“感情の最果て”をテーマにエッジの効いた名曲を次々に生み出し、海外でも高い評価を受けるMYTH & ROID(ミスアンドロイド)。“彫刻をめぐる物語”を展開する連作ミニアルバムの後編『VERDE』が3月27日(水) にリリースされる。舞台は前作『AZUL』の海と街から、森と街へ。壮大なストーリーの音楽世界が繰り広げられていく。この作品を引っ提げた春ツアーを前に、プロデューサーでギターのTom-H@ck(トム-ハック)とボーカルのKIHOW(キホウ)に聞く。

──KIHOWさんは幼い頃から物置で歌っていたエピソードが知られていますが、七色の歌声を身に付けるための練習もしていたんですか?

KIHOW いろいろな声を出すために頑張った記憶はないです。ただ、いろいろな曲を歌っていた中で、自分の声に違いが出ることに気づきました。ならば、この歌い方ならどうなるだろうとか、技術にしていったところはあります。

Tom-H@ck KIHOWちゃんは7年前のオーディションのときから、歌声はほぼ今と変わらないクオリティで表現力もありました。そこからさらにすごいスピードで成長して、特に歌声の幅はどんどん広がって。ライブでのお客さんの盛り上げ方も、かなり変わったと思います。

KIHOW 加入前はライブの経験がほとんどなくて。ひとつひとつのステージで学んでいきつつ、向き合い方が変わったのは2年前の有観客ワンマンでした。自分たちを愛してくれる人たちがこんなにいるんだと、目の当たりにした衝撃。私がこの人たちを引っ張っていくためには今までの考え方じゃいけない。まったく違う人間に生まれ変わらなければ、という覚悟が生まれた日でした。

──マイク前に立つKIHOWさんは、今こうしてお話しされているときとは、全然雰囲気が違います。

KIHOW 皆さんに絶対に良いものを見せたい。ライブのクオリティを更新し続けたいと、強く思っていました。逆に、ライブが自分を変えてくれるのもすごく感じます。

──発売が近づく『VERDE』の物語は、『AZUL』で沈んだ街が長い年月を経て浮上して……と壮大です。Tomさんからストーリー原案のhotaruさんに要望したことはありました?

Tom-H@ck 最初は「全然面白くない」と強めに言った気がします(笑)。クリエイターなのでハッキリ言ったほうがいいのと、『AZUL』の完成度が高くて、2枚目への期待も高まっていたのを感じていて。それに応えたいというのがありました。

──Tomさん的にはどんなこだわりが?

Tom-H@ck いっぱいありましたけど、まずストーリーを語るトラックが長すぎると、退屈してしまう。文字数の制限がある中で、言葉足らずにならず面白くするのが難題で、2~3回直して、hotaruも僕も苦戦しました。ものごとを描くとき、人の感情の部分がひと言あるだけで、ニュアンスがまったく変わるんです。それが至るところにあれば、話が深まる。そこがこだわった部分です。

──今回は語りのトラックが、冒頭と途中の2パートになりました。

Tom-H@ck 『AZUL』のように1トラックでも良かったのが、かなり情報量が多くて、ふたつに分けました。

KIHOW 最後に光が見えてくる終わり方がいいなと思います。人生にはイヤなこと、辛いこと、理不尽なことがたくさんあるけど、前を向いて行こう! というメッセージは、私たちが普段から皆さんにお伝えしていて。今回の壮大なストーリーの中でも、それは表現できました。

──主人公の少女の絵を描く衝動は、画家でもあるKIHOWさんとして実感できるものでした?

KIHOW 自分とは別ものですけど、最初の「Palette of Passion」はまさに絵を描き出す曲。私が初めて絵を描こうとしたときの、頭から何かが出てくる感じはリンクしました。その情熱は自分の中に残っていたので、歌っていて楽しかったです。

Tom-H@ck この曲はあえて、日本人が好きでないコード進行やメロディで作りました。(5 SECONDS OF SUMMERの)「Teeth」という4~5年前に世界的にヒットした曲があるんですけど、日本ではほぼ知られてなくて。でも、カッコ良くて個人的に大好きで、いつかこういうのをやりたいと思っていたんです。

──力強いリフが繰り返されています。

Tom-H@ck 「Palette of Passion」はコード進行がまったく変わらない楽曲ですね。J-POPでもアニソンでも、コードがいっぱい変わって転調する曲が日本ならではでもあって僕も多く耳にするのですが、この曲はメロディもあえて端的にしています。

KIHOW 今の話を聞いて、ふと考えたら、歌用のメロディ感はないですよね。言葉が詰まっていることもありますけど、そういう意味で楽器っぽく歌っていました。

──今回、制作で難産だった曲はありますか?

Tom-H@ck 特にはなかったです。全体的に音数もかなり少ないですし、かなりシンプルに作って、結果的に語り以外は曲順通りに仕上がりました。イメージしたところに最初から100点で落ちたことはなくても、出来上がったら想像を超えた化学反応が多く起きた印象があります。

──ボーカル的にチャレンジ感があった曲は?

KIHOW あえて1曲挙げるなら「Dizzy,Giddy」です。いつものMYTH & ROIDの曲と印象が違って、パッと聴いたら、かわいらしい雰囲気だと思うんです。でも、私としては、かわいらしさを表現したわけではなくて。音的には柔らかくて丸みがありますけど、歌っている内容は明るくはないです。

──<出口のない迷路で 光さえ疑わしくて>とか。

KIHOW 悲しみを増やさないように、ただそこにいて寄り添ってくれる楽曲かなと、私は思っています。あの声で歌うことで他人事に聞こえて、元気をゴリ押ししない。軽やかなリズムを大事にしながら、この声色をキープしたい。考えることが多くて、一番気を使った楽曲でした。

Tom-H@ck 狙いは大きく言って、ふたつあります。MYTH & ROIDも活動が長くなってきましたから、マンネリを防いで新しい面を見せていく助走が必要。それを『AZUL』では「RAISON D’ETRE」、今回はこの「Dizzy,Giddy」で表現しました。もうひとつは、アルバムを通して聴いたとき、満足感が得られるバラエティの豊かさが必要かなと。最後に手を加えて、世界観を深めるアレンジにしました。

──流れとしては、森をさまよう少女を描いたふたつめの語りから「Dizzy,Giddy」に入り、最後は聖歌ふうの「Whiter-than-white」。この形の終幕は最初から決めていたのですか?

Tom-H@ck 「Whiter-than-white」はもっと深く壮大にもできました。僕たちの曲で言うと「Forever Lost」くらい音数を増やして。でも、また違うものを表現したかったんです。

──コーラスもきれいで、心が浄化されるようです。

KIHOW このレコーディングの日は、声のクオリティが神がかっていました。自分で努力したということでなく、たまたま全部の環境が良いように整っていたんです。体調もスタジオの温度もそう。いつものように「良い歌にしよう」と考えるまでもなく、何にも邪魔されない感じ。自分が歌っている感覚すらないくらい、楽でした。

──いわゆるゾーンに入ったような?

KIHOW そういう日でした。そんなに簡単な曲ではないのに、楽しい気持ちで、すぐに録り終わって。自分の中の喜びが歌に乗って伝わると思います。なかなか経験できないことで、宝物みたいなレコーディングになりました。

──中国でリリースしているゲームアプリ『崩坏学园2』の新章主題歌として先行実装されている「RESIST-IST」は、攻撃的なギターのリフから出来たのですか?

Tom-H@ck 間違いなくサウンドから構築していったと思います。ラウドロックの新しい形。僕は音楽的にそっちが出自なので。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかニッケルバックとか。こういう音は自然と出てきます。

KIHOW この曲は『AZUL』ツアーでも先日のツーマンでもやって、ほとんどの方が初見だったと思いますけど、すごく盛り上がりました。次のツアーでやるのも楽しみです。

──もう1曲の「DiLeMMa」はスリリングで、聴いているとドキドキする感じです。

Tom-H@ck 最初に考えていた方向性と、まったく違うところに行った曲です。もともとは「JINGO JUNGLE」みたいなヘヴィなところに落とし込もうとしていて。でも、全曲を並べたら前半3曲が強すぎて、胃もたれを起こしそうだったんです(笑)。それでアレンジをガラッと変えました。

──ピアノがシャレています。

Tom-H@ck 映画音楽っぽい感じが元々好きでもあるので、こういった構成についても自然に出てきましたね。

──そして、このミニアルバムを引っ提げて、ツアーが始まります。『AZUL』ツアーでは、アルバム曲を曲順通りに披露するパートが核になりました。

KIHOW 今回はこれからリハをしながら、構築していきます。『VERDE』が主役のツアーで、新曲を聴いていただきたいのはもちろんですけど、みんなが聴きたいと思っている曲もセットリストに組み込んで楽しんでいただきたいなと思ってます。

──MYTH & ROIDのライブは非日常の世界に持っていかれるのが独特です。

Tom-H@ck そこは僕のエゴが込められています。小さい頃から、イヤなことや不安があったとき、自分を保って癒されたものは、映画や現実と違う非日常感を描いた歌だったので。今もそう。だから、僕たちのライブに来てくれた人たちにも、日ごろのうっ憤を違う形に変換して、昇華していただきたい。次の日から生きる力にして欲しい。そういう空間に浸る1日にしたい想いは個人的に強くあります。

──映画もお好きなんですか?

Tom-H@ck 大好きです。2日に1本くらい、寝る前に観ています。一番アドレナリンが出るのが映画。歳をとってくると、いくら良い音楽を聴いても脳汁が出なくなってきますけど、映画はいくら観てもアガります。

──最近面白かったとか、人生ベストの映画というと?

Tom-H@ck 1回だけ観た映画、何十回も観ている映画とある中で、一番好きなのは『インターステラー』です。クリストファー・ノーランが大好き。映像美、物語の面白さ、人生観的な哲学……。延々と観続けていますね。

──音楽にも有形無形に活きているのでは?

Tom-H@ck もともと仕事を始める前から、むしろ映画ばかり観ていて。海外で仕事をしたいばかりに、音楽活動を始めた人間なので、映画にインスパイアされることは感性的にあると思います。

──KIHOWさんは映画は観ます?

KIHOW ひとりで映画館によく行っていた時期はあります。当時は怖い話が好きで、メインはホラーやスリラーを観ていました。アリ・アスター監督の『へレディタリー』がすべての映画の中で一番好きです。

Tom-H@ck とんでもなく怖いホラーでしょう? 僕はちょっと観て無理だった(笑)。

KIHOW 好きな理由はいろいろあって、音楽に活かせることも見つけました。私は演技のことはわかりませんけど、「普通の人はあの表情からこの表情へ1秒で移れない!」というシーンがあって。それを初めて観たとき、すごく怖いシーンでしたけど、もううれしくて! 自分が知らないだけで、こんなにレベルの高い表現をしている方が、世の中にはたくさんいるんだろうなと思ったんです。「この楽曲の中で表現できることは、これ以上ないかも」と思うときもありましたけど、あれを観て「まだ行ける!」となりました。歌で他の人がやっていないことに到達できるかもしれない。映画としては「そこじゃないよ」というところで、テンションが上がったんですよね(笑)。

──ステージでのKIHOWさんも、MCから歌に入るときの豹変はすごいですけど。

KIHOW 自分では全部同じに感じてしまって。もっとみんなを驚かせたいけど、わかりやすいところで表現するのが難しくて。自分の中のこだわりで終わってしまうより、みんなにわかってほしいんです。

Tom-H@ck 僕たちが表現するものを多くの人たちが感じ取って、大きな渦になるほど、お互いwin-winですよね。「このワクワクした感じで、みんなで前に進もう!」というところに夢があります。

──ライブで観客を非日常に誘うおふたり自身は、ステージに立つ前に楽屋でルーティン的にしていることはありますか?

KIHOW そんなに面白い話はなくて(笑)、鼻やノドのケアをしたり、体を解したり温めたり。健康になることを頑張るようになりました。

Tom-H@ck 僕はここ2カ月くらいで発見した、面白い話があります。40近くになって、この2~3年、体がかつてないレベルでしんどくて。調子が悪いと、自分の体を「何でこんなに動かないんだ? いい加減にしろよ!」って感じで責めていたんです。それが量子力学とか勉強すると、人間は大きな集合体で、精神や体がひとつずつとりもちみたいに繋がっている……という考え方があって。僕の体の後ろに自分の人格がいて、体は僕のために頑張ってくれている個体だと思うと、ねぎらいたくなります。「こんなボロボロになるまで、30何年も動いてくれて、ありがとうね」って。ライブ前にその感覚になると、心地良いんです。この考え方が真実かどうかはどうでもいい。自分で発見したことに意味があって。本当に体が楽になりました。

──ギタープレイもより冴えると?

Tom-H@ck そうです。自分でなく体が動いてくれると思うと、緊張はよりしませんし、プレイにミスもなくなっています。

──春のツアーが楽しみですが、MYTH & ROIDの音楽は聴いていても、ライブには行ったことがないファンの方もいると思います。そんな方たちに、ひと言いただけますか?

KIHOW 初めてがライブハウスって、ハードル高いですよね。私もよくわかります。でも、Myrrorと呼んでいる自分たちのファンに怖い人はいません。良い方ばかりで、初めての方がイヤな思いをすることはありませんから。自分が好きなアーティストを好きな人たちが集まるって、楽しくて幸せな空間だなと、ステージから見ていても感じます。あと、バンドとライブをしていて、「この曲がこんなカッコいいことに⁉」という衝撃もあると思います。私は早く新たなMyrrorの皆さんに会いたい気持ちでいっぱいです。

Tom-H@ck 音楽だけ聴くのとは色合いの違う空間が、そこに広がっています。一度ライブを観てもらって「次回も行こう。それまで自分も頑張ろう」と思ってくれたら、こんな幸せなことはありません。そんな想いを間近で共有しながら、一緒に歩んでいけたらと思っています。

Text:斉藤貴志
Photo:小境勝巳

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<リリース情報>
MYTH & ROID コンセプトミニアルバム 〈Episode 2〉『VERDE』

2024年3月27日(水) リリース
価格:2,750円(税込)

【収録曲】
1. 〈Episode of VERDE - Part1〉
2. Palette of Passion
3. DiLeMMa(テレビ朝日系全国放送『musicるTV』3月度EDテーマ)
4. RESIST-IST(ゲームアプリ『崩坏学园2』新章主題歌)
5. 〈Episode of VERDE - Part2〉
6. Dizzy, Giddy
7. Whiter-than-white

<ライブ情報>
MYTH & ROID One Man Live 2024 Spring Tour "VERDE"

4月13日(土) 静岡・LIVE ROXY SHIZUOKA
4月14日(日) 岡山・YEBISU YA PRO
4月20日(土) 仙台・MACANA
4月27日(土) 大阪・心斎橋SUNHALL
4月28日(日) 愛知・名古屋SPADE BOX
5月12日(日) 東京・Shinjuku BLAZE

料金:6,000円(税込)※入場時ドリンク代が必要
チケット一般発売中
https://w.pia.jp/t/mythandroid24/

MYTH & ROID公式サイト:
http://mythandroid.com/

MYTH & ROID公式X:
https://twitter.com/myth_and_roid

MYTH & ROID公式Youtube:
https://www.youtube.com/@mythroidofficialchannel5625

左から)Tom-H@ck(Gt)、KIHOW(Vo)