2024年の冬ドラマが、続々と最終回を迎えています。あっという間の3カ月。今クールは、うねりが大きくて……セレクトが終盤や最終回でどんでん返しなんてことも多々。すべてのプライムタイム放送冬ドラマをチェックした筆者が、個人的に“観てよかった”ドラマ3選と、番外編として深夜帯ベスト1をご紹介します。


◆不適切にもほどがある!



画像:TBSテレビ『不適切にもほどがある!』公式サイトより



まずは期待通り、全方位的に視聴者を楽しませてくれたのが『不適切にもほどがある!』(TBS系)=通称「ふてほど」です。主人公の“昭和のダメおやじ”小川市郎(阿部サダヲ)が、令和にタイムスリップ! コンプライアンスに縛られた“令和の価値観”にぶち当たりながら、一石も二石も投じていく物語です。


◆完成度の高いエンターテインメント作品
本作は“令和の価値観”に対して、一方的に“昭和の価値観”をぶつけるドラマでは決してありません。「伝えたいメッセージが明確」でありながら「ドラマとしての面白さ」を見事に両立しています。台詞にしてぶつけ合ったら説教くさくなってしまう場面は「ミュージカル仕立て」にすることで、軽やかに議論して気づきを与えてくれるのです。




本作の脚本を手がける宮藤官九郎氏は、ドラマ過去作の『池袋ウエストゲートパーク』や『ゆとりですがなにか』『俺の家の話』などを観ても分かる通り、そのときどきの時代を捉えることに非常に長けた脚本家です。その力が存分に発揮されており、昭和と令和の対比を心地よく楽しめます。


また、親が子を想ったり、誰かを愛したり、大切にしたりする普遍的な“人間らしさ”も描写。特に第5話は、市郎が自分と娘・純子(河合優実)の未来を知ることとなるエピソードで、爆笑からの号泣展開でした。また第6話で令和に訪れた純子が「うちの親父を小ばかにしていいのはな、娘の私だけなんだよ」と怒ったシーンにも涙。


毎話繰り広げられるコミカルな会話劇と、練り上げられた“魅せる”物語が、視聴者をどこに連れていってくれるのか。最後まで目を離せません。


◆番外編:おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!
『不適切~』と同じく昭和と令和の価値観に焦点を当てたのが、深夜帯の『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』=通称「おっパン」(東海テレビフジテレビ系)。練馬ジム氏の同名漫画を原作とした本作も、まったく違う切り口ながら面白い作品。筆者の中では今クールの深夜帯ドラマベスト1です。



画像: 東海テレビおっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』公式サイトより



こちらは“昭和の価値観”に凝り固まったアラフィフ男性・沖田誠(原田泰造)が主人公。家族や会社で居場所を失いつつあることを感じ、二回り以上年下のゲイの青年・大知(中島颯太 /FANTASTICS)と友人になったことをきっかけに、価値観をアップデートしていく物語です。


◆否定せずに認め合い、人が成長する姿が心を打つ
はじめは「男は会社で上を目指すべき!」「お茶は女の人が淹れたほうが美味しい」など、令和では明らかにハラスメントな発言をしていた誠。それらがコンプラ違反だと徐々に理解し始めてからも、築き上げた自分の尺度を変えることができず苦悩していました。




しかし友人の大知が「アップデート」という前向きな言葉を使い、誠の価値観に理解を示したことが、誠の変わる大きなきっかけに。回を重ねるごとに、葛藤しながらもトライ&エラーを繰り返し、大切な家族や周囲の人たち絆を深めていきました。


心から良作だと感じたのは、本作が誠を一方的に悪者としたり、誠ひとりに「アップデート」を強いたりなかったこと。誠の20代の娘に10代の息子、そして同い年の妻も、誠に影響されて前向きに変わっていきました。


『不適切~』と本作に共通するのが、“令和の価値観”も“昭和の価値観”どちらも認め合いながら、共存していこうと成長する人間たちを描いている点。世代や多様な価値観を超えて、人と人とが刺激し合い、高め合っていく姿。それは、今の時代を「生きづらい」と感じるすべての人たちの希望にもなったのではないでしょうか。


◆お別れホスピタル
NHKで放送された、岸井ゆきの主演の土曜ドラマ『お別れホスピタル』(NHK総合)も、相当な名作でした。原作は、沖田×華(おきたばっか)氏の同名漫画。



沖田×華『お別れホスピタル (1) (BIG SPIRITS COMICS)』(小学館サービス)



2018年には清原果耶を主演に、同じく沖田氏原作の漫画をドラマ化した『透明なゆりかご』(同)が大きな話題を集めましたが、脚本家・安達奈緒子を筆頭にしたスタッフが再集結したのが今回のドラマ。1秒たりとも無駄のない構成で、全4回とは思えないほどのインパクトを残しました。終末期の療養病棟を舞台に「死を迎える」ことと、「生きる」ことの意味を問いかけた物語です。


◆逃れられない心情描写が、重たくも沁みる
「命」という難しいテーマに向き合う患者と患者の家族を、古田新太泉ピン子、木野花、高橋惠子、きたろう、筒井真理子といった錚々(そうそう)たる俳優陣が演じ、作品の質を押し上げました。そして主演・岸井ゆきのが、療養病棟に勤めて2年となる看護師・辺見歩で患者を支え寄り添う姿を、受けの演技で繊細に表現。



沖田×華『お別れホスピタル(11)(ビッグコミックス)』(小学館)



なかでも特に印象的だったのは、第2話の高橋惠子です。肝臓がん末期の夫を、8年もの間自宅で介護してきた妻を演じていました。命令ばかりだった夫への複雑な感情を抱いたまま、夫はいよいよ苦しみが止まらず鎮静の薬を投与されることに。最後まで妻の名を叫び求める夫に、最期のケアをします。そして耳元でささやくのです。“衝撃のひと言”を。


それを耳にしてしまった岸井の表情も絶妙。「どう死ぬのか」、ひいては「どう生きるのか」という、逃れることのできない命題に向き合おうとする人たちの“心の変化”を丁寧に映し出した本作。沖田×華氏による原作は続いているので、ぜひドラマも続編を制作してほしいです。


◆君が心をくれたから
最後は、放送開始直後から物議を醸していた“月9”『君が心をくれたから』(フジテレビ系)。その理由は、永野芽郁演じるヒロイン・雨が、事故に遭ってしまった大好きな太陽(山田裕貴)のために“心=五感”を差し出すという過酷な設定でした。しかも、雨は虐待されていたり、いじめられていたり、太陽と出会うまで孤独な境遇にいます。



画像:フジテレビ『君が心をくれたから』公式サイトより



そんな重い内容に、SNSの反応を見ると初期の離脱者もちらほら。実は筆者自身も、第2話まで観て一度は離脱したひとりでした。だって、月曜日から苦しすぎるし、切なすぎるし、救いがないように感じてしまったから。でも冬クールの終盤に初回から一気に最終回まで走ったイマ。本作が冬クールのNo.1!「観てよかった」と声を大にして言いたいです。


◆永野×山田の名演で、心に残る傑作に
はじめはあまりに負の衝撃が強かったけれど、誰もがもっている“奇跡”を丁寧に描いた作品でした。味覚を失い、嗅覚を失い、触覚を失い、最後には視覚も聴覚も失う——当たり前に他者と繋がり、自分がそこに存在することを教えてくれる“心(五感)”の大切さを、全11話を通して伝えてくれました。


何より、雨と太陽を演じた永野と山田の演技が秀逸。永野は、雨をただ不幸で可哀想なヒロインにせず、困難を乗り越える強さと美しさを体現しました。一方山田も太陽を、ただの明るい青年ではなく、逆境に立ち向かうまっすぐさと人を信じて寄り添う純粋さで、深みのある人物像に仕上げています。だからこそ、雨と太陽が織りなす物語は、実に美しかった。




ふたりの結末についてここでは触れませんが、「互いの存在を認め、必要とし、愛し愛されること」。それがどれほどの“奇跡”なのかを、ドラマを通して伝えてくれた珠玉のラブストーリーでした。未視聴の方や離脱した方には、ぜひ全話を通して観て欲しい作品です。


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4月からの春クールに放送されるドラマも続々と発表されていますが、それまでに今一度、この冬クールのお気に入り作品を見返してみてはいかがでしょうか。


<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>


【鈴木まことtricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201



画像:TBSテレビ『不適切にもほどがある!』公式サイトより