2024年1月23日放送のTBS系情報バラエティ「ラヴィット!」で、特大のバズを巻き起こした"みょんふぁ"さん(通訳・司会・翻訳・ナレーター・女優)。インタビュー後編をお届けする。

【3月26日最終回放送】「Eye Love You」

前編では「ラヴィット!」の反響や、「親に嘘をついて高校1年からピアノを始めて大阪芸術大学に入った」というエピソードなどを聞いたが、後編ではみょんふぁさんの「そんなことあるんだ」という波乱万丈な人生、そして「"女優で活躍したい"というこだわりを捨てたら、逆に女優の道がひらけてきた」という興味深い仕事論などを取材した。(企画・編集・取材・文/尾崎秋彦)

※前・後編の2回にわけて掲載。本記事はその後編です。

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大阪芸術大学を卒業後、阪神淡路大震災がきっかけで語学を仕事に

――みょんふぁさんの人生が面白くなってきたので、続けて質問します。大学卒業後はどのような進路に進みましたか?

みょんふぁ:卒業して、晴れて演劇の世界へ……と思っていたら、結婚したんです。そのあと、阪神淡路大震災がありました。そこでラジオの番組をやらないかとお話をいただいたんです。当時、被災地の人たちの生活情報の、外国語の番組がなかったんですね。日本語がわからない人たちに、生活情報を届ける必要がありました。電気も復旧していないからテレビはつかないので、ラジオで。

いろんな国の人たちに発信するための、「FMわぃわぃ」という番組です。私は韓国語担当で、2時間ぐらいのコーナーを持ったんです。ですが、そのときはまだ韓国語がしゃべれる状態じゃなかったんですよ(笑)。

読み書きはできましたが、私は在日三世で、両親も韓国語は話せなかった。それでも勉強しながらやって、ついでに「韓国語を勉強しよう!」みたいなコーナーを作って。

そこから翻訳の仕事や、日本語・韓国語の司会やナレーターをやるようになりました。30歳前くらいに離婚して、ニュージーランドに住む叔父が「『男はつらいよ』のミュージカルをやる」というので1年間ニュージーランドへ行き、営業と振り付けと演出を担当し、日本へ帰ってきたタイミングで一発目の韓流ブームがやってきました。

●転機は一発目の韓流ブーム 司会・翻訳・通訳として幅を広げるが、思いは「女優と言いたい」

――「冬のソナタ」や、2002年のサッカー日韓ワールドカップですね。

そこで司会の仕事が増えたんです。ドラマなどのイベントでも、司会者も韓国語がわかるバイリンガルがいい、ということで私に依頼がきたんですね。イベントの通訳は別の方にやっていただいたりして、そして自分でも勉強を続けるうちに、どんどん(言語が)ブラッシュアップされて。それで通訳もやるようになっていきました。だから私、専門的な教育・訓練を受けたわけじゃないんですよ。

――ネットスラング的に言うと、現場で成長した「野生の通訳」として業界へ入り、さらに現場でキャリアを積んでいったんですね。

いい! 野生の通訳! すごいネーミング。そうですね、本当にそうです。もうとにかく私は現場ごとに求められることをやっていって。韓流ブームのおかげで通訳の仕事もすごく増えました。

――なるほど、やはり「冬ソナ」での韓流ブームがあらゆる意味で転機だったと。

ただ、いろんな仕事をしていましたが、その間もずっと思っていたことは、女優をやりたい、演劇をやりたい、ということ。「そとばこまち」の大阪時代などにも番組や作品に出演していましたし、ちょろっとタレント業などもやっていましたが、いろいろなところで「お仕事は何を?」と聞かれた時、「女優です」と言いたいのに、胸を張って言えない。どうしても悔しさがありました。通訳も司会も全部大好きな仕事ですが、やっぱり女優として芝居をやりたかったんです。

男はつらいよミュージカルの経験も影響し、2002年から少し経って、女優・芝居とまた向き合うことにしました(編集部補足:03年から劇団ユニークポイントに所属し、04年には崔洋一監督・ビートたけし主演作「血と骨」に出演)。

演劇界でも、日韓交流が盛んになり始めました。所属している劇団や、個人でも韓国の作品を日本に呼んだり、日本の作品を韓国に紹介したりと、フェスティバルプロデュースやコーディネートもやり始め、そこで自ら通訳・司会・出演も全部担当するようになりました。すると、面白いことが起き始めたんです。

●女優だからというこだわりを捨てたら、女優への道がひらけてきた "今の仕事にモヤモヤしている人"に、勇気を与えるエピソード

――"面白いこと"とはなんでしょうか?

通訳で現場に入ると、女優だったらなかなか出会えない大御所さんと、どんどん出会えるようになっていったんですよ! 演劇界の大芸術家先生とか。英語の通訳もしていたので、ワーナー・ブラザースの会長通訳だとか。

――なるほど。それはまた大きな仕事に繋がりそうな人脈ですね。

それで、ふと「全部楽しもう!」と思ったんです。「私は女優だから」みたいな気持ちを捨てて、「通訳・司会・翻訳・ナレーション・女優・タレント、全部をウェルカムでやろう!」って。そうしたら、景色が変わったんですよ、もうあっという間に、自分でもすごいなと面白く思うくらい。

そこから、通訳の仕事で知り合った方々が手助けしてくれて、2014年に文化庁の海外研修(新進芸術家海外研究制度)に女優として、推薦で選ばれたんです。650人ぐらい候補がいるなかで、「俳優にはもう枠がない」という状況だったのに、私が選ばれたんです。韓国の国立劇団へ、1年間留学することができました。

――「全部の仕事を楽しもう」としたら、まったく別の世界が見えてきた、とても興味深い話です。そして2021年には「母 My Mother」という1人舞台を、みょんふぁあさん企画・主演、「焼肉ドラゴン」「パラサイト」の鄭義信さん作・演出で上演しています。

「母 My Mother」は韓国舞踊をやっていた子どもの頃から夢だった、戦時中に活躍した崔承喜という舞踏家の物語で、これがもうとても好評でした。作・演出の鄭さんとは、映画「血と骨」(鄭は同作で共同脚本)に出演したときに、お名刺交換ぐらいはしていたんですけど、私は演劇では女優としては全然呼んでもらえないくらいすごい方。「まだまだだよ」という感じだったのが、やっぱり通訳ですごく仲良くなって。

本当に私の今の自分があるのは、やっぱり通訳やほかの仕事があったから。「私は女優だから」というこだわりは捨てて、「全部楽しもう」と思ったら、逆に女優の道がバーッと太くなったんです。

――うわー、面白いですねそれは……! つながっているんですね、ほかの仕事がすべて。

そうです。登山に例えると、私は「行きたい山、あっちなのにな。この山は違うのに」と思いながら登っていたんです。どの仕事もすごく楽しいし大好きだけど、どうしても私、あっち行きたいんだけど……と。でも、一生懸命上がると、行きたかった山は尾根伝いでつながっていたんです。

――すごくいいお話です。「自分が本当にやりたい仕事じゃないことをやっていて、モヤモヤしている人」っているじゃないですか。みょんふぁさんの「行きたい山は尾根でつながっている」というお話は、そういった人たちにすごく勇気を与えると思います。

もちろん全部がスムーズだったわけではなく、浮き沈みはありましたけど、重要なことは、ただ「全部を楽しもう」と"気持ちを変えただけ"なんですよ。やっている仕事自体は何にも変わらず、ただ気の持ちようを変えただけで、本当に大きく景色が変わりました。そして楽しむことを続けていたら、「ラヴィット!」のような奇跡が起きたんです。

――ありがとうございます。女優になりたくて親に嘘をついてピアノで大阪芸大に進んで、卒業後は通訳・司会・翻訳・女優として活動し、全部の仕事を楽しもうとしたら女優への道がひらけてきて、時を経てなぜか「ラヴィット!」の通訳として"ヨギソダイブ"で大バズリする、と……。人生、本当に何があるかわからないですね。

そうですね。今回バズって一番嬉しかったのが、日本だけでなく、韓国でも大きな話題になったこと。祖父と祖母に、今の自分を見せてあげたいと、毎日のように思っちゃいます。

●最後に:生涯ベスト映画と、今後実現したいことを聞く

――それでは終了のお時間が迫ってきましたので、あと2つ質問させてください。まず1つ、生涯ベスト映画を教えてください。

風と共に去りぬ」(明日は明日の風が吹く。元気がなくなるとこれを観ます)、「ライフ・イズ・ビューティフル」「ペーパー・ムーン」ですね。どれも、人生なるようになるというか、"ケ・セラ・セラ"がテーマにある作品だと思います

――ありがとうございます。ケ・セラ・セラ。これまでのお話をうかがっていると、みょんふぁさんの生き方の中軸にある言葉のように感じます。では最後の質問です。これから挑戦してみたいこと、達成したいことはなんですか?

まずは日韓をさらに繋げていくことが夢です。そして「母 My Mother」を日本でツアーして、韓国にて韓国語で上演し、最後にはニューヨークのブロードウェイで英語で上演することが、長い夢です。

あと、「通訳さんは見た」というタイトルのドラマを作ってみたいです!通訳の裏話って結構あるので、絶対面白くなると思うのですが(笑)

――ありがとうございます! 本当に多岐にわたってお話を聞かせていただき、楽しかったです。

私も楽しかったです。通訳としての自分をこんなに話したのは初めてでした。ありがとうございました!

みょんふぁ出演情報】

みょんみょんの体で覚える韓国語レッスン 随時

・映画「レンタル×ファミリー」阪本武仁監督 2024年3月6日(水)配信スタート Amazon、U-nextほか

・映画「渇愛の果て」有田あん監督 2024年5月18日(土)東京・新宿K's cinemaほか全国順次公開

・舞台 ワンツーワークス主催「GOTT」2024年7月 下北沢駅前劇にて(予定)

みょんふぁさん