アカデミー賞をはじめ世界の映画賞にノミネートされた数は246、受賞した数は88という大評判の韓国・アメリカ合作映画『パスト ライブス/再会』が、4月5日(金) から全国公開される。ソウルニューヨークを舞台に、幼なじみ韓国人男女の24年を描く。せつない恋心ただよう、ロマンチックな人生賛歌。こういういい後味の映画、久しぶりだ。

『パスト ライブス/再会』

昨年のアカデミー作品賞受賞作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』など、配給する作品の多くが高評価を受ける気鋭の映画会社A24と、2020年の作品賞『パラサイト 半地下の家族』の韓国CJ ENMによる初の共同製作。サンダンス映画祭の上映で絶賛されたところから始まり、全米でも4スクリーンの公開スタートだったが口コミの人気によって5週後には900スクリーンに拡大、興収1,000万ドルを超えるヒットとなった。オスカーこそ逃したものの、この来歴を聞くと、そりゃきっといい映画に違いない、と映画ファンなら思うだろう。

といって、そんなに驚くほど派手なストーリーや仕掛けがあるわけではない。

劇作家で、この作品が長編監督デビューとなるセリーヌ・ソンの作品。オリジナル脚本、彼女の実体験をもとにしているという。

主人公のナヨンは12歳の時に、映画監督の父と画家の母のカナダ移住に伴い、ソウルを離れる。負けん気が強く、泣き虫で、泣いているといつも隣にいてくれたのが、両想いのヘソンだった。

時が経ち、24歳のナヨンは名前をノラに変えており、劇作家を目指し、ニューヨークに。そんな折、ソウルに住むヘソンが、ノラの父のFacebookにアクセスしてきて、ふたりはビデオチャットで12年ぶりに再会することになる。そのときは、お互いを思う気持ちはあるのだけれど、どうしても踏み出せない。

そして、36歳になったふたりは、ニューヨークで再会する。ノラは作家のアーサーと結婚している。ヘソンはまだ独身。彼の渡米の目的は、彼女に会うことだった。さて、この恋のゆくえは……という展開。

ノラ役はグレタ・リー。韓国系移民2世の俳優だ。ヘソンを演じているユ・テオはニューヨークロンドンで演劇を学んだ韓国系俳優。最近はソウルに拠点を移して活動している。ふたりともこの作品出演で注目された。アーサー役のジョン・マガロもインディペンデントのケリー・ライカート監督作『ファースト・カウ』で主演しているが、やはりビッグネームというわけではない。

ニューヨーク、午前四時。ノラとヘソン、そしてアーサーがマンハッタンのバーで歓談しているところから映画が始まる。男ふたりに挟まれて座るノラの通訳で会話は、韓国語になったり、英語になったり。話がはずむ再会したふたりを見ながら、どこか、居心地が悪そうなのはアーサーだ……。

“イニョン(縁)”という韓国語についてノラが話す。「摂理、または運命。韓国人が相手を口説くときによく使う言葉なんだけど、見知らぬ者同士が道ですれ違ったときに、袖が偶然触れるのは、前世—パストライブス—でふたりの間に“縁”があったから……」。

ノラがトイレで席を立ったとき、ヘソンはあまり流ちょうでない英語でアーサーに「君と僕は“縁”があるんだ」と気まずそうにいう。

「袖振り合うも他生の縁」、日本語の辞書に載っているようなフレーズが、実はこの映画のテーマ。

「すごくシンプルに言えば、人として存在するとはどういうことかというのがテーマなんです。あるいは、自分が生きる人生を選ぶとは、どういうことか……」とソン監督は語る。さまざまな局面での選択が、その後の人生を決める。もしあの時、それを選ばなかったら、どんな巡り合わせになったのか?

ピーターチャン監督の香港映画『ラヴソング』に思いを馳せる。大陸から夢を求めて香港にやってきたレオン・ライとマギーチャン演ずる男女の、香港とニューヨークを舞台にした、10年にわたる出会いと別れのドラマ。オープニングとラストシーン、実は同じ列車で香港に着いていたことを明かし、ふたりの縁(えにし)を描いていた。

日本人の我々には共鳴できる東洋的なメンタリティの世界なのだけど、アメリカ国内のみならず、世界で受け入れられたというのは、ちょっとうれしい。

いくつもの心に残るセリフがあるのだが、「会いたかった……」といって言葉にならない再会のシーンのふたりには泣きました。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

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「……これを観た人はみんな結末について考えると思うんですよ。この結末でよかったのか、それともどうなったらよかったのか……」

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『パスト ライブス/再会』