現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。

【動画】誕生日記念に「逆凸」しようとしたら戌亥とこ&アンジュ・カトリーナに「家凸」されるリゼ・ヘルエスタ

 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ2年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加しているのだ。

 そのなかでも指折りの人気タレントであり、配信活動においてだけでなくプライベートでも仲の良い関係を築いている3人がいる。戌亥とこアンジュ・カトリーナリゼ・ヘルエスタの3人からなる通称「さんばか」だ。

 彼女たちは、にじさんじ統合後となる2019年3月23日にデビューした、いわゆる“同期デビュー”のメンバーだ。それぞれが様々なバックグラウンドを持ちつつ、デビュー当初から良好な関係性を示し続け、その雰囲気で人気を高めあった3人であり、にじさんじ内では月ノ美兎樋口楓、静凛の3人による「JK組」の足跡をたどるような「女性3人組グループ」としてファンに広く知られている。

 3人それぞれの魅力については、以前個別のコラムとしても執筆しているので、ぜひそちらも参照していただきたい。そして今回の連載ではズバリ「さんばか」について記していこうと思う。

にじさんじきっての仲良しトリオさんばか それぞれの個性が互いを光らせる

さんばかの3人は仲がいい」

 古くからにじさんじを追いかけている者ほど違和感なく、むしろ当然そうであると受け止められるはずだ。

 その仲の良さは、本人たちがコントロールできない“数字の面”でも同様だ。2024年3月現在のにじさんじにおいて、YouTubeチャンネル登録者数を上位から並べてみると、なんと3人が仲良く上位に並んでいるのだ。

 じつはこの状態は「さんばか」の3人がデビューして間もない時期から続いており、それぞれの登録者数が大きく離れること無く、だいたい同じような上昇ペースで登録者を伸ばしてきたのだ。

 「同期同士なのだから同じような活動内容をともにしていたのだろう」などと安易に想像するなかれ。戌亥・アンジュ・リゼはそれぞれに得意分野が微妙に異なる3人であり、だからこそ3人で集まった際には個性がぶつかり合うことなく、純然と輝きあうことができるのだといえよう。

 たとえば3人のなかでいえば、戌亥とこはゲーム配信をすることが多くはなく、どちらかといえば自身の歌声を活かした音楽活動がメインとなっている。その実力は疑う余地のないレベルであり、先輩・町田ちまとのユニット・Nornisで見せる歌唱は、にじさんじ屈指の歌姫としてのポジションを確固たるものにしている。

 リゼとアンジュは共にゲーム配信を得意としているが、リゼがストーリーに重きを置いたRPGやアクションゲームを得意とする一方、アンジュはよりアクション性が高いFPSゲームまでもプレイできる点が、両者のちょっとした違いにはなるだろう。

 反対に3人に共通して言えるのが、そのトーク力である。リゼはしっかり者な性格が高じて公式番組の司会役を任されることも多く、アンジュは主に夜10時から、戌亥は朝6時半ごろから、それぞれ雑談配信を始めることがある。

 アンジュ・戌亥の2人はともにリスナーのコメントをうまくフックアップし、会話のなかで面白く料理してしまう話術を持っており、プライベートな話題をアレコレと引っ張ってきて面白トークを生み出すこともできる。冷静に考えてみれば「女性がただただ喋っている」だけの配信であるのに、視聴者はなんと1万人レベルにまで達している。

 にじさんじファンのなかではアンジュの雑談力が広く知られているかもしれないが、彼女に負けず劣らずの雑談力を戌亥も発揮しており、両者とも1万人近いリスナーを集めているのは特筆すべき点であろう。

 このように3人それぞれの特徴・個性を考えてみると、重なっている部分といない部分がハッキリしており、実際に3人が勢揃いした配信では絶妙なバランスでコミュニケーションがなされていることが伝わってくる。

■リゼ、アンジュという旧知のふたりと共にデビューした当時、戌亥とこの回想

 リゼとアンジュはデビューする以前から旧知の仲であり、オーディションを受けたところリゼがオーディションに通らなかったため、アンジュが「オーディションを辞退したい」と申し出たという。当時の関係性を象徴するエピソードとして、これ以上ないほどのインパクトあるものだ。

 リゼとアンジュの深い絆がありつつ、戌亥は当時についてこのように回想している。

戌亥「デビューしたのが2人で良かったと思ってる。2人は10年来の幼馴染みたいな感じやん、自分がそこに放り込まれた時、2人とも受け入れてくれた。それがとても嬉しくて、他のデビューした人も仲良くしてくれているけども、この2人は特別」

 リゼも別の配信で、3人で集まった会話でこう述懐する。

リゼ「(3人でケンカしたことあるの?というリスナーからの質問に対し)ないけど、腹を割って話したことがある。仲良くなるときに大きなきっかけがあって、幼馴染アンジュに頼ってばかりになってることが多かったんだけど、あるタイミングでそれじゃダメだと思ったから、とこちゃんに『何でも言い合える関係になりたいからお話したい』って言った」

「普通は積み重ねていくことで“言い合える関係”になると思うんだけど、私がコミュニケーション下手というか、言わなきゃ! と思ってつたえた。とこちゃんも不審がらずに聞いてくれた」

戌亥「さんばかとしてお互いが納得できるような状況でやりたいから、思ってることを話せる関係になりたい!って物凄い熱弁されて……2人で泣きながらね」

 もしもアンジュがそのまま審査を辞退していたら、リゼとアンジュにじさんじに所属していることは無く、戌亥もまた別のメンバーと同期としてデビューしていたはず。いまのにじさんじはまた違った未来、タレント陣を揃える流れができていたかもしれない。

 くわえて「VTuber」というほとんど前例のない活動に飛び出していくこと。なにかの手違いで大きな炎上が起こってパッシングを受けるかもしれないし、そもそも視聴者にとって楽しんでもらう配信とは何かがまだまだ分からない状態でもある。

 いま現在とは違い、リスナーのなかでも「VTuber」という存在と理解が深まっていない状況のなかでデビューした3人は、五里霧中のなかで孤独感や無力感すら抱えそうになっていたであろう。だからこそ、3人しかいない同期同士で早々に良い関係性を築いておきたいという気持ちは、痛切な願いのように表面化したのだと想像できる。

 そんな3人の間柄・関係性をみるときに、3人の中でもイジられやすいアンジュの存在は非常に大きい。ちょっとした隙をみせやすい彼女の言動を拾い、リゼと戌亥がすかさずツッコミを入れたり、小ボケを差し込もうとするシーンが何度となくある。

 “アンジュをイジってからスタートする”というコミュニケーションは、リゼとアンジュアンジュと戌亥など、2人同士のコミュニケーションでもよく見られる光景でもある。

 これが3人になるとどのように変化するかというと、どちらかが隙をついて小ボケを使ってアンジュをイジり、「いやちょっと待って」とアンジュが一旦状況を制したところに、さらに小ボケを入れ込むなどしてアンジュにちょっかいを出して盛り上がったところで、すこし遠目から3人目がボソっとツッコんでキレイに落とすというコミュニケーションへと展開する。

 この流れは、さんばかの黄金パターンともいえようノリ/話芸であり、多くの配信で笑いどころやハイライトシーンを生み出してきた。特に2021年夏頃に『Minecraft』を通じて行なわれた「さんばかロボ建設」では、この黄金の会話・コミュニケーションがこれでもかと炸裂しており、数年経過したいまでも「さんばか」らしさあふれるものとなっている。

 あくまで一例としてあげてみたが、“アンジュをイジってスタートする”というのは参考程度だ。実際には、イジり・整理・ツッコミという役回りを3人のなかで自然とパスしあい、無限のように循環している。

 先に述べたように、自身の配信では雑談枠が人気を集めていたり、公式番組でも司会役を務めるなど、3人それぞれに「弁が立つ」「場を回せる"タイプ」なのだが、このパターンが継続しているとブレーキが3人とも利かなくなってしまい、話すのに疲れて自然と落ち着くまでがワンセットになっている。

 デビューから数年経っても「3人で話すのが楽しすぎて止められなくなる」とこぼすほどで、3人同士での会話をいかに愛おしく感じているかが伝わってくる。

■それぞれのフィールドで活躍しながら、それでも仲の良さを感じさせてくれる「さんばか

 年を経るごとに個々人のフィールドで活躍をしつづけてきたさんばかの3人。ここまで書いてきたように、3人が紡いできた関係性はデビューに際してのドラマも含め、どの同期組よりも親密な関係性を育ててきたようにみられる。

 いまや3人は人気と知名度も高まり、「3人同時で配信をする」ことは珍しくなってしまった。デビューしてからの数年までは3人での配信や新衣装のリレー配信を組むなど、数ヶ月に一度は3人揃っての配信があったのだが、コロナ禍への突入からそれ以後は様々なイベント・企画へとそれぞれが起用されたこともあり、「さんばかとしての配信」が一気に減っていったのだ。

 2023年内では大型イベントや企画配信を除いてみると、3人が揃った配信は3回。イベントや企画配信を踏まえても5回のみとなっている。

 そのうち1回は、リゼが自身の誕生日に逆凸配信をした際に、アンジュと戌亥がリゼの自宅へとサプライズ訪問した配信であり、ファンの方々にも印象深いだろう。

 後日、この時を振り返ったアンジュと戌亥はこのように語っている。

 アンジュは「戌亥からサプライズしようと声がかかったけど、リゼの自宅に訪問しようと決まったのは誕生日配信の数日前だった」「最初は戌亥が来ない予定だったけど、戌亥が来ることになって色々とやりやすくなった」と、突発の訪問であったことを明かしつつ、「そのことがあったので、戌亥がアタシの家に来て嬉しかった」とサプライズ訪問以外のところでも楽しくやっていたことを嬉しそうに語っていた。

戌亥は「なんかしようとふんわり言い出したのはアタシだけど、いっそのことあたしも行こうと思った」「アンジュと会うときには、『ポン・デ・リングが食べたい』っていう投稿があったので買って持っていったら、めちゃくちゃ嬉しそうにしてくれてた」と話し、「サプライズが終わったあとは、んじゃ! 気ぃつけや! っていってそれぞれ家に帰った」と、仲良しなだけではなく、ほどよい気楽さも両立した関係性であることを伺わせてくれる。

 こうした仲の良さがリスナーの目に見えるようなアクションとして表出することもあれば、3人それぞれが雑談をするなかでたびたび「さんばか」メンバーの話題があがることもある。

 そうした節々から伺えるのは、なにか特別な出来事があろうがなかろうが、3人それぞれの仲が良いままであるということ。そしてその信頼と友好こそが大きな魅力となり、今後も3人の活動を支えていくことになっていくだろう。

(文=草野虹)

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