詳細画像はこちら

マツコネ2を支えるソフトウェア開発

マツダCX-60に採用されている世代のマツダコネクトを「マツコネ2」と呼ぶ人がいる。

【画像】「マツコネ2」で設定できる、こだわり機能【CX-60の場合】 全9枚

初代マツダコネクトと区別した新世代という意味だ。

詳細画像はこちら
マツダCX-60のインフォテインメントには新世代のマツダコネクトが採用された    前田惠介

マツコネ2用のCMUはパナソニック オートモーティブシステムズ社が開発を行った。

「CMU」とは、クルマの中のディスプレイ、スイッチ類、オーディオ機能、通信ユニット、USBハブ、スマホを結ぶインフォテインメント・システムを実現するもの。

コネクティビティ・マスター・ユニットの略でCMUだ。

こうしたソフトウェア全体の開発には膨大な工数を要するし、新型車に組み込むシステムだから品質・コスト・納期がとてもシビアな分野である。

求められる機能は年々増えていくばかり……。車載システムのメーカーはどのように仕事を進めているのだろう?

山積するタスクを開発陣がいかにマネジメントしているか教えてもらった。

「つながりボード」と名付けた狙い

「物をつくる前に人をつくる」と人材育成を重んじたのは松下幸之助。いまもパナソニック・グループでは、人を活かす仕組みをとりわけ重視している。

車載ソフトウェアの開発を担うパナソニック オートモーティブシステムズ社の場合、「つながりボード」という取り組みがその一例だ。

詳細画像はこちら
カンバンボードパナソニック流にアレンジした「つながりボード」    パナソニック オートモーティブシステムズ

これは、優先順位を判断する基準、負荷の平準化、滞留タスクの見える化などを形にした1枚の表である。カンバンボードWIPボードとして知られるもので、それをアレンジして使っている。

縦に担当者の名前が並んでいて、その左・右にタスクを1つずつ張り付けていく。

名前の左側が「着手可能なタスク」。右側が「実行中のタスク」「保留中のタスク」「完了したタスク」。

それぞれのタスクは緊急度合い・課題の大小で色分けされており、濃い色は注意するべきもの。

表の上部に、仕事の優先順位のつけ方を家訓のように掲げた。

表の欄外には「ミニお助けボード」という枠があり、チーム内に助けを求める場を設けている。

これを実践していくことで、次々に発生するタスクの優先度が整理され、個々人としては1つひとつを完了することに集中できる。

そして何より、組織としては進捗の共有・課題の早期把握・コミュニケーション不足の解消に役立つ。

タスク管理ボードと名付けずに「つながりボード」とした狙いはその辺りにあるのだろう。

「お助けボード」 もやもやを感謝に

もう1つは、従業員満足度を高める視点のもの。「お助けボード」と呼ばれている。

チーム毎に助けの声を集めた「ミニお助けボード」の全社版で、経営陣まで声が届くエスカレーションボードといったところだ。

詳細画像はこちら
「お助けボード」のイメージ    パナソニック オートモーティブシステムズ

こちらのボードも、縦に人の名前が並んでいる。

上から順に、社長、役員、ビジネスユニット長、各センター長、各リーダーと続き、それぞれの顔写真の横に「未着手」「お助け中」「完了」という枠を設けた。

未着手の枠に、お助けカード、グレーニュースというものを張り付けることから始まる。

グレーニュースとは同社が用いる言葉で、リスクが顕在化する前の事案、どちらに転ぶか分からない問題を言う。

これらを1枚のボードに集めることで、バッドニュースになる前のもやもやした気づきを、上位層も含めていち早く察知・対策していくという。

お助けボードの狙いは、「透明性と公平性の担保」「スピードある全員経営」「心理的安全性」「孤独の解消」の4つ。

貼ってくれたらまず感謝!という標語が、この取り組みを価値あるものにしている。

ソフトウェアを創るのはやっぱり人

規模が広がるばかりのソフトウェア開発の現場では、属人化・暗黙知・高稼働状態が課題となっている。

埋もれてしまいそうなバラツキや気づきを2枚のボードに炙り出せば、誰でも開発のマネジメントを再現でき、1人ひとりの力を活かせる環境・風土作りを継続していける。

詳細画像はこちら
マツコネ2を支えるCMUを開発したパナソニック オートモーティブシステムズ社インフォテインメントシステムズ事業部の中村知樹IVIシステムズビジネスユニット長    パナソニック オートモーティブシステムズ

これ以外にも、知識・ノウハウの標準化&見える化、開発後期の状況を予測する予測型マネジメントの導入。また、コロナ禍で定着したリモート開発、それに自動テスト・自動評価・自動解析といったプロセスの自動化を進めることで、ソフトウェアがリリースされるまでのフローを高速駆動する環境を整えてきたという。

こうした取り組みは、人中心のマネジメント革新として評価され、日本科学技術連盟から「品質革新賞」を授与されているから聞いたことがある人も多いだろう。

また、パナソニック オートモーティブシステムズ社はレクサスNXの北米・欧州向けIVI(インビークル・インフォテインメント)も開発しており、その際にトヨタから技術開発やプロジェクトの表彰を受けている。

2022年度、同社の中でインフォテインメントの事業は、売上が4855億円に達した。パナソニック オートモーティブシステムズ全体の売上が約1.3兆円だから、4割近くを占めることになる。

ハードよりもソフトウェアがクルマの価値を決める時代は、魅力あるソフトの開発がものを言う。もっといいクルマを、もっと早く作るために、人を活かす組織力がますます問われている。


山積するタスク 車載ソフトウェアの開発現場はどうしてる? 2枚のボードで「人中心」の品質革新