ケント・エンジンで武装したコルティナ
1962年9月、英国フォードはアングリア 105Eより上のクラスに該当する、新モデルを発表した。当初はコンサル 225を名乗る予定だったらしい。しかし最終的に、上層部は1956年の冬季オリンピックが開催された地名に由来する名前、コルティナを与えた。
【画像】英国の定番乗用車 5世代のフォード・コルティナ 同時期の名車 BMC ADO16シリーズも 全83枚
実際のところ、スキーリゾートとのイメージ的なつながりは薄く、英国市民の日常的な暮らしへ浸透していった。お隣と壁が連続した住宅の前が、定番の駐車位置になった。
ロータスの魔法的な技術力によって、サーキットでは伝説も築き上げた。ブライアン・ハーヴェイ氏がオーナーの、1964年式ロータス・コルティナを眺めていると、ジム・クラーク氏やジャッキー・スチュワート氏など、名ドライバーの姿が自然と思い浮かぶ。
アメリカ・ミシガン州に拠点を構えるフォードは、モータースポーツでブランドの知名度を高める5年プロジェクトを1960年代初頭に実施。マーケティングに長けたドライバー、ウォルター・ヘイズ氏に計画の立案を託した。
1962年の夏、資金繰りに苦労していたロータスは、コルティナ・デラックスを開発車両として受領。半年後の1963年1月23日、ロータスが開発に関わったコンサル・コルティナが発表される。その秋には、レース参戦のホモロゲーション車両としても認められた。
1558ccツインカム「ケント」エンジンで武装したコルティナは、当時の小型ファミリーカーとしては桁違いの能力を発揮。内側のタイヤを浮かした三輪走行状態で、サーキットのコーナーを鋭く旋回する姿に多くの市民は魅了された。
誇張されたイメージ以上のクルマ
その頃は、ACBC(アンソニー・コーリン・ブルース・チャップマン)のエンブレムを貼った、ロータス風コルティナを英国の町中で目にする機会も少なくなかった。一般的な1200スタンダード・グレードをベースに、グリーンのサイドストライプを入れて。
だが、ハーヴェイのロータス・コルティナは本物。CNO 510Bのナンバーで登録された1台を1978年に購入し、1984年から1996年にかけて徹底的なレストアを施している。
「ロータスが設計した、Aブラケット付きのリア・サスペンションが付いています。これは、1965年以降はリーフスプリングへ置換されたアイテムです」
「1980年代から1990年代に開催された、1965年以前のサルーンカー・チャンピオンシップ・レースに向けた装備も組んでいます。調整式のショックアブソーバーや、高い剛性のスプリングなど。リアのブッシュで、車高も変えられますよ」
「リアアクスルのケースは強化品で、ブレーキライニングもレース用。キャブレターの吸気音やエンジンのノイズが、これらすべてを価値のある内容にまとめていると思います」。ハーヴェイが熱意的に説明する。
「ロータス・コルティナは、誇張されたイメージ以上のクルマだと思います」。こんな血気盛んなクルマが乗用車として売られていたのだから、素晴らしい時代だった。
英国で最も売れたクルマへ登りつめた
1966年10月、コルティナはMk2としてモデルチェンジ。フォードはプロモーション活動の一環として、ディーラーに販売記念のパーティで「ミス・コルティナ」コンテストを実施するよう促したという。
俳優のレスリー・フィリップス氏が出演する映画の告知イベントにも登場し、2代目コルティナは1967年に英国で最も売れたクルマへ登りつめた。BMCの主力車種、ミニよりひと回り大きいADO16シリーズ以上に多売だった。
その勢いを加速させたのが、1968年に追加された特別仕様の1600Eだ。クラス上のフォード・ゾディアックなどに設定されていた上級グレード、エグゼクティブのコルティナ版だったが、それらより多くの注目を集めている。
ふんだんな標準装備のほか、GT仕様のエンジンにロータスのサスペンションで走りを強化。ドライバーへの訴求力を高めた内容といえた。モータースポーツ誌は、ダッシュボードの安っぽいウッドベニアが、このクルマには似合わないと評価した。
リチャード・ブラッドフォード氏が主演する映画、「マン・イン・スーツケース」がイメージをリードし、地方で保険を勧誘するような営業マンにとって完璧な移動手段になった。フォードは、3年間に1600Eを5万7524台販売している。
デイブ・スミス氏の明るいブルーミンクに塗られたコルティナ 1600Eは、1970年式。2019年に購入したという。「これは自分にとって初めてのMk2です。期待以上のクルマでした。スタイリングもそうですし、1600Eに盛り込まれた機能や装備のすべてが」
コークボトル・ラインのコルティナMk3
「ロータスのサスペンションは、実際に操縦性を伸ばしています。フォードはこの1600Eで、コルティナの正解を導き出せた感じですね」
当時の広告には、「あなたのクルマは、1週間後も興奮を誘うでしょうか?」という宣伝文句が載っていた。それから54年後、VAE 555Hのナンバーをぶら下げた彼の1600Eは、多くのクラシックカーショーで特定世代の気持ちを高ぶらせている。
「コルティナの周りに人が集まって、今まで維持し続けたことへの感謝を口にしてくれます」。スミスが笑顔で話してくれた。
他方、オレンジのMk3 コルティナ GXLは、1970年代の華やかさをまとっている。ドアパネルにはフェイクウッドのパネルが貼られているが、高価なカラーテレビや上等なオーダースーツを購入できる人が選ぶファミリーサルーンだった。
1970年、上品なデザインのMk2を置き換えるモデルとして、抑揚のあるコークボトル・ラインを与えたコルティナMk3を発表。ロンドン自動車ショーの目玉の1つになった。
豊かさを求めた時代を物語るように、エンジンは1.3Lと、OHVかOHCの1.6L、2.0Lと多彩。2ドアサルーンか4ドアサルーン、ステーションワゴンという3種類のボディスタイルに、5種類のトリムグレードが設定され、35種以上のバリエーションが選べた。
1972年には、コルティナは再び英国のベストセラーに返り咲く。ロジャー・チナリー氏がオーナーのMk3は、その前年の1971年式で、現在は結婚式の送迎や映画の小道具として活躍している。購入のきっかけは、1988年にさかのぼるという。
この続きは後編にて。
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