「早期退職制度」は、退職金が増える従業員にとっても組織の若返りを図りたい企業にとってもメリットのあるwin-winの仕組みです。しかし、安易な早期退職は老後破産のもと。そこで今回、早期退職のメリット・デメリットと早期退職後に後悔しないための対策について、具体的な事例を交えてみていきましょう。株式会社FAMORE代表の武田拓也FPが解説します。

「早期退職制度」の実態とメリット・デメリット

早期退職制度とは、定年前に従業員が自主的に組織を退職できる制度です。応募した社員は、早く辞めることで退職金を多くもらうことができます。

また会社にとっては、人件費の削減や、若手社員を昇格させたり要職に就かせたりすることで組織の若返りを図ることができます。

東京商工リサーチによると早期・希望退職を募っている上場企業はコロナ禍の2020年に93社18,635人、2021年84社15,892人と増加傾向にありましたが、2022年には38社5,780人、2023年1月から11月までに早期退職者を募集した上場企業は36社2,905人と減少しています。

早期退職の主なメリットとデメリットは次のとおりです。

【メリット】

・退職金が増額される

・自由な時間が増える(趣味に時間を使える)

・退職金を多くもらえることで余裕をもって転職活動ができる

【デメリット】

・安定した給与収入がなくなる

・年金の受給額が減少する

・転職活動をする場合には上手くいかない可能性がある

50代の転職は“想像以上に厳しい”という現実

企業は20~30代の採用は積極的に行う一方、50代は採用しても働ける年数が短いことなどもあり、採用に消極的な企業も少なくありません。

また、即戦力が求められるため「これまでとは違う仕事がしたい」と考えて他業種や他職種の仕事に就こうとしても難しいのが現実です。とはいえ、同じ業界・業種でも希望する年収が得られないこともあります。さらに、会社が違うと社風や価値観も変わります。前社での勤務歴が長いと、自社には馴染めないと判断されることも。

そして、なにより、求人の絶対数が少ないため競争率も上がります。厚生労働省の『関東労働市場圏有効求人・有効求職 年齢別バランスシート』によると、令和5年6月の有効求人倍率は34歳以下で1.54倍、35~44歳で1.27倍、45~54歳で0.88倍、55歳以上になると0.74倍と、45歳以上は1倍を下回っているのです。

早期退職に“喜んで手を挙げた”Aさんだったが…

年収800万円のAさんは、上場企業で課長を務める55歳の男性です。労働意欲が特別高いわけではなく、またこれ以上の出世も望めないと考えたAさんは、会社で早期退職の募集があった際「喜んで辞めます!」とすぐに手を挙げ、割増退職金を受け取って会社を辞めました。

退職金を受け取り、これまで経験したことのない預金残高をみたAさんはご機嫌です。

退職後は、今までできなかった旅行や趣味を満喫。周りが働いているなかで昼から飲み歩くなど、悠々自適なセカンドライフを過ごしていました。しかし、収入はなく貯蓄を切り崩す生活であるため、当然ですが預金の残高はみるみる減っていきます。

「意外とすぐにお金がなくなるな……」ようやく焦ってきたAさんは、早期退職から1年半、ようやく再就職を決意。

「仕方ない。働くか……上場企業で管理職まで務めたし、就職先には困らないだろう」と、楽観的に考えて転職活動を始めます。しかし現実には、なかなか再就職先が見つかりません。

「どうして俺が採用されないんだ? 現役時代によくしてやった取引先にすら断られるなんて……このままだと貯金が底を尽きてしまうぞ」

1年ほど転職活動を続けたものの、希望の年収をもらえる会社は見つかりませんでした。Aさんは結局、早期退職した前の会社に再雇用をお願いすることに。なんとか受け入れてくれたものの、給与は以前の半分になってしまったそうです。

Aさんは安易に早期退職したことを非常に後悔していました。

老後破産を回避…Aさんすぐに実践可能な3つの策

Aさんは早期退職により、退職金を既に受け取っています。さらに早期退職後しばらく働いていなかったために貯蓄を取り崩しており、老後の資金に不安があります。

①老後の人生設計を作成

そんなAさんが老後破産に陥らないために、まずは「老後の人生設計」をしっかり行うことが大切です。まずは最低限度の生活をするためにいくら必要かを計算します。もらえる年金と貯蓄でやりくりできるなら一安心です。

Aさんの場合は早期退職して無収入の期間があることに加えて再雇用後に年収が下がってしまったために将来受け取れる年金も減っています。

②給与で「積み立て投資」を開始

また、少しでも老後にゆとりをもつために、給与の一部で「積み立て投資」を始めましょう。いま話題の新NISAには「成長投資枠」と「つみたて投資枠」があります。この「つみたて投資枠」は年間120万円を上限として投資信託で積み立て投資が可能です。

③「余剰資金」で“新たな収入”を生む

余剰資金を運用することにより、年収が下がった分を資産収入で補うことも可能です。資産運用には株式や投資信託の他にも元本保証の債券や、外貨保険、不動産投資などがあります。ただ、資産運用は継続して勉強、知識を更新していく必要があります。事前にしっかり情報収集し、自分にあった方法を検討しましょう。

早期退職を考えるなら「事前準備」を入念に

早期退職制度は、退職金の割り増しもあり魅力的かもしれません。しかし、安易な早期退職は老後破産を招きかねません。特に、50代の転職は難易度が高いため、転職を視野に入れる場合は事前の準備が不可欠です。

いずれにしても、自分の状況を客観的に分析してからでも遅くはないでしょう。自己分析や冷静な人生設計が難しいと感じた際は、FPなど第三者へ相談してみることをおすすめします。

武田 拓也 株式会社FAMORE 代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)