憧れのマイホーム。しかし、夢と理想を詰め込んだにもかかわらず、住みはじめてから“後悔”を口にする人たちも少なくありません。



※イメージです(以下、同じ)



 その出発点は、工務店でいい営業マンと巡り会えるかどうかの“担当ガチャ”だというのは、株式会社マイホムの代表取締役CEOである乃村一政さん。工務店の営業マンとしてスタートした住宅業界でのキャリアは18年以上で、現在は、マイホーム管理アプリ「マイホム」、プリフィックス注文住宅「PlusMe(プラスミー)」などを手がけています。


 マイホームは営業マンで「8割決まる」の真意とは。工務店で実際にあった相談例と共に、聞きました。


◆即提案はダメな営業マンの典型



株式会社マイホムの代表取締役CEO・乃村一政さん



 マイホームの出発点は、工務店で家づくりをサポートする営業マンとの関係構築です。こちらの要望に沿って、一から十まで夢を叶えてくれる。そんな営業マンが理想かと思いきや、乃村さんが「一概にそうとは言えない」と指摘するのは意外です。


「マイホームは営業マンで『8割決まる』といっても、過言ではありません。戸建てならまさしく、営業マンのよしあしで引き渡し後に悔いが残るかどうかが決まります。マイホームには、誰もが夢を持っていますよね。お客さんはテンションが上がった状態で相談にいらっしゃいますし、担当者もその思いに応えようとする。ただ、営業マンによってはハズレの人間もいるんです。


例えば、お客さんから『駅チカで戸建て住宅を探しているんです』と相談されて、すぐさま『人気エリアですね。じつは、新たに分譲住宅地ができたんです!』と前のめりに提案してくる営業マンはダメ。意識しているのかいないのか、いずれにせよ、夢を見させてとにかく家を売ることしか考えていないからです。


一見便利そうな『駅チカ』の条件では、人の往来が多いために犯罪発生率が高い、また車の走行車数も多いため事故のリスクも上がるなどのリスクもある。ですから、お客さんの実生活を汲み取って、リスクをふまえて提案できるのが真の“デキる営業マン”といえます」


◆デキる営業マンの常套句「なぜ、家を建てるんですか?」
 いい営業マンと出会えるかどうか。すなわち“担当ガチャ”に、マイホームは左右されます。では、営業マンのよしあしをみきわめる方法はあるのでしょうか。


「工務店のデキる営業マンは十中八九、相談時に『なぜ、家を建てるんですか?』とお客さんの動機を尋ねます。工務店の営業マンは『お客さんが家を買うのは当たり前』と思っていて、最初にするべきこの質問をすっ飛ばす人間も多いんです。かつての日本では、結婚して子どもが生まれ、家を建てるのは当たり前でした。ただ、令和の“5年先も見えない”時代では30年以上ものローンを組んで家を建てるのはリスクが高すぎますし、少数派のすること。だからこそ、動機の確認が重要なんです」


 実際の相談時は「夫婦での来店が一般的」と話す、乃村さん。自身の経験から、工務店のデキる営業マンは、夫婦それぞれの要望が一致するよう「調整する力」もあるといいます。


「夫婦間での要望の食い違いは、マイホームあるあるなんです。僕の経験では、工務店の初回相談時に、夫婦の要望が一致していたケースはかなりレアです。それなのに、夫婦それぞれの要望を言われるがまま『いいですね!』と二つ返事で受け入れてしまう営業マンは、ハズレです。デキる営業マンはしっかりとヒアリングして、たがいの要望を上手にマイホームへ反映します」


ウッドデッキは結局使わず朽ち果てることも



 マイホームには、誰もが夢を持っています。意識しているのか、いないのか。お客さんのそんな思いにつけこむかのように、おかまいなし提案してくる営業マンもいるそうで…。


「ワクワクするお客さん、とにかく何でもかんでも売りたいダメな営業マンの利害が一致してしまうのは、マイホームのいわば“闇”です。例えば、よくあるのは『ウッドデッキを付けましょう』という提案で、結果、使われずに木が朽ち果てる悲惨な状況の住宅もよく見かけます。


ウッドデッキは一見、自宅に箔が付くかのように見えるんです。ただ、道路に面したウッドデッキで家族団欒したりバーベーキューなんて、通行者の目が気になって実際にはできません。裏山などに面していて、人や車の往来がないなら別ですが。メンテナンスも大変ですし、周りのロケーションを無視してしっかり考えずに提案してくるのは、ダメな営業マンの典型です」


◆「部屋数を増やしましょう」と提案する営業マンの真意
 道路側に面したウッドデッキを機能させるには、背の高い目隠しフェンスを取り付ける必要があったりと、コストがかさむケースが多いそう。また、「部屋数を増やしましょう」の提案にも注意が必要だとか。


「工務店が部屋数を増やしたがる理由は、もっとも利益率が高いから。部屋を増やす場合、追加工事金額は坪単価計算になります。しかし木造建築では、例えば30坪の家を31坪に増やす上で、木材の追加コストが坪単価に正比例して増えることはほとんどありません。よってキッチンのグレードアップや建材のグレードアップより、利益率が高くなるんです。


大手ハウスメーカーに行って家の面積を小さくするとその分安くなりますか? と聞いてもらえたらすぐに分かります。比例して安くはなりません。つまり、面積が大きくなると坪単価自体は安くなるということなんです。


『将来、お子さんが増えることも想定して』と誘うのは定番で、コロナ禍では『リモートワーク用に一部屋増やしましょう!』と提案するケースもよくあることでした。お客さんも気分がハイになっているので『確かにあったほうが、なにかと便利かも?』と乗ってしまいがち。ただ、実際のリモートワークはリビングでやっていた人がほとんど。一部屋増やすと少なくとも200万円くらいコストがプラスされるので、コロナ禍も落ち着き『作る必要がなかった』と、後悔している声もよく聞きます」


 こちらの生活を想像し、寄り添いながら提案してくれるのが信頼できる営業マンの条件。“デキる営業マン”と出会うためには、様々な住宅展示場へ足を運んでみる努力も必要だといえそうです。


【乃村一政】
(株)マイホム代表取締役CEO。1976年奈良県生まれ。高校卒業後、吉本総合芸能学院(NSC)へ14期生として入学。約6年間の芸人活動を経て、訪問販売の営業マンに転身。2006年より住宅業界へ移り、2010年に奈良県SOUSEIを設立。2021年にマイホムを設立。


<取材・文/カネコシュウヘイ>



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