55歳の独身女性が恋をしたのは、20歳のアイドル。突然感じたときめきは、孤独だった彼女の日々に変化をもたらし始める…。漫画家の久保マシン(C)くぼちーさんがnoteで連載中の漫画「ハルコの恋」を紹介する。くぼちーさんにも、作品を描いたきっかけや、今後の展開について聞いた。

【漫画】一人のアイドルが冴えない55歳独身のハルコの人生を輝かせていく

■青井ハルコ・55歳・独身。ある日20歳のアイドルに恋をする

青井ハルコは、幼い頃に両親が離婚、一緒に暮らしていた母親も早くに亡くした。55歳の今まで、生きていくことに精一杯で、青春の思い出も、恋をしたこともない。そんなハルコはある日、テレビに出ていたアイドル・愛賀光を見たとたん、今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じ、恋に落ちる。その日を境に、彼女の日々に少しずつ変化が訪れる。

作者のくぼちーさんは、これまで多くの商業誌で4コマ漫画家として活躍。現在は夫のくぽりんさんと共にプロ漫画家ユニット「久保マシン」として活動している。「ハルコの恋」は久保マシン(C)くぼちーとして、個人で連載している作品だ。今回、「ハルコの恋」を描こうと思ったきっかけは何だったのだろうか。

「元々、私はプロの4コマ漫画家で、ちょうど両親の介助生活が始まり心身ともに疲弊しているところに急にストーリー漫画が描きたくなったのがきっかけです。4コマ漫画家の自分に、どの程度ストーリー漫画が描けるのかも知りたくて、実験的に始めた連載でした。結果、描くことで自分の心が癒やされるという貴重な体験をしています」

商業誌とは違い、ページ数や更新頻度が自由なnoteは、新たな試みの場所として最適だったという。2021年から始まった「ハルコの恋」だが、連載を続けてきてどのように感じているのか聞いた。

「ストーリー漫画の場合、物語が勝手に動くという話をよく聞きますが、そういうものも体験したくて始めました。ハルコを描いていて、そんな風に感じた瞬間が私にも多少あり、これはちょっとした貴重な経験でした。商業誌ではネームの段階で無駄なものを削ぎ落とす作業をしますが、好き勝手に描いている連載なので、そういったものはすべてスルーしていて、手抜き感が拭えず、たまに落ち込んだりします(笑)。連載はまだまだ続きますが、今は終盤に向けて、どのようにまとめていくのか格闘しながら描いています」

■ハルコの人物像に込めた、ある女性との出会いと幼い頃の実体験

人生で初めて恋をしたハルコの姿は、少女のようでかわいらしい一方、青春時代を奪われてしまった過去の苦労も想像させる。そんなハルコの人物像には、くぼちーさんの過去の印象的な出会い、そして自身の幼い頃の実体験も込められているという。

「昔、アイドルに恋をしている70代の女性に話を聞いたことがありました。少女のように恋をしている姿が衝撃的で、記憶に深く残りました。『アイドルは自分の生き甲斐であり喜びだ』と語る彼女の表情が印象的で、それを55歳のハルコに投影させたいと思ったのが始まりかもしれません。また、私自身が家庭環境などに問題を抱え、寂しい幼少期を過ごしていたので、そういう心の寂しさをハルコの心情として描こうと思いました」

物語については「登場人物との出会いやその時々に合わせて展開している感じですが、それに対して不器用なハルコがどう答えを出していくのかを一つずつ描いているという感じです」とくぼちーさん。ちなみに、くぼちーさん自身は、最近何かにときめいたことはあるのだろうか。

「これが全くないのです。笑っちゃうほどない!だからこそ、何かに強くのめり込むことができる人たちがうらやましい。もしも自分がハルコのように推しのアイドルができたならどんなにいいだろうかと思いながら描いています。私にも癒やしが必要かもしれませんね」

■ハルコの幸せを願い、見守る読者からの声が続々。物語もこれから終盤へ

アイドルを通して友達ができたり、初めて美容院に行ってみたり。ハルコの世界が広がっていく様子を優しく、温かく描いていくくぼちーさん。作品には読者からも「ハルコの恋が幸せなものであってほしい」など、応援の声が多く寄せられている。読者の声に対してはどのように感じているのだろうか。

「ハルコを読んでいて励まされるという声をよく聞きます。きっと、ご自身の気持ちと重ねている部分があるのかもしれません。また、読者の皆様からは、ちょっと頼りないハルコを見守って応援している優しい眼差しを感じます。ハルコの前半の人生が、あまりにも不幸で寂しいものだったので、後半で幸せになれたらと願う読者の皆様が多くいるのだと思います。作者の私もその一人です」

実は「ハルコの恋」の最終回はすでに決まっており、くぼちーさんはラストに向けて描き進めているところだそう。最後に、読者へ向けてのメッセージをもらった。

「連載はまだしばらく続きますので、最後の最後まで根気よくお付き合いいただければと思います。また、ハルコの人生の選択を最後まで温かく見守っていただけましたらうれしいです」

ハルコの恋の行方はいかに、そしてこれからの人生をどのように歩んでいくのだろうか。今後の展開を温かく見守りたい。

取材・文=松原明子

「ハルコの恋」1/©︎久保マシン