パンデミック中のオンライン学習浸透を受けて、2021年には資金調達額が前年度比500%超という桁違いの拡大を見せたアフリカのEdTech市場。2022年には不況の煽りを受け前年度比70%減となり、2023年には前年度比40%増と回復というジェットコースターのような3年間となった(Disrupt Africa2023年報告書)。

教育という分野は、長期的には社会への影響力・貢献度が大きいが目先の利益にはつながりづらいため、回復したとはいえセクター別に資金調達額を見るとフィンテックやECに大きく水をあけられたまま。それでもアフリカのEdTech市場は引き続き堅調な成長が予測されており、大陸全土で300以上のEdTechスタートアップが質の高い教育を普及させるべく努力を続けている。

AIロボットに1日で問い合わせ3000件、1か月でユーザー数4万人

なかでも南アフリカFoondaMateが提供するのは、AIが過去の試験問題を選別し解き方をサポート、学力UPや合格へと導く数学と英語の学習チャットボットだ。無料のメッセージアプリWhat’sAppおよびMessengerで使えることから、世界中でユーザー数を伸ばしている。

Image Credits:FoondaMate

LLMベースのAIロボットであるFoondaMateは、膨大なデータからユーザーに適した過去問を厳選するだけでなく、会話をしながら問題の解き方を教えたり質問に答えることが可能だ。数学が苦手で「どこが分からないかが分からない」状態の学生にとって心強い指導者だといえる。

費用面でハードルが低い点も魅力だ。24時間のDay Passコースは5ランド(約40円)、毎月更新の1か月プランは30ランド(約240)円となっている。大学を目指す受験生向けのプランは月額100ランド(約800円)。いずれのプランも過去問ダウンロードは無制限だ。

Image Credits:FoondaMate

ケープタウン大学出身のDacod Magagula氏とTao Boyle氏がFoondaMateのInstagramアカウントを作成したのが2020年8月、新型コロナ感染拡大のロックダウンアフリカでもEdTechが注目され始めた時のことだ。翌日には3000件ものメッセージが届くという大反響を得て、翌月末にはユーザー数が4万人に到達した。

安価ながら明らかな効果が得られるという評判から、現在では世界150か国で300万人以上のユーザーが使用するFoondaMate。「十分な教育が得られない人々に勉学の機会を与えたい」という共同設立者の思いが込められている。起業のきっかけは、共同設立者2人の実体験にあった。

CEOは大量の過去問で成績UP、小さな町から名門大学に合格

CEO兼CTOのDacod Magagula氏は南アフリカ共和国東部ムプマランガ州の田舎町出身で、7歳まで自宅に電気がなかったという。1クラス平均50~70人の学校に教師はおらず、数少ない教科書を生徒数人で共同使用するという状況だった。

高校生の時、ゲームをしたくて弟と共同でコンピューターを購入したことで転機が訪れる。試験の過去問やその他PDFなどを気軽にダウンロードできるようになったのだ。過去問のおかげでDacod氏は南アフリカの高校卒業試験である「Matric(マトリック)」をトップで通過。母校史上最高の成績を収めて卒業しただけでなく、その高校出身者として初めて名門ケープタウン大学に合格した。

高校生時代のDacod Magagula氏。Image Credits:FoondaMate

卒業試験の準備中、Dacod氏はクラスメートに過去問を共有したかったが、彼らはPDFファイルを開けるデバイスを所有しておらず、プリントアウトするお金もない。Dacod氏の自宅に親友5人を招き、パソコンを囲んで一緒に勉強するしかなかった。

ケープタウン大学でコンピューターサイエンスを専攻、プログラムが書けるようになったDacod氏は卒業後にソフトウェアエンジニアとして勤務。WhatsApp上で動作するプログラムによって高校時代の親友たちのような学生に教材を提供できることに気づいたのだ。

大学入学後、自分が恵まれた環境にいたことに気づいたCOO

対照的に、COOのTao Boyle氏は恵まれた環境で質の高い教育を受けてきた側だった。教育資源の豊富な学校でクラスの人数は約12人。Tao氏なりに努力して常に成績優秀であり続け、「努力すれば誰でも良い成績を取れるもの」と素直に信じていたという。

Tao氏も首席で高校を卒業するが、大学入学後に同級生たちと自分の環境の違いに気づかされる。同級生たちがTao氏と同じ成績を取るために3倍の努力をしなくてはならなかったのだ。

ニューヨーク留学時のTao Boyle氏。Image Credits:FoondaMate

「努力できる環境」自体が平等に与えられていないことを理解したTao氏。あらゆる人に学問の機会が開かれていてほしいと考えるようになり、FoondaMateのアイデアをDacod氏から聞いてすぐに賛同。共にチャットロボットを開発、起業に至ったという流れだ。

学校に通えなかった人が成人後でも高校卒業資格取得可能

アフリカでは経済的・地理的な事情から学校に通えない児童がまだ多く、経済発展を遂げる南アフリカも例外ではない。同国では中等教育への進学率が100%を超える(入学年齢が低すぎる・高すぎる生徒が含まれるため)一方、高等教育になると25%と一気に下がるというレポートもある。

FoondaMateは、優秀な生徒が家庭の事情で進学できないという事態防止を目指す。Image Credits:FoondaMate

高等教育を受けられるのは大半がTao氏の家庭のような富裕層。貧困家庭に生まれた子供たちは質の良い教育が受けられず、連鎖する貧困から抜け出せない。経済格差から生じる教育格差は大きな社会問題となっている。

ただし、南アフリカの教育制度では卒業試験マトリックに合格することで高校卒業資格が得られる。実際に高校に通わなくとも、試験にパスすれば高卒と見なされるのだ。つまり、子供の頃に学校に行けなかった人でも高校卒業資格を取得できる。FoondaMateは、貧困の連鎖を断つうえで支援を提供する重要なツールなのだ。

料金を代理で支払い学生のスポンサーになれるシステムも

もう1点、FoondaMateについて抑えておきたいポイントは、利用料が払えないユーザーのために寄付できるシステムがあることだ。料金を払う自分自身がユーザーとなるのではなく、約40~800円のプランで学生たちのスポンサーになることができる。

料金を誰かのために支払うことで外国の学生を支援できる。Image Credits:FoondaMate

現時点ではFoondaMateは英語版のみで日本人が日本語で利用することはできないが(英語で数学を学ぶことで英語と数学両方の勉強にはなりそう)、スポンサーとしての利用を検討してはいかがだろうか。

参照:FoondaMate公式サイト

(文・Takasugi)