ビジネス街のど真ん中、オフィスビルの3階。そこには、アーケードゲームがずらっと並び、子どもも大人も夢中でプレイしているという不思議な光景が広がる。
【UXデザインのプロが2ヶ月でつくったインディーゲームを遊んでみた!の画像・動画をすべて見る】
この日は、企画展「人生の大切なことをゲームから学ぶ展」のプレイベントだった。
会場では、インディーゲームにインスパイアされたという8つのゲームを展示。作品には、それぞれ「人生の大切なこと」がテーマとして設定されている。
今回の展示品は、ゲームクリエイターによる作品ではなく、広告制作会社のたきコーポレーションに所属するクリエイターたちが、本気で開発している。
本記事では、2024年3月15日(金)から4月14日(日)にかけて、東京のGOOD DESIGN Marunouchiで開催される企画展「人生の大切なことをゲームから学ぶ展」の様子をお届けする。
イベント内容に加え、展示作品をつくり上げたクリエイターたちの鼎談を通して、本企画の見どころを紹介していく。
会場では、8つのゲームを体験可能プレイベントには、7種類のゲームが展示されていた。本番の展示会では、さらに種類が増え、8つのゲームを体験できるようになる。
それぞれ筐体が用意されており、RPG、サバイバル、脱出、アドベンチャー、シューティング、アクション、ストラテジー、シュミレーションなど、さまざまなジャンルが網羅されている。
基本的には簡単なリモコン操作でプレイでき、ルールもシンプルなので、小さなお子さんやゲーマー以外の人でも気軽に遊べるようになっている。
また会場には、企画の監修をつとめた専門家のコメントや、企画に際して行われた、ゲームと学びに関するアンケートの結果も展示。
その他、入り口付近には昔のプリクラのような仕掛けも用意されていた。
展示会のビジュアルがデザインされたフレームで写真を撮ることができ、その写真がシールとして出力されるのが楽しい。
UXデザインのプロたちがつくるゲーム展ゲームをデザインしたのは、いわゆるゲームクリエイターではなく、370名のクリエイターが所属するたきコーポレーションのメンバーたち。
プロジェクトには、普段はデザイナーやコピーライター、プランナー、ディレクターとして、商品やサービスのブランディング、クリエイティブ制作を行っているUX(※)デザインのプロたちが参加している。
※UXとは「ユーザーエクスペリエンス」の略。顧客が商品やサービスを通じて得られる体験を指す
しかし、なぜゲームを専門にしていないクリエイターたちが「ゲーム展」を行うのか? その理由は、展覧会のコンセプト文にある。
“ぼくたちは ゲームを通じて人生を 体験していたのかもしれない”
“この展示会はUXデザインの視点からゲームを捉えたはじめてのゲームデザイン展です”「人生の大切なことをゲームから学ぶ展」公式サイトより
この展示会の根底には「我々は、ゲームにおいて困難を乗り越える過程で、人生の教訓やルールのようなものを自然と学びとっているのではないか?」という問いがある。
実際、ゲームから教訓を得たことがあるという人は多いのではないだろうか?
そして、その経験の中には、ゲームクリエイターたちによってデザインされたものもあるはずだ。
クリエイターは、キャラクター、操作画面、ストーリー、サウンド、パッケージなど、ありとあらゆる要素を通して、わくわくするような体験をデザインしている。
1970年代後半の『SPACE INVADERS』にはじまり、アーケードゲームからファミコン、スマホやタブレットによるゲームまで……時代を超えて愛されてきた「ゲーム」のデザインに敬意を表し、UXのプロたちがゲームをデザインする。それが、今回の企画展だ。
では、UXデザインのプロたちは、今回のゲームをどのようにデザインしたのだろうか?
企画の段階から関わってきた3名のプロジェクトメンバーに語ってもらった。
はじまりは「人生のシミュレーション」というアイデア──そもそも、この企画はどんな風に立ち上がったのでしょうか?
藤井賢二 展示会場のGOOD DESIGN Marunouchiさんの公募に出てみないか? と声がかかったのがそもそものはじまりでした。
藤井賢二 公募だったので、ゲームをつくる企画というのが通るのか、不安はありました。
ただ、僕は昔ゲームが好きで、社内にも結構なゲーマーがいたりして。もしここで審査に落ちたとしても、どうにかして実現させたいと思えるくらい、ゲーム制作への熱量があった。それで、思い切って提案してみたら採用されたんです。
企画を練っていく中で、最初に出たのは「日常の出来事がゲームになったら面白いんじゃないか?」というアイデアでした。会社の面接みたいに、人生の大事なポイントをゲームにしてシミュレーションする。
「結婚編」「老後編」のような形で、人生の役に立って、子供でも遊べるゲームがいくつかあれば、面白い展示になるんじゃないかと思ってましたね。
最終的には、ゲームとして面白いものにするためにも、「ゲームから学びとれる要素とは何か?」というのを分析して、ゲームに落とし込むという方針に変わっていきました。
──展示されている8種類のインディーゲームはどのように生まれたのでしょうか?
藤井賢二 展示全体を楽しんでいただくために、ゲームのジャンルはバラエティ豊かになるよう、ある程度意識していました。
それから、仮説として立てていた「ゲームから学びを得る」という体験についてディスカッションを重ねたり、実際に学びを得たという方のnoteやポストを分析したりして。
そのうえで、社内のメンバーに協力してもらって、ゲームで勉強になったことをバーっと洗い出していったんです。
最終的に、集まったデータを分類してみると「ゲームから得られる要素」として8つのテーマが生まれた。そこから各ゲームをつくっていきました。
若者から80代まで、ゲームから学びを得た人は6割──会場には、Webアンケートの結果も展示されていますね。
藤井賢二 ただゲームをつくって展示するだけでは、我々の仮説を押し付けることになりかねない。
「実際、世の中の人はどう思ってるんだろう?」というのを調査をして、結果を共有したほうが説得力が生まれると考えていました。
藤井賢二 そこで、500人ぐらいの方にご協力いただいて、Webアンケートを行ったんですね。
データが偏らないよう、ゲームが好きな人ばかりではなく、あまりゲームをやらないという人の回答も集めるように気をつけました。
重視したのは直感的にプレイできるデザイン──今回はどうしてレトロゲームのような筐体をデザインしたのでしょうか?
川郁子 私は今回、ビジュアルのデザインやアートディレクションを担当しました。
検討段階では「スーパーファミコンっぽいデザインがいいかな?」とか、いろいろ意見が出ていたんですが、よりミニマムなデザインを考えていった結果、さまざまな世代がプレイしやすい、レトロゲームになっていきました。
藤井賢二 今の時代、ハイクオリティな映像を用いたゲームをつくることも可能です。ただ、僕たちはゲーム会社に対抗するようなゲームをつくりたいわけではなかったんです。
表現のレベルや仕組みを昔のレベルに落とすことによって、ゲームの新しい可能性を見つけたかったんですよね。
内山堅 シンプルなフォーマットには、理解がしやすいという利点もあります。今回は展示会なので、1プレイの想定時間は30秒から2分程度。
内山堅 そのためには、プレイヤーが直感的にゲームを理解し、すぐ操作できるというスピード感が必要です。ストーリーや導入までの理解が長くなるとプレイしにくいですからね。
──レトロゲームのフォーマットでデザインしていくにあたり、意識したことはありますか?
川郁子 レトロゲームといっても、年代によって、絵のタッチが違うんです。そういうのにも詳しい人がメンバーにいるので、「あんな感じにしよう!」というアイデア出しはスムーズでした。
川郁子 今回出展しているゲームのうち、私がデザインした『ASTRO SURVIVOR』は、色数が多かったり、光の表現にこだわりました。どちらかといえば「最近のインディーゲーム」の雰囲気を取り入れた部分もあります。
ただ、全体的に、昔のレトロゲームのデザインをリスペクトしていきたかったので、そういう要素は研究して、取り入れていきました。
藤井賢二 まぁ、シンプルなゲームにしたのは、単純に2ヶ月しかない、という制作期間の問題もありましたけどね(笑)。
クリエイターたちの人生を変えたゲーム──企画コンセプトの“ぼくたちは ゲームを通じて人生を 体験していたのかもしれない”というメッセージが印象的でした。皆さんの人生に影響したゲーム体験を教えてください。
藤井賢二 僕は、ベタですけど「ドラゴンクエスト」シリーズみたいなロールプレイングゲームが好きでした。
なんとなく誰かに話を聞いて、ヒントをもらいながら徐々に謎を解明していく。その経験は大人になっても、仕事に活かされている。未知のものに向かっていく時のノリは、なんとなくゲームから教わったような気がしますね。
川郁子 私の家ではゲームを買ってもらえなかったので、ゲームというと、小さい頃は友達の家でちょこちょこやるくらいでした。
それが、大人になってから「どうぶつの森」シリーズにめちゃくちゃハマってしまったんです。毎日何時間も同じゲームをやり続けるっていう体験をはじめてしました(笑)。
川郁子 田舎育ちなので、東京は、自然がなくて嫌だなと思うことがあって。それが、「どうぶつの森」の世界に行くと虫の声とかが聞こえてくる。なにもしないで、ただそこにいることを楽しんで、ふらふらするんです。
コロナ禍は特に癒しを求めて、虫の声を聴きにいったりとか、波の音を聴きにいったりとか。別世界への旅行みたいな感覚でゲームの世界に行ってました。
内山堅 僕はマイコン世代なので、自分でプログラムして簡単なゲームをつくったりしていた、最初の世代かもしれないですね。当時ハマったのは、ひたすら穴を掘ってエイリアンを埋める『平安京エイリアン』っていうゲーム(笑)。
※『平安京エイリアン』は、1979年夏に東京大学の理論科学グループ(略称:TSG)が開発した固定画面アクションゲーム
東大の学生さんがつくったゲームなんですが、ゲームコミュニティーですごい流行って、最終的にはコンソール(家庭用ゲーム機)のゲームソフトとして発売されたんですよ。小学生だった僕は、そのコンソール版を買ってもらって。めちゃくちゃ集中してプレイしてました。
基本的には、同じ挙動を繰り返す系のパターンがあるゲームが好きですね。シューティングとか、打つだけのゲームとか。自らの技術を上げていくトレーニング系のやつ。
つくりたいものがつくれる時代、クリエイティブの“未来”とゲーム──2023年には、ファミコンが発売40周年を迎えました。今では、当時子どもだった世代が父や母になったりしていますよね。今回の企画は大人から子どもまで、それぞれの感覚で楽しめると思いましたが、どんな風に楽しんでほしいですか?
藤井賢二 僕の中には、今回の展示に関して「ゲームを自分でつくれる時代になってきたよ」みたいな裏メッセージがあって。
僕は今、40代後半なんですけど。自分たちの世代では、ゲームは提供されるものというか、金を払って遊ぶものっていうのが当たり前だったと思うんです。
でも、多分これからは、自分でもつくりたければゲームをつくれるようになっていく。
さっきも話に出ましたが、今回のゲームはほとんど2ヶ月で制作しました。僕らはプロではないけど、使える素材をうまく使ったり、AIを使ったりと、工夫してゲームをつくることができた。
「想像力次第、考え方次第でつくりたいものがつくれるよ」っていうのを伝えたいですね。
もう一つ考えていたのは、どんなものでも何かしらの意味があるんだよってこと。アホみたいに連打するだけのゲームでも、その中で「時間の大切さを感じる」こともある。
川郁子 私も同じような感じですね。今回の展覧会に関しては、それぞれのゲームに「人生の大切なこと」がテーマとして設定されています。
プレイする人には「このゲームの伝えている大切なことは何かな?」って、クイズみたいに考えながら遊んでほしい。これを機に、自分がこれまでにやってきたゲームの意味についても、改めて考えてみて欲しいです。
「自分が『人生の大切なこと』をテーマにゲームをつくるとしたら、どうなるかな?」ってお父さんとかお母さんと一緒に話したりしてもらえたら、一番嬉しいですね。
──みなさんのお子さんも今回のゲームを体験されたんですか?
川郁子 うちの子は、『GOLD RUSH』っていうシューティングゲームを気に入ってました。
まだ5歳なんで「難しい、難しい」って言ってましたが、どんどん武器が出てきたり、撃ったりというのが、感覚として面白いみたいですね。
川郁子 学びを得てくれたかはまだちょっとわからないけど(笑)。
もうちょっと小学校のお兄ちゃんお姉ちゃんぐらいになってくると、考えなきゃいけないゲームもできるようになったりするかなって思うんですけどね。
内山堅 うちの子はもう中学生なので、「パターン覚えたら結構楽勝だね」って吐き捨てて帰って行きました(笑)。
でも、それとは別に、今日専門家のインタビューを熱心に読んでたんです。藤井さんの裏テーマじゃないですけど、今回の展示会は専門家の方の視点やゲームデザインの観点について伝えるものでもあります。子どもたちにはやっぱり、そういうことに興味を持ってほしい。
企画段階から、こんな人たちが表現やデザインを設計してゲームができていくんだよ、理詰めでできてるんだよっていうことに対して、学びを持ってほしいなって。小中高生は本当にいいターゲットだなと思います。
「人生の大切なことをゲームから学ぶ展」について、今後は場所を変えた展開や海外進出の話もあるという。
今回の企画を皮切りに、展示内容はまだまだブラッシュアップされていきそうな気配だ。
まずは、記念すべき初回、熱い大人たちのゲーム展を、大人も子どもも、ぜひ体感しに来て欲しい。
【藤井賢二さん推薦コメント】
展示ゲームのうち、『MONSTER REVENGE』(通称:さるかに合戦。蟹の復讐劇)と『GOLD RUSH』(西部劇風シューティングゲーム)、『地獄連打』は僕が設計しました。
その中でも一番のお気に入りが『GOLD RUSH』です。
ザ・ゲームという感じで、玉を打つ時の音のフィードバックの爽快感がある。楽しさ、心地よさ、単純さ。ファミコンでこういうゲームをやってたお父さん世代とお子さんでも盛り上がれるかも。
【川郁子さん推薦コメント】
思い入れがあるのは、自分でデザインした『ASTRO SURVIVOR』です。
可愛い女の子のキャラクターが、暗い世界を懐中電灯で照らしながら冒険していくという内容で、SFファンタジー感ある世界観になっています。
おしゃれなゲームを意識して、音楽もミュージシャンに依頼して癖のある感じにつくってもらったりと、こだわっています。
【内山堅さん推薦コメント】「人生の大切なことをゲームから学ぶ展」公式サイト
一番のお気に入りは『地獄連打』。不条理な条件下でひたすら連打だけをさせられるという単純作業がツボです。
本当は大きなボタンで操作したいゲームなので、コントローラー側にもこだわりたかったのですが、そこは次の機会に。
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