最近、SNSや各種メディアで話題になっている、千葉県松戸市の町中華中華料理 東東(トントン)」をご存じだろうか?

 こちらのお店は、さまざまなメディアやYouTubeチャンネルに取り上げられ、なかには再生回数が700万回以上を記録している動画もある。さらにお店で運営しているTikTokアカウントも、再生回数100万回を超えている動画が多数あり、まさにバズりまくっている中華料理といえるだろう。

 こちらのお店は、先代の店主が他界したことにより、店仕舞いも検討されていたという。ところが、店主の孫娘が後を継ぐことを決め、若者ならではの新たな発想と手法を取り入れたところ、連日お客さんが絶えない大人気店へと急成長したのだ。

 そこで今回は、現店長として祖父からバトンを受け取った池田穂乃花さん、そしてパートナーとして一緒にお店を切り盛りしている、台湾出身の許維娟(シュウ・ウェイジェン/以下、ジェンジェン)さんの2人に、これまでの経緯から今後の展開についてお話を聞いてみた。

◆闘病中の祖父の姿を見て決意

 新型コロナウイルスが猛威を振るっていた2020年。当時店主だった穂乃花さんの祖父、帯刀(たてわき)武次郎さんの癌が発覚。闘病生活の末、帰らぬ人となってしまったのだが、闘病中の祖父の姿を間近で見ていた穂乃花さんにある想いが芽生えたそうだ。

穂乃花さん「私が高校3年生の時、お爺ちゃんの癌が発覚して余命3ヵ月という宣告を受けたんです。当時はコロナ禍真っ盛りで、私は学校に行けない時期だったので、母と一緒にお爺ちゃんの闘病生活を支えていたのですが、自分の身体よりもお店の心配をしているお爺ちゃんの姿を見て『絶対にこのお店を終わらせたくない』と思い、お店を継ぐことを決意しました」

 しかし料理経験は一切ナシ。しかも、通っていた高校がアルバイト禁止だったこともあり、仕事自体したことがなかった穂乃花さん。高校生にして、いきなり店長としてお店に立っただけに、その苦労は想像に難くない。

穂乃花さん「とりあえずお店を開ける為に人手が必要だったので、店長という立場でお店に立ったんです。料理に関しては、以前から働いてもらっていた料理長がいたので、その方に一から教わり必死に覚えました。ただ、レシピが一切残っていなかったので、お爺ちゃんの味を再現するのが難しくて……。それが一番の苦労でしたね」

自然な流れ幼馴染がパートナーに

 穂乃花さんのパートナーとして一緒に働いているのが幼馴染のジェンジェンさん。穂乃花さん同様、大学進学を控えていた彼女が東東で一緒に働くことになったきっかけは、一体何だったのだろうか。

ジェンジェンさん「大学受験が終わった時に、一緒にご飯を食べに行ったんです。その時に初めてお店を継ぐという話を聞きました。私は私で、千葉の大学に進学する予定だったのですが、両親が台湾に帰ることになり、一人暮らしをしないといけなくなったので、どうしようか考えていたんですよ。それで、ここで一緒に住んで働けば大学も近いので通いやすいし、お互いにとっていいんじゃないかという話になり、働き始めることにしました」

◆彼女の想いが詰まった新コンセプト

 店主が変われば当然お店の色も変わる。穂乃花さんが店長として働き始めたことで、お店のコンセプトに関して新たな要素が加わったのだ。

穂乃花さん「店長として仕事を始めたときに『若い方や女性が一人でも来られる町中華にしたい』という想いが強く、普段私たちがお店を探すときにはSNSを使うので、お店の宣伝でもSNSを積極的に活用し始めました。そうしたら実際に女性客も増えて、以前とは客層が随分変わりましたね」

ジェンジェンさん「遠方からのお客さんも増えまして、以前名古屋からバイクで来てくれた方がいました。その方、食事をされた後、そのままバイクで帰ると言っていたので、本当にウチのお店で食事をする為だけに来てくれたみたいです。あと、中国から来てくれたお客さんもいましたね」

◆お客さんの心を掴んだ「遊び心」

 リーズナブルな価格でお腹いっぱいになる料理が魅力の東東だが、随時更新される新メニューやSNS映え満点のデカ盛メニューも楽しみの一つ。このような独自メニューは、どのような流れで生み出されるのだろうか?

穂乃花さん「春夏の時期に冷やし中華を出していたのですが、私たちが焼肉好きだったので冷やし中華の上にニンニクの芽入りの焼肉を乗せた『スタミナ冷やし』をデカ盛メニューとして提供したら、常連さんからの評判がすごく良かったんです。ウチのお店の周りには工場が多くて、そこで働いている若い男性の方から特に人気がありました。冷やし中華は8月で終了するのですが、あの味が忘れられないから別の形でもいいので出してほしいという声が多かったので、秋冬メニューではチャーハンの上に乗せて提供するようになりました」

 お客さんのニーズに合わせ臨機応変に料理を提供し、それが新メニューになる。これぞまさに町中華の醍醐味だろう。さらに、年に一度開催されているイベントが重要な存在となっているという。

ジェンジェンさん「毎年10月10日を軸に3日間ほど『東東の日』というイベントを開催しているのですが、その日はお客さんも従業員も皆で楽しもうというコンセプトなので、遊び心を取り入れています。そのイベントで前に提供したのが『なにが入ってるかわからんチャーハン』。通常のチャーハンにプラス110円で、ランダムに何かが乗ってくるのですが、なかでも高価な具材、いわゆる『当たりチャーハン』としてステーキやハンバーグを乗せて出していました。これが非常に評判が良くて。イベント以外でも食べたいというお客さんが多かったのでレギュラー化しました」

◆2人が思い描いている「それぞれの夢」

 若者ならではの切り口で、祖父から引き継いだお店を繁盛店へと発展させた2人。だが、実は彼女たちには、お店で働く以前から抱いていた夢がそれぞれにあったという。だが、お店が順風満帆なだけに、お互い少々心が揺れ動いているようだ。

穂乃花さん「私は子供の頃からアナウンサーになるのが夢で、今でもそのための活動をしています。だから両親とは学生の期間だけということで、このお店で働き始めたんです。ただ、このお店も大好きなので、今はちょっといろいろと考えている最中なんですよね……」

ジェンジェンさん「私は昔から通訳の仕事に就きたいと思っていました。今、中国語と日本語を話せるので、大学では英語とスペイン語を勉強しています。でも最近、この語学力を活かして東東に携わることもできるんじゃないか、どちらも両立してできるんじゃないかと考えるようになりました」

◆今後お店や彼女たちが進む道はいかに?

 今年で創業44年。祖父の時代から受け継がれてきた確かな味と、孫娘による若者向けのアイディアが見事にマッチし、一躍話題のお店となった「中華料理 東東」。今後、どんなメニューが誕生し、どんなイベントで我々を楽しませてくれるのか。そして、彼女たちは今後どんな道に進むのか、いろんな意味で目が離せない町中華といえるだろう。

取材・撮影・文/サ行桜井

【サ行桜井】
パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。

先代の孫娘で現店長の池田穂乃花さん(21)。休みの日にはライブを観に行くことも多い音楽好き