空中給油機はその名のとおり、飛行中に別の航空機へ燃料を給油する機能を持った航空機です。しかし実は、地上でも他機に給油をすることが可能なのです。どのような方法で実施するのでしょうか。

「FARP」という装置を用いれば

空中給油機はその名のとおり、飛行中に別の航空機へ燃料を給油する機能を持った航空機です。しかし実は、地上でも他機に給油をすることが可能なのです。どのようなときに、どのような方法で実施するのでしょうか。

これを行うには、FARP」と呼ばれる装置を用いる必要があります。FARPは「Forward Area Refueling Point(前線基地給油点)」の頭文字を取ったもので、ポンプとブラダー式のタンクで構成された可搬式のシステムです。これにより、前線で急造された飛行場においても、他の航空機への燃料補給を可能にしました。

米空軍嘉手納基地に所属する第353特殊作戦群は、このFARPを装備している部隊の一つです。同隊のMC-130P「コンバット・シャドウ」特殊作戦機は空中給油機でありながら機内に貨物室を持ち、機材や人員を輸送する能力を持っています。必要に応じて、貨物室にFARPを搭載して前線飛行場に向かうことにより、まるで屋台のように「出張ガソリンスタンド」を“出店”することができるのです。

この空中給油機による「出張ガソリンスタンド」の展開は、過去に日本でも行われました。

たとえば広範囲にわたり甚大な被害が発生した東日本大震災。道路や鉄道など陸上の輸送網は機能を失い、被災地域の空港では航空機に燃料を補給することができなくなりました。また、津波による被害で仙台空港と航空自衛隊の松島基地が使用不能になったため、被災地で活動するヘリコプターへの給油拠点に選ばれたのが山形空港でした。

このとき在日米軍は「トモダチ作戦」の開始とともにFARPを搭載したMC-130P特殊作戦機を山形空港へ派遣。山形空港に展開したFARPには4個のブラダータンクが接続され、それらの合計容量はおよそ16トン(3万6000ポンド)でした。

MC-130Pに搭載されていた燃料がFARPのタンクに移され、それが被災地で生存者の捜索と避難所への救援物資の輸送を行っていた自衛隊と米軍の双方のヘリコプターに給油されました。トモダチ作戦の期間中に第353特殊作戦群のMC-130Pはおよそ83トン(18万5000ポンド)の燃料を空輸したと報告されています。

3.11が変えた?空中給油機による「出張ガソリンスタンド」の使い方

東日本大震災ではFARPにより、被災地に近い拠点で燃料補給を行うことで効率的な救難救助活動が可能になることを実証しました。これはFARPに対する評価に変化をもたらしました。

それまでFARPは軍事作戦における使用だけを想定して実用化され装備されてきましたが、山形空港での実績により、人道的支援を目的とした作戦においても、FARPの有用性が認識されることになったのです。

地震国の日本では2024年、能登半島大地震が発生しました。道路が寸断されて被災地への物資の輸送が困難であったことが報道されています。能登空港も被災したため滑走路の復旧が終わるまで空港は使用できませんでしたが、場合によってはFARPを使用して空輸活動を効率的に行えた可能性があります。

海上自衛隊ではMC-130と同系のC-130輸送機をベースにした空中給油機KC-130を運用していて、航空自衛隊ではC-130H輸送機を保有しています。もし自衛隊機にFARPを搭載すれば被災地に近い空港へ給油設備の出前を行うことが可能になるでしょう。

今後もし「南海トラフ大地震」が発生した場合、東日本大震災を上回る被害が発生する可能性も想定されています。筆者は自衛隊でもFARPを装備して国防と防災の両面で活用することが重要であると考えています。東海地域における大規模災害を想定するならば、静岡空港や浜松基地でFARPを用いた給油訓練を定期的に行うことは大きな意義があるでしょう。

MC-130E「コンバットタロンII」が曳航する「ドローグ」に対して、「プローブ」を差し込み、空中給油を受けるMV-22B「オスプレイ」(画像:アメリカ海軍)。