真田広之が満を持してハリウッド初主演、プロデューサーを務めたディズニープラスで独占配信中の「スター」オリジナルシリーズ「SHOGUN 将軍」。配信がスタートするや、映画やドラマ好きに会うと「『SHOGUN 将軍』観た?」「ものすごくおもしろい!」と大袈裟ではなく、鼻息を荒くしてそんな感想をぶつけてくる人が続出。事実2月27日の初回配信から6日間で、スクリプテッドゼネラル・エンタテインメント・シリーズ作品としてはディズニープラスの中で歴代No.1となる900万再生を突破するなど、世界からも注目を浴びている。観てみたら、その興奮も納得!徹底した時代考証に基づく壮大なセットや美術、衣装、そしてベテランから若手まで実力派が集まったキャスト陣の名演などどこまでも本気が詰まった内容で、視聴者をググッと戦国時代へと誘う圧倒的なスケールの時代劇となっている。第6話では、女性たちの戦いにクローズアップすると共に、いよいよ主人公の虎永が、予告編でも話題の名言「時は来た!」をお見舞い。物語が大きく動き、こちらも武者震いするような展開が待ち受ける。

【写真を見る】二階堂ふみ演じる落葉の方が勢力図をかき乱す!「SHOGUN 将軍」第6話相関図(ネタバレあり)

MOVIE WALKER PRESSでは、「SHOGUN 将軍」の魅力を発信する特集企画を展開。本稿では第6話を、ライターの成田おり枝がレビューする。

※以降、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

■第6話で焦点を当てられるのは“女たちの戦い”

本作は戦国時代の日本を描くジェームズ・クラベルによる小説を、ハリウッドの製作陣が集結して映像化したもの。関ヶ原の戦い前夜を舞台に、徳川家康インスパイアされた戦国武将の吉井虎永(真田)と、その家臣となった英国人航海士でのちに按針と名付けられるジョン・ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)、2人の運命の鍵を握る謎多きキリシタンの戸田鞠子(アンナ・サワイ)らによる、歴史の裏側にある壮大な謀り事、待ち受ける大どんでん返しを描く。

これまで多角的な視点で、太閤亡き世の混乱と、虎永がいかに窮地に立たされているかを明らかにしてきた本作。「うたかたの女たち」と題した第6話で浮き彫りとなるのは、男たちによる合戦の裏側で、陰謀や策略、世継ぎ問題など過酷な運命に直面している“女たちの戦い”だ。

細川ガラシャからインスパイアされたキャラクターで、ミステリアスな雰囲気をたっぷりと漂わせた女性、鞠子に目がクギづけになっている視聴者も多いはず。虎永から按針の通訳に任命されてその職務を忠実にまっとうする彼女は、氷のような冷たさと魅惑の眼差しを持ちつつ、チラリと本音をのぞかせる瞬間もあり、按針が心惹かれていくのも大いに納得。今回は冒頭から、鞠子の過去がお目見え。林を走り回った幼少期や、元気よくなぎ刀を振るった少女時代など、鞠子の溌剌とした“本当の笑顔”を初めて目にすることができるのだ。父・明智仁斎の希望によって、文太郎こと戸田広勝(阿部進之介)のもとに嫁ぐ鞠子の様子も映しだされるが、当日の真っ白な花嫁衣装もハッとするほど美しい。その後は父が主君に対する謀反人となったことで一族が処刑され、自分を押し殺して生きるようになった鞠子。彼女の少女時代の笑顔を見ていると、鞠子が落ちていった闇の深さに胸が締め付けられるような想いがする。

「私たちにはなすすべもない」という死生観を持つようになった鞠子が、按針と心の距離を近づけていくことでどのような感情を露わにしていくのか。鞠子の複雑な胸の内を体現したサワイの演技もすばらしく、鞠子の心情の変化から目が離せない。

■衣装にも注目!能の場面は「1600年代の日本のメットガラのよう」

そして今回もう1人、着目したい女性となるのが、淀(茶々)を想起させるキャラクターとなる、二階堂ふみ演じる落葉の方だ。明智の逆心によって命を奪われたかつての権力者・黒田の娘にして、亡き太閤の側室で、太閤の子を産んだ唯一の女性として大坂で政治的影響力を握っている。そんな彼女だが、第6話では「いかにして落葉の方になったのか」という過去も垣間見える。じっとりとした妖艶さすら漂うオーラを身につけるまでには、それは壮絶な道のりを辿ってきた落葉の方。自らの宿命を背負い、虎永を追い詰めようとする彼女は、見ているこちらがゾクゾクするほど恐ろしくも美しい。迫力あふれる落葉の方は、二階堂の俳優としての真骨頂を感じられるキャラクターとしても必見だ。

プロデューサーの真田が「正しい生地を使ってほしい。日本の生地でなければならない」と衣装担当にお願いするなど、随所にわたって徹底した時代考証が行われた本作。コスチュームデザイナーのカルロスロザリオは和服の構造を正しく理解するために、日本から多くの衣装を借りて研究を重ねたという。二階堂とも「落葉の方がどのような女性であるか」を話し合った結果、落葉の方の衣装の下層には“悲しみ”を表現する秋色と絵柄を取り入れ、上層には秋色を保ちながら、力強さを表すために金色をプラス。また少女時代の鞠子がピンク色の着物を着ていたり、物語が進むなかで自分の意志を確かめた鞠子が赤色の織り込まれた着物を身につけるようになるなど、衣装からもキャラクターの内面を感じ取ることができるのでぜひその点にも注目してほしい。

ちなみに第6話に登場する能舞台の場面は、プロの能楽者が日本から衣装を持参して撮影に参加した一方、舞台の観客たちはロザリオがデザインしたこだわりの一点ものを身につけているという。ロザリオが「能の場面は1600年代の日本のメットガラのようなもの」と胸を張るシーンは、登場人物たちの視線が絡み合い、彼らの交錯する思惑に息を呑みつつ、能舞台に迷い込んだような感覚もたっぷりと味わえる。強烈に“タイムスリップ戦国時代”できる瞬間として、オススメしたい。

時は来た!虎永の気勢に震える

さて天下争いの中枢に足を踏み入れた按針はといえば、第5話で大地震によるピンチに見舞われた虎永を救ったことで、第6話ではさらに虎永から取り立てられる。「望むような役目は果たせない。日本を出たい」と訴える按針に、虎永は当時もっとも人気の遊女と過ごせるようにとはからうのだが、この褒美の特徴は、そこに通詞として鞠子も同席すること…。按針、鞠子、遊女となんと3人で一晩を過ごすことになるのだ。

伊豆で一番の遊女である菊(向里祐香)のもとを訪れた、按針と鞠子。現世と切り離されたような、なんとも甘美な香りのする場所で、菊は“うたかた”の意味や、自身の役目を按針に説明する。「別のところへ行きたいという望みを叶えて差し上げる」「私たちを隔てるものはなにもない」「いまここで私と一つになってください」――。菊の言葉を、鞠子が通詞として按針に伝えるのだが、禁断の関係へと陥りつつある按針&鞠子にとっては特別な響きを持つ言葉ばかり。鞠子の唇、首筋、視線などゆっくりクローズアップしていくひとコマはあやしい輝きを放ち、通詞という役割があるからこそ可能になった官能的なシーンに、ドキドキさせられた。菊を演じる向里の耳をくすぐるような声、遊女の誇りと色気をにじませる熱演も印象的だ。

虎永を取り巻く面々が個性豊かなキャラクターばかりであることも本作の見どころなのだが、按針がどんどん取り立てられることで、虎永の息子・長門(倉悠貴)、薮重の甥・央海(金井浩人)が思わず共鳴してしまう場面には、ニヤニヤとしてしまった。倉と金井がヤキモキ、イライラを見事に表現しているが、真田がリーダーとなった現場に参加できたことは、彼らにとってかげかえのない経験となったはず。これからの2人の活躍も大いに楽しみになってくる。

そのようにあらゆる者の焦りや企て、狙いが満ちるなか、クライマックスでは、機運が熟したことを確かめた虎永がついに立ち上がる。「時は来た!」という虎永の力強い気勢に、こちらまで「おー!」と声を上げたくなる。それはすべて、間近で虎永たちを見ているような没入感を叶えているからこそ。日本の歴史上もっともドラマチックと言える戦国を舞台にした時代劇を、ハリウッドのスケールで堪能できる。改めてなんと贅沢なことかと、プロデューサーも務めた真田の本気にシビれた。本格的な戦いの幕開けとなる第7話以降にも、胸が高鳴る

文/成田おり枝

秘めた過去を持つ女たちが躍動する「SHOGUN 将軍」第6話レビュー/[c] 2024 Disney and its related entities