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1月末に盗難された白い34GT-Rが奇跡の生還!

今年1月末、千葉県野田市内のホテル駐車場で盗まれたR34スカイラインGT-Rが2月半ばに奇跡的に発見され、3月18日オーナーのもとに戻ってきた。

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右側のリアクォーターガラスが割られ、キーシリンダー周りも破壊。ドラレコ周りの配線は引きちぎられており、なぜかブレーキキャリパーやブレーキタイヤのボルトが一部抜かれたり、破壊されたりしていたものの解体されることはなく外観上はほぼ「丸車」の状態で発見された。

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盗難された34GT-R発見が「奇跡」といわれる理由    加藤博人

ナンバープレートは取り外されていたが、不思議なことに車内には車検証がそのまま残されていた。車台番号が削られたあともない。

この34GT-Rは日本車好きの外国人観光客に絶大な人気を誇る「おもしろレンタカー」が貸し出している車両で、盗まれたときも1月31日夕方から1泊2日の予定でアメリカから来た観光客がレンタル中だった。

2022年10月にはF1王者ルイス・ハミルトンがお忍びでレンタルしており、2023年9月には映画グランツーリスモのモデルになったレーサー、ヤン・マーデンボロー氏も「守谷GTグランプリ2023」で全開走行を披露している。世界的な有名レーサーにも多くの感動と驚きを与えてきた個体なのである。

オーナーである「おもしろレンタカー」の齊藤社長は盗まれてすぐ被害届を野田署に出してSNSで拡散しており、その日の夜、早速有力な目撃情報が届いた。茨城県坂東市在住20代男性の「くーさん」が「X」にて34GT-Rの写真付きで投稿したのだ。

「RB26」サウンドに気づいて外に出たら目の前を34GT-Rが爆速で通過

くーさんは31日夜に自宅でくつろいでいたときに、遠くから聞こえてくる「RB26」独特のサウンドに気づいた。

「もしかして!」と思いすぐに外に出たところ。なんと自宅前の道路を白い34GT-Rが走っていったのである。すぐに後を追って数キロにわたって追跡したが窃盗犯が赤信号を突破したことで見失ってしまった。

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盗難された34GT-R発見が「奇跡」といわれる理由    加藤博人

「34」から「38」にナンバープレートの数字が替えられており、おもしろレンタカーのステッカーもはがされていた。

くーさんは安全な場所にクルマを停めて110番通報したが、1時間待ってもパトカーが約束の待ち合わせ場所に来ないなど野田署は信じられない対応をしている。

その後、2月上旬まで目撃例はいくつかあったが、確実な証拠となる写真や動画はなく、警察からの連絡もなし。おそらく解体されすでに海外に出ているのだろう…斉藤社長をはじめ関係者の間では絶望的なムードが漂いはじめていた。

事態が動いたのは盗難から約3週間経過した2月20日である。斉藤社長のもとに山手警察署から大朗報が届いたのである。それは、もう1台同じ34GT-Rと計2台が横浜港のコンテナの中からX線装置によって発見されたという連絡だった。

なお、どこに向かうコンテナなのか? 輸出業者は誰なのか? 犯人に関する情報は全く教えられないまま、連絡から約1か月後の3月18日斉藤社長に無事戻された。筆者を含むメディア関係者(TV3番組)も立ち合い、横浜港のふ頭内で引き渡された。

GT-Rのエンブレムには粘着テープがはられており、なんと室内には犯人がガラスを割った時に手に巻いたと思われる衣類までが残されていた。

本牧ふ頭の大型X線検査装置で発見!

今回盗まれた34GT-Rは横浜港のとあるふ頭の保税区域にて輸出直前のコンテナ内から発見された。

警察の調べによると、輸出関連書類に不備があったので念のため大型X線装置で検査したところコンテナ内に2台の車両があることが分かったという。もう1台の青い34GT-Rも同じ時期(1月末前後)に盗まれていた。

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ヤン・マーデンボロー氏と「おもしろレンタカー」の34GT-R    加藤博人

気になるのはその「大型X線装置」での検査だ。「横浜税関Good Job!」といいたいところだが、実際、どのような検査なのか。

島国日本には全国13の港に16のX線装置がある。横浜港では現在大型X線検査装置があるのは本牧ふ頭の一か所だけである。クルマを輸出となると、大黒ふ頭のイメージが強いかもしれない。首都高大黒PAに行ったことがある人なら首都高本線からPAに降りていく際、船積みを待つ大量の中古車や新車が並んでいる光景を見たことがあるだろう。

しかし、現在、大黒ふ頭からはコンテナの輸出はほぼない。海外に輸出される車両は「RO-RO船」(ロールオン・ロールオフ)で輸出されている。自走で船に乗り入れて下船するときも自走で降りる船のことだ。

それに伴って2023年8月31日をもって大黒埠頭コンテナ検査センターも廃止された。それまでは「横浜税関コンテナ検査センター(本牧)」と「大黒埠頭コンテナ検査センター」の2基体制で行っていた大型X線検査は令和5年9月1日以降「横浜税関コンテナ検査センター(本牧)」のみで行われることになった。

つまり検査体制自体がますます数が減って緩くなったということである。盗難車の場合、当然だが正規の方法での輸出はできないため、RO-RO船ではなくコンテナの中に隠されるようにして出されるのが一般的だ。

実際、どれくらいの盗難車がコンテナの中から発見されているのだろうか?

2023年は全国で5台、2022年はわずか1台!

輸出直前の水際検査で盗難車が摘発されることは奇跡に近い。

2006年(平成18年)からのデータ『税関における盗難自動車等の摘発台数』が税関の公式サイトにある。2023年(令和5年)は乗用車が5台/ダンプなど貨物車1台/バイク3台/建設重機1台/パーツ21となっている。財務省関税局に確認したところ「パーツ21」とは21台分のパーツという意味ではなく、単純に21個のパーツが発見されたということだそう。

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盗難された34GT-R発見が「奇跡」といわれる理由

日本国内における自動車本体盗難の認知件数は2000年初頭がピークで約6万件だった。

そこから約20年で急激に認知件数は減っており2020年~2021年はコロナ禍も影響して5000台前半とピーク時の約1割以下となった。しかし、その後は増加傾向にあり2023年は5762台が盗難されている。

それらの多くは海外に密輸されるわけだが、6000台近くが盗難されているのにコンテナ内で発見される盗難車はこの10年を平均しても年間5台以下。これはどういうことなのか? 税関の検査がザルなのか?

事情に詳しい輸出業者のAさんが驚くべき実情を教えてくれた。

「大型X線検査装置でのコンテナ検査は全数検査ではありません。検査対象となるのは新規の輸出業者や、JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)が発行するシッパー(輸出業者)コードの実績が少ない業者のコンテナが対象です。実績が十分にある業者のコンテナは検査をしなくてよいのです。抜け道はたくさんありますし、窃盗団も当然、それらの方法も熟知しているでしょう」

平成17年7月に検査体制を強化

大型X線検査装置での検査は全数検査ではなかった。

なお、横浜港だけで年間約300万基(輸出入合計)のコンテナが取り扱われている。このうち輸出されるコンテナは年間約142万基(2023年)で1日あたりで計算すると約4000基となる。現在は本牧ふ頭にある大型X線検査装置1台で検査をしていますから、対象となるコンテナは大幅に絞られる。

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コンテナに隠されて密輸される盗難自動車(税関公式サイトより引用)

また別の海コン(海上コンテナ)ドライバーのBさんいわく

「どこの国でもそうだと思いますが、税関は入ってくるものに対しては厳しい検査を行いますが、出ていくものに関してはかなり緩いです。コンテナ検査も輸入がメインです。税関の役割としては違法薬物など日本のルールで流通が禁じられているものを水際で阻止することですから、盗難自動車が全国の税関で年間数台しか摘発されないのも無理はないでしょう。これが全数検査になれば、かなりの台数の盗難車が見つかるのではないでしょうか」

簡単にまとめると税関の検査は「ザル」ということになるが、それでも平成17年7月には中古車を輸出する場合の審査や検査が強化されている。主な内容は以下。

1.中古自動車の通関時における輸出抹消登録証明書等の提出、車台番号等の確認
2.改正道路運送車両法の施行に伴い、輸出抹消仮登録証明書等を税関における輸出申告の審査の際に確認
3.厳重な審査・検査を行うため、自動車(自動二輪車及び原動機付自転車を含む)を旅具通関の対象から除き、業務通関に一本化

ただし残念なことに検査を強化した効果はあまりないようで平成18年平成19年は3桁台の摘発だがそもそもこの時期は年間3万5000台以上が盗まれていた。

2023年の車名別盗難認知件数(警察庁発表)ではスカイライン軽トラよりも少ない71台だった。2022年の116台から大幅に減っている。

これは人気がなくなったのではなく、オーナーが防盗対策を強化した結果だと考えられる。効果的な防盗対策についてはまた近日中に記事化してみたい。


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