悪魔の血を引く少年・奥村燐(CV:岡本信彦)が、父親である魔神(サタン)を倒すために最強の“祓魔師(エクソシスト)”を目指す『青の祓魔師』のTVアニメ第3シーズン『島根啓明結社篇』(毎週土曜夜24:30-25:00ほか、TOKYO MXほか/U-NEXTHuludアニメストア・アニメ放題ほかで配信)。悪魔とのド派手なバトルが見どころのダークファンタジーながら、家族や友達との絆、葛藤や成長、青春コメディまで、少年漫画の醍醐味がギュッと詰まった大人気シリーズだ。つい先日最終話の放送が終わったばかりではあるが、さらなる続編「雪丿果篇」の制作が発表され、ファンの盛り上がりは最高潮に達している。そこで今回は、主人公の奥村燐を演じる岡本信彦さんのインタビューをお届け。猪突猛進でおバカな燐を演じ続ける苦労とは?

【写真】燐が志摩廉造を殴りつける9話のハイライトシーン

■「バカってなんだっけ?」から燐を取り戻す

――『島根啓明結社篇』は約7年ぶりとなる新シリーズとなりました。

岡本信彦 最初は「本当にやれるんですか?」っていう驚きや喜びが大きかったんですけど、だんだんと「それも当然か」と思うようになりました。ジャンプフェスタに出演させていただくたびにファンの皆さんからすごい熱量を感じていましたし、僕自身も原作ファンのひとりとして『青エク』という作品が持つパワーの大きさを知っていましたから、妙に納得した自分もいたんです。

――久しぶりに燐を演じるに当たっては、これまで積み重ねてきた経験がむしろ障害になったらしいですね。

岡本 13年前に初めて燐を演じたときは僕も20代半ばで、とにかく「大声を出す」ことが最大の武器だったんです。それ以外はできなかったと言ったほうがいいくらいで…でもそれが燐のキャラクター性とうまくマッチしたんです。それから色々な経験を積み重ねてきた今となっては、ふと「あれ? 燐ってどうやればいいんだっけ?」と(笑)。燐が今の自分とあまりにかけ離れた存在になっていることに気付いて、その時はちょっと絶望しました。もう一度あの頃のように、本当に何も考えていない感じをイメージして、一生懸命声を出すことだけに集中することで、ようやく当時の感覚を取り戻していった気がします。ただしそうなるとデメリットもあって、頭の中を空っぽにして読むので、台本に書かれている漢字が読めなくなるときがあるんです(笑)。

――それは困りますね。とくに『島根啓明結社篇』の入りは学園コメディで、燐のテンションも高いので余計に難しかったかもしれないですね。

岡本 そうなんです。しかも第1話の冒頭がけっこう特殊で、燐のモノローグと言うか、ナレーションから入るんです。聞こえ方として、最初はナレーションっぽく、燐の顔が映ったら徐々に燐に寄せていってほしいという演出があったので、そこのバランスはめっちゃ難しかったですね。これには「あれ? 岡本、燐の声忘れてる?」って思った人もいたみたいなんですけど、あれは演出ですからね!(笑)

――改めて、今の岡本さんからみた燐の魅力はどんなところにあると思いますか?

岡本 人を笑顔にする力とか、燐だったらなんとかしてくれる「かも」しれないところですね。この「かも」っていうワードはとても大事で、決して「なんとかしてくれる」っていう断定ではないんです。その不安定な感じが可愛くもあって、燐の魅力に繋がっているのかなと思います。実は僕自身、最初は燐の良さってあまりピンときてなかったんですが、『京都不浄王篇』の頃からだんだんと彼の魅力に気付いていった気がします。表向きの雰囲気は不良っぽさもあるんですけど、でももし僕がクラスメイトだったとしたら、怖いけどちょっとだけ近づいてみたいなって思わせてくれる何かがあるんですよね。

■劇場版の収録では意識が朦朧!?

――過去のシリーズでもっとも印象深いエピソードはどこですか?

岡本 TVアニメ第1シーズンの第2話です。獅郎が燐を守るために命を断つシーンは、奥村兄弟にとってはすべての起点とも言える出来事ですし、燐にとってはこれまで見てきた景色が180度変わったかのような体験だったと思うんです。あとこのシーンは、アニメーションとしてもとても印象的でした。燐が獅郎を助けるために「死ぬなジジィ!」と言って降魔剣を振るシーンは、壮大な演出がついていたこともあって、僕のお芝居としては最初はヒーローとして派手に演じて、その後、父親を失った悲しみにシフトしていく感じだったんです。だけど実際に放送された本編を観たら、作画こそド派手なんですけど、音楽はずっとピアノの悲しい旋律が流れていて、それにすごく驚きました。あとで音響監督さんに聞いたら「燐の気持ちを思ったら、この音しかない」と言われてすごく納得した記憶があります。

――たしかに『青エク』は音楽でキャラクターの気持ちを表現することが多いですよね。では、アフレコ現場での思い出という意味ではいかがですか?

岡本 それで言うと、劇場版(『青の祓魔師 ―劇場版―』2012年)はとても印象深いです。映画作品はだいたい丸一日かけて収録することが多いんですけど、この時は朝10時から収録が始まって、最終的に深夜1時くらいまでかかったんです。当時は僕も若かったので、とにかく最初から全力で声を張っていたら、獅郎役の藤原啓治さんから「それで最後までもつか?」と心配されました。それでも「頑張ります!」って元気よく答えて(笑)。そしたら案の定、最後のほうには意識が朦朧としてきて。最後のシーンはほとんど覚えてないんです。収録でそこまで体力を削られたのはそれが最初で最後の経験なので、役者としてはとてもいい経験をさせていただいたなと思っています。仕事として考えれば決して美しいとは言えないですけど、それでも朦朧とした意識のなかで絞りきったあの芝居は、あれはあれで良かったのかなとも思うんです。

――今作でキャスト陣が集まったのも久しぶりだと思います。久しぶりの掛け合いはいかがでしたか?

岡本 僕がこんなことを言うのもおこがましいかもしれませんが、皆さんのお芝居を間近で拝見して改めて「めちゃめちゃうまいな」と唸らされました。声は7年前のまま、一行のセリフに隠された複雑な心境変化など、皆さん本当に絶妙な表現をされていて、ただただ凄いなと、驚きと感心しかありませんでした。とくに第1話は、僕が燐の芝居を探るなかだったので、皆さんの声を頼りに燐を取り戻していった感覚もあって、ありがたかったです。

■燐はだんだんと主人公っぽくなってきている

――『島根啓明結社篇』は主に神木出雲や志摩廉造がクローズアップされましたが、燐の視点で見るとどのように成長したと感じますか?

岡本 『京都不浄王篇』を経て青い炎をコントロールできるようになったことは大きいです。みんなを傷付けずに戦えるというのは燐としても嬉しいだろうし、彼のヒーロー的な気質がだんだんと表に出てきているような気がします。サタンスラッシュとかサタンボムとか、必殺技に名前を付けて叫ぶのも、燐的には成長ポイントだと思います。出雲のピンチに駆けつけたりもしますし、昔に比べるとだんだんと本当の主人公っぽくなっている感じがします。

――今シーズンを振り返って、印象深いシーンはどこですか?

岡本 やっぱり外道院ミハエルに尽きます(笑)。檜山(修之)さんのパワフルなお芝居もあいまって、強烈なキャラクターになりました。情けをかける余地が一切ないほど悪に振り切った存在なので、燐にぶっ飛ばされたときや最後に弾け飛んで消えたときはスカッとした人も多いんじゃないかと思います。あと玉雲と出雲の死別のシーンはやはり泣きそうになりました。

――今回のエピソードを通じて、出雲の解像度は一気に上がりましたね。

岡本 そうですね。以前までは、好きなキャラクターを聞かれたら「可愛くてツンデレだから」という理由で出雲の名前を出していたんです。でもこのエピソードを観た後には、軽々しくツンデレとか可愛いとか、口が裂けても言えないです。今では「本当に幸せになってほしいキャラクター第1位」っていうイメージです。

――かなりシリアスなストーリーでしたが、最後は志摩も戻ってきて学園コメディとして幕を閉じました。とくに第11話ではエセ京都弁で喋る燐が印象的でした。

岡本 僕は東京出身なので、京都弁や関西弁はまったく話せないんです。ただディレクションもとくになかったので、完全に僕の中での勝手な志摩のイメージで喋りました。京都出身で志摩役の遊佐浩二さんに聞いたら「絶妙にムカつく」って言われたので、これでいいんだなと確信しました(笑)。

――最終話となる第12話では、ウォータースライダーを巡るドタバタ劇もあり、久々のコメディ回でした。

岡本 あれはヒドかったですね(笑)。でも収録はすごく楽しかった。それまでは展開が展開だけに、収録中もあんまり笑ったりできない空気感があったので、それが解き放たれた感じがしました。それにしても燐と志摩のコンビはやっぱりいいです。「こいつら本当におバカだな」っていう感じで笑顔で終われたのは本当に良かったです。

――そんななか気になるのは、雪男ですよね。

岡本 雪男は最初からずっと火山の噴火前みたいな状態ですから。燐としては、今回はずっと出雲たちを救出するというミッションが動いていたので、雪男と同じ方向を向いている時間が長くて、そこはラクだったと思うんです。これまでのように、営業スマイルを向けられて「心配ないよ」とスッとどこかへ消えられてしまうことがあまりなかったですから。その分、最終話ではやられましたが。とは言え、燐と雪男はいつか腹の底から本音を言い合ってぶつかり合わないと、このままじゃダメだなって感じます。

――続編「雪ノ果篇」制作も決定しましたし、そこは続編に向けての期待ですね。

岡本 そうですね。まだまだ燐も雪男も詳細なバックボーンも語られていないままですし、そこも含めて今後の展開に期待したいです。原作もまだまだ盛り上がっているところですし、アニメでは敵がイルミナティであることが確定したばかりですから、むしろ『青エク』のメインストーリーはこれからっていう感じがして、僕も楽しみでたまりません。

――最後に、岡本さんにとって『青エク』はどんな作品ですか?

岡本 「自分の代表作ってなんだろう?」って考えたときに、主人公を演じることが代表作だと定義するなら、『青エク』は僕の数少ない代表作と言って間違いないです。

――「数少ない」というのは意外ですね。

岡本 実は主人公役ってあんまりなくて、僕の場合むしろ主人公のライバル役が多いんです。僕自身が主人公っぽい性格じゃないからかもしれませんが、ただ燐についてはとても素直に共感できるところが多くて、演じやすいんです。

――『青エク』は王道の少年漫画ではありますけど、燐自体は王道の主人公像とは少し境遇や立場が違うかもしれません。

岡本 それが良かったんだと思います。そもそもこのような超大作で主人公を演じさせていただくこと自体が天文学的な確率だと思いますが、そのうえで燐のような共感度の高いキャラクターと出会えたことは本当に幸運です。自分にとっても大きな財産ですので、これからも大切に演じていきたいなと思います。

■取材・文/岡本大介

「青の祓魔師 島根啓明結社篇」第1話より/(C)加藤和恵/集英社・「青の祓魔師」製作委員会