『エリザベート』『マリー・アントワネット』をはじめとする、さまざまな作品で気品あふれる圧倒的な輝きを放ち、日本のミュージカルシーンに欠かせない存在の花總まり。そんな彼女がこの春主演するのは、名匠G2が10年の構想を経て世界初の舞台化に挑む『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』だ。タイトルからしてなんとも興味をそそる本作稽古中の花總に、共演の谷原章介の印象や、オン・オフの切り替え方などを聞いた。

【写真】可憐さと気品あふれる!花總まり、撮り下ろしショット

◆舞台でどう縮む? 舞台ならではの表現にこだわり

 2010年に出版されるや、かつてない独創的な世界観が大きな話題を集めたカナダの小説が原作。“妻が縮む”“夫が雪だるまになる”“老いた母が98人に分裂する”などファンタスティックな設定で、舞台化不可能とも思える小説の舞台化にG2×花總×谷原のタッグが果敢にチャレンジする。

 ある日、銀行に現れた風変わりな強盗は言った「今持っている物の中で最も思い入れのある物を差し出せ」、「言葉の意味をよく考えろ。最も大切な物を差し出すんだ」。その場にいた13人それぞれが思い出の品を渡すと、強盗は告げた。「私はあなた達の魂の51%を手にした。それによりあなた達の身に奇妙な出来事が起きる。自ら魂の51%を回復しない限り、命を落とすことになるだろう」。事件から3日後、妻は自分の身長が縮み始めていることに気づいた―。

――『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』という、タイトルからしてとても面白そうな本作ですが、出演オファーをお聞きになった時の印象をお聞かせください。

花總:お話を頂き、原作を読ませていただきまして、この世の中にこんな発想をする作者の方がいらっしゃったんだ!と衝撃を受けました。エピソードが全て奇想天外で、自分が縮むということもびっくりでした。

13人の被害者がいるのですが、それぞれのエピソードが違った表現で表されているんです。強盗に魂の51%を持っていかれてしまい、回復する方法を自分で探さないといけない。回復を試みる中では、成功した人もいれば、残念ながら取り戻すことができないパターンもあって。どうしてそうなったんだろうと、それぞれ深読みしていくことも面白かったですが、でもベースには、私演じるステイシーと、谷原さんが演じられる夫の“夫婦の物語”ということがちゃんと収められてます。なので、ひとつひとつに衝撃を受けながらも、読み終えた時には、心がほっこりするというか、大切な何かを学べたような気持ちが残る、そういう奥深い作品だなと感じました。

――やはりどうしても、舞台で花總さんがどう縮んでしまうのだろう?ということが気になってしまうのですが…。

花總:そうですよね(笑)。G2さんもよく聞かれるとおっしゃっていました。おそらく、映像で(縮んだり分裂したりすることを)表現したらとても簡単なんだろうと思うんですね。でも、舞台だからこそできる見せ方だったり、生のお客様と一緒の空間でこの作品をその世界に持っていく、そうした舞台ならではのことを大事にしたいともおっしゃっていて。なので私たちも、確かに映像だったら簡単だけど、私たちができるその日その公演の“舞台マジック”というのは大切にしていきたいし、お客様と共有して、最後お客様に「あぁ、あの世界だったね」と言っていただけるような作品をお届けしたいと思っています。

もちろん演者である私たちも頑張りますが、振付、音楽、照明やセットと、本当にすべてカンパニー一丸となって、総合芸術として見せていくことが重要な舞台になっていくのではないかと感じます。

◆“数学好き”ステイシーとの意外な共通点とは?


――夫役の谷原さんとは初共演。お稽古を重ねる中で谷原さんの印象は変わられましたか?

花總:谷原さんはトレンディドラマなどでよくお見掛けしていましたし、最近は司会者としての姿もほぼ毎日見ているので、実際お会いした時には、なんとなくイメージ通りの方だなと思ったのですが、やっぱり声がすてきだなとすごく思いました。

谷原さんとは同学年なんですよ。なので、夫婦役を演じるにあたって、そこで一気に距離が縮まった感じがして、演じやすさがあります。今回、お稽古場ではみなさんあだ名で呼び合おうということになって(笑)。“しょうちゃん”“はなちゃん”でぐっと距離を縮められました。

谷原さんは宝塚もお好きだということで、いろいろお話したりしています。

――ステイシーという女性を演じるにあたり、役作りでの苦労はありますか?

花總:ステイシーは何かというと計算をして、すべてを測る、数学を愛してやまない女性で、芯のしっかりした女性でもあります。夫とはうまくいってなくはないけども、どこかすれ違っていて、ギクシャクしている。そんな微妙なニュアンス度合いを出すのが難しいですね。子どものほうに気持ちが行ってしまい、夫に愛がないわけではないけれど、おざなりになってもいて。

そんな日常の中で、自分が縮んでいくという事態に直面するのですが、これまでの舞台だったら、自分が今まで経験してきたことや、「あ、こんな感じかな」という感覚を持ってきて自分の中に落とし込めますが、縮んでいく経験がないので(笑)。縮んでいくけど幼くなっていくわけではないし、このままいったら消えてなくなっちゃうという日にちは迫ってくるし…というステイシーの心情を想像はできるんですけども、自分の中で実態としてつかむことがとても難しいです。

でもステイシーは、決して弱気になったり絶望したりすることもなく、数学の力で解き明かそうと立ち向かう女性でもあるんです。ちょっぴり、そういう事態を楽しんじゃう様子もあったりします(笑)。

そうそう、G2さんが「ステイシーはここからここまでの距離をミリ単位で測る。何かを買う時もここからここまで何センチ何ミリと測ったりする女性なんだよ」とおっしゃっていて、私がうんうん!とうなずいていたら、「(花總も)そうなの?」って(笑)。実は私もここにカラーボックスを入れたいとなったらきっちりはまらないとイヤだから、そこは何センチ何ミリ、この棚は何センチときっちり測ったりします。きれいにはまったときに、「はーーーー!! 気持ちいい!!!!!」って思うタイプなんです(笑)。そこはちょっと共感できるかな

――ちなみに、花總さんがステイシーと同じ状況にあって、「今持っているもので最も思い入れのある物を差し出せ」と言われたら、何を差し出されますか?

花總:日常持っている物となると、意外とそこまで思い入れのある物ってないかなと思うんですよね…。お稽古中だったら音を取るのに使うキーボード。だいぶ長いこと使っているので、そういう意味ではすごく思い入れのある物ですね。

日常持っている物となると何を出すだろう…? なんでも出てくる小さい薬袋…かな?

◆今までやったことのない役柄にチャレンジしたい


――昨年は『SUNNY』『ベートーヴェン』、さらに今年も本作と新作舞台へのご出演が続きます。

花總:単純に楽しいです。もちろん1つの作品を再演していくこともすごく楽しいのですが、やっぱり新しいことに挑戦すると新しい出会いがあって、楽しいじゃないですか! どんどん新しい作品をやりたいなと思っています。

――『エリザベート』や『マリー・アントワネット』のようなクラシカルな世界観の中の花總さんも素敵ですが、本作や『SUNNY』など現代物での等身大の花總さんもとてもチャーミングで魅力的です。

花總:現代物は難しいですね。コスチュームプレイは、やはり時代物となるとそれだけで日常絶対ありえない世界観になれますし、すごくキレイな衣裳もあったりと、それをお客様が楽しみに観に来てくださるところもあるんです。現代に近い作品になると、そうした面白味がなくなるので、より自分のお芝居で楽しんでいただかなくてはいけないので、難しさもありますし、演じがいもありますね。

――舞台出演が続きますが、オンとオフの切り替えは上手にできるタイプですか?

花總:上手にできてるかな~? オンなのかオフなのかどっちなんだろう?みたいなこのスタイルで365日を過ごしているので、上手なのか下手なのかよくわからない(笑)。

――インスタを拝見していると、旅行でリフレッシュを図られてるのかな?という印象もあります。

花總:そうですね、旅行を上手に使って気分転換していますね。でも、昨年訪れたインドもよくよく辿っていくと、どこか仕事というか、舞台を公演する自分につながっていくんですね。体が資本なので、体をきれいにしたい! 丈夫にしたい! 公演中は元気でいたい!という気持ちがまわりまわった結果、本場のアーユルヴェーダなどを体験して健康になるという目的でインド旅行になったんです。

――それでは、プライベートで今ハマっていることはありますか?

花總:体を動かすことが好きです。家でストレッチをしたり、地味に筋トレしたりすると、その時間はあまり考え事をしないんです。公演のこと、舞台のことや声のこと、歌のことなどを考えていない自分がいるので、頭の中がある意味休んでいるような感じになるんですよね。

――これまでさまざまな作品にご出演されてきた花總さんですが、今後挑戦してみたい作品や役どころはありますか?

花總:漠然とですけど、今までにやったことのない役柄というのはやってみたいかなと思います。40代と50代で役柄的にも変わってくると思うので、今からチャレンジできる役というのはいったいどんな役が来るのかな?と楽しみだったりします。今回の作品でも、また新しい私をお見せできると思うので、ぜひご期待ください。

(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)

 舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』は、4月1日~14日に東京・日本青年館ホール、4月20日~21日に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール、4月26日~28日に愛知・御園座にて上演。

花總まり  クランクイン! 写真:高野広美