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ポルシェらしく走り続けた2年間

この3月11日で、ポルシェ・タイカンの試乗は丸2年が経過した。そこで、今回は、新車時からこれまでのEVレポートの総括をお届けしたい。

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2年間、タイカンに乗り続けて一番強く印象に残ったのは、EVであるタイカンも紛れもないポルシェである、ということだ。確かに、歴代911のような、魅力的なエグゾースト・サウンドは聞けないが、的確なハンドリングや、サスペンションのしなやかな反応から生まれる俊敏な動き、そして、各部の合わせや感触の繊細さなど、ポルシェが本来、持ち続けてきた美点は全て継承している。

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EVであるタイカンも紛れもないポルシェである、ということだ。    笹本健次

そして更に重要なのは、2年の間に一度もレッカーのお世話になるようなトラブルもなく、誠に順調に距離を重ねてきたことである。テスト車は、2022年モデルのタイカンであるが、実は2021年モデルで、ポルシェとしては珍しくかなりの不具合が出た。全く新しいEVの初期モデルであるから、ある程度は致し方ないのだろうが、それを次年度で完璧に修正しているのが凄いと思う。結果的に私は実に快適なEVライフを過ごせたと言える。

私の主な使い方は、川崎市麻生区にある家から、約110km離れた山梨県甲府市の常磐ホテル(仕事場)までの往復で、凡そ週に1~3回のペースで中央道を走っていた。この他、都内や甲府市内での移動、そして偶に取材や出張で片道100~200km程度の走行が加わる、というのが通常のパターンで、月平均では1500kmあまりの走行となった。

走行スタイルは、EVになったからと言って変わる訳ではなく、それなりのスピードを保って、キビキビとスマートに走ることを心がけており、電費をよくするためにアクセルペダルを緩めるようなことは一切しなかった。要はポルシェらしい走りを2年間貫いたという事である。結果の数値を以下に示すと、総走行距離3万4097kmで、この間の総電力消費は8717.66kWhとなり、従って、総電費は3.91kWhというデータとなった。

つきまとう充電の懸念

カタログデータ上の数値4.41kWhと比較すると、3.91kWhという実用数値は大きく乖離しているわけでもなく、サーキットの走行やワインディングでのハードな走りなども含まれていることを考慮すれば、逆に悪くないとも言える。走行可能距離は夏場の最大値で419km、バッテリーの温度も低く、しかも暖房をフルに使用した冬の最低値が331kmであった。季節によって2割以上も変動するのは、EVの特性とは言え注意が必要だ。因みに2年目の経年劣化による走行距離の短縮は全く感じられない。

充電は、川崎の自宅と甲府の常磐ホテルの双方に、ポルシェの8kWhの普通充電器を装備しているので、通常の使用には何の問題もなかった。冬場に都内で何か所か寄ってから甲府に行く、というような場合でも、追加で急速充電を使用するようなことは無かった。

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今のレベルの充電インフラでは、急速なEVの普及など、とても難しいと思う。    笹本健次

しかし、一方、旅行に出るときはかなり不安で、宿泊先での充電設備の状況を問い合わせたり、途中の充電のタイミングを検討したりと、それなりの準備が必要で煩わしかった。何度も記しているように、今のレベルの充電インフラでは、急速なEVの普及など、とても難しいと思う。特に高速道路のSAで、90kWh以上の急速充電器の普及は必須だ。今年度から、経済産業省の補助金で、高出力の充電器の新設については有利になるようだが、かなり頑張らないと国内でのEVの普及は進まないだろう。

燃料コスト面で、ハイオクを使用している911と比較してみると、仮に1kWhを30円、ハイオクガソリンを180円/Lとし、燃費を8km/Lとすれば、タイカンが26万1529円に対し、911は76万7183円となり、電気代はハイオクの1/3程度となる。この結果をどう評価するかだが、煩わしさを厭わずコストの低減を考えるなら、EVという選択であろう。将来はさておき、今の日本では、電力も8割弱が化石燃料から作られているので、EVの使用がそのまま環境の良化に貢献するとは言えない。従って、所有するオーナーにとって、何らかのメリットを感じるかどうかぐらいしか、判断材料はないと思う。

ところで、これまでの計算は、単純に電気代を一定で計算したが、実は、大きな落とし穴があり、急速充電では時間当たりの料金体系になっており、かなり高額(契約により異なる)になるので、この燃費差は大幅に縮小することになる。マンション住まいなどで、常時、既存の急速充電器を使用するのは更に相当の手間とコストとなり、EVの魅力はやや薄れて行きそうだ。

EVに逆風吹くなか、レポート3年目に

私は、タイカンのボディデザインが気に入っており、外装色もアイスグレイというクレヨンとホワイトの中間色のようなカラーで、好きである。しかし、リアの居住スペースもしっかり確保した4ドアのクーペにまとめれば、ボデイサイズが大きくなるのは必然で、全長もだが、全幅が2m近くあるのは、かなりな威圧感である。因みに知り合いのカーデザイナーは、「こんなに大きなサイズが許されるなら、自由にデザイン出来ていいね」と話していた。

私の奥さんは、これまで、我が家のほぼ全ての日常使用のクルマを運転してきたが、巾が広く見切れないからと、このタイカンだけは避けている。また、ガラスルーフは、夏場にかなり熱を持ち、実際に室内も暑いので、残念ながら家族の評判は悪い。逆に、冬は、ヒーターの効きが充分でなく、シートヒーターを使用して漸く寒さが防げるレベルだ。これだけは何とかしてほしい。

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一番の感想は、これまでと変わらぬポルシェライフを楽しめた、ということに尽きる。

この頃は、昨年までとは手のひらを返したように、EVに逆風が吹き荒れている。極端から極端に走るのがマスコミの常だが、ここは、基本に立ち返って物事を考えるべきだと思う。

現在判っている事実として、何れ化石燃料は枯渇し、また、地球温暖化にも早急に対処しなければいけないとされている。この解決方法の一つとしてEVがあるのであり、現状の技術レベルと環境を考えれば、当面はEVがじわじわ浸透して行くのではないかと思われる。要は人類が地球上で生きてゆくために便利かどうかであり、地球そのものにとってどうかは関係のない事なのだ。だから「地球にやさしく」という言葉ほど、傲慢な言葉はないと常々感じているところだ。

先日、グレードアップされたタイカンの2024年モデルが発表になった。初めてフェイスリフトが施され、これまでのやや愛嬌のある顔つきから、精悍さが増し力強いイメージとなった。同時に車載バッテリーも強化され93.4kWhから105kWhとなり、航続距離も何と678kmに伸びている。実際に使用しているオーナーの立場からすると、これは、とても大きなメリットであると思う。この航続距離があれば、前回の上越市までの旅行のようなことも発生しなかっただろう。

前述のようにトラブルはほぼ無かったが、僅かに2回だけ、スタート時にナビ画面が立ち上がらないことがあった。しかし、十数分待てば初期化が終了し復活することが判ったので、不安材料ではない。タイヤは、2セット目でまだリアが6部山、フロントが7部山程度で当分は問題なさそうだ。

冒頭にも書いたが、2年間、タイカンに乗っての一番の感想は、これまでと変わらぬポルシェライフを楽しめた、ということに尽きる。

最新の情報として、最高級グレードのタイカン・ターボGT、ターボGTヴァイザッハパッケージが発表となった。着実に進化し続けるタイカンに敬意を表するとともに、テスト車のタイカンがもはや古くなってしまったか、という恐れも感じるこの頃だ。


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