し、ファインダースクリーンで拡散された被写体光を受ける方法を採用した。この拡散光はファインダー光としては使われず本来「捨てられる」光であるのでロスとはならない。そのため時代が進むにつれて多くのカメラに採用されるようになり、途中2個の受光素子を接眼レンズの上に配置した1個に集約するような改良はあったが、近年のデジタル一眼レフにいたるまで、TTL測光の定番となった。

そしてニコンでもTTL測光の光学系として、この方法を採用したのだ。

ニコマートFTとの測光光学系の差異

ニコマートFTとニコンFフォトミックTとでは同じファインダースクリーンの拡散光を測光する形式でも構成に違いがある。共に接眼逆入射光対策として受光素子の前に集光レンズを置いた形式なのだが、ニコマートFTではCdS受光素子を直接ペンタプリズムの射出面に向けて置き、間にフレネルレンズを配置しているのに対し、ニコンFフォトミックTの方はファインダースクリーンからの光をペンタプリズムの射出面に貼り付けた直角プリズムで上方に反射し、それを下向きに配置したCdS受光素子で受けている。CdSの直前にある集光レンズはプラスチック製の非球面レンズを用いている。

このTTL測光光学系は、その後ニコンF2のフォトミックにまで継承された。

露出計連動機構

ニコンF用のニッコールオート銘の交換レンズはすべて絞り連動用の「カニ爪」が設けられているため、当然TTL開放測光となる。フォトミック以前の外付け露出計ニコンメーターの時代にはシャッターダイヤルの動きと絞りリングの動きを合成して電流計指針と同軸のダイヤルを動かす機械的な連動方式(機種によっては電気的連動と併用)だったが、ニコンFフォトミックからは純電気的な連動方式に変更されている。

ニコンFフォトミックT説明写真
フィルム感度はシャッターダイヤルの上部の目盛りで設定するが、ニコマートFTと同様の事情で、レンズ交換のたびに装着したレンズの開放F値に感度を合わせなおす必要がある。ここではASA100のフィルムを開放F1.4のレンズで使用する場合を示している

シャッターダイヤルの回転角はフィルム感度の情報を加えられた後、ペンタプリズムの屋根部にちょうどティアラのような形で設けられた大径のリングを回転させる。このリングの内側にはポリエステルフィルムの上にカーボンを塗布した抵抗体が貼り付けられている。

一方で絞り値の設定はカニ爪の動きとなり、フォトミックファインダーの前面下にあるピンでそれを拾って抵抗体リングと同軸のブラシリングに伝える。このブラシリングに設けられたブラシ(接触子)が抵抗体の上を摺動して、両方で可変抵抗を形成する。つまり「シャッター速度とフィルム感度に応じて動く抵抗体リング」と「絞り値に応じて動くブラシリング」の相対的位置を抵抗値の形で露出計回路に導入しているのだ。

ニコマートFTの場合はレンズマウント周囲のシャッターダイヤルと絞り連動ダイヤルで同じことをやっているのだが、ニコンFではシャッターダイヤルの位置と回転方向が違うので、その動きと絞りリングの動きをギアで引っ張ってきて、ペンタプリズム上のリングに集約しているわけで、その分複雑な機構になっている。

こうしてTTL開放測光を実現しているのだが、ニコマートFTと同様にレンズ交換のたびにシャッターダイヤル部にあるフィルム感度設定を動かして開放F値の修正をする必要があった。


豊田堅二|プロフィール
1947年東京生まれ。30年余(株)ニコンに勤務し一眼レフの設計や電子画像関連の業務に従事した。その後日本大学芸術学部写真学科の非常勤講師として2021年まで教壇に立つ。現在の役職は日本写真学会 フェロー・監事、日本オプトメカトロニクス協会 協力委員、日本カメラ博物館「日本の歴史的カメラ」審査員。著書は「とよけん先生のカメラメカニズム講座(日本カメラ社)」、「ニコンファミリーの従姉妹たち(朝日ソノラマ)」など多数。


(さらに…)
ニコンFフォトミックT[ニコンの系譜] Vol.10