このたび、エスパス ルイ・ヴィトン大阪では第5回目の展覧会として、イギリス人アーティスト アイザックジュリアンによる 個展を開催いたします。本展では、展示スペース全体を占める、大規模なインスタレーション作品《Ten Thousand Waves》(2010年)をご紹介いたします。本展は、国際規模のプロジェクトを実施し所蔵コレクションを世界に紹介することで、 より多くの方々に作品に触れていただく機会を創出するというフォンダシオン ルイ・ヴィトンのミッションに基づき、東京、ミュンヘンヴェネツィア、北京、ソウル、大阪のエスパス ルイ・ヴィトンにて開催する「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムの一環として行われるものです。

カリブ海のセントルシア島出身にルーツを持ち、イギリスロンドンにあるセント・マーチン美術学校を卒業した アイザックジュリアンは、1980年代半ば、マーガレット・サッチャー政権下のイギリスにおいて、ビデオを社会活動の表現媒体 として、また対抗言説を伝える手段として用いたイギリス人映画作家たちのムーブメントを牽引した1人です。サンコファ・ フィルム・アンド・ビデオ・コレクティブは、1983年ジュリアンが他と共同で設立したもので、アーティストのジョン・アコムフラー などが属したブラック・オーディオ・フィルム・コレクティブとまさに同世代にあたります。黒人やアジア系ディアスポラの 視点をイギリスの文化議論の場に紹介した彼らは、スチュアート・ホールなどの社会学者がカルチュラル・スタディーズの 分野で探求しているテーマを取上げました。ジュリアンが1984年に制作したドキュメンタリー『Territories』は、人種や階級、セクシュアリティにまつわる経験の場としてのノッティングヒル・カーニバルを追ったものです。彼は自身の作品にしばしば 登場するこれらのテーマに加え、さまざまな映像や音楽の素材を再利用し、リミックスすることで、多面的な言説を生み出す 手法で知られるようになりました。1970年代後半のアンダーグラウンドな音楽カルチャーのレンズを通してジェンダーと 人種の問題に眼差しを向け、カンヌ国際映画祭で賞を獲得した1991年の長編映画『ヤングソウル・レベルズ』のように、 ジュリアンの創作において音楽は、考察と内省のための重要な触媒なのです。

1990年代初頭、ジュリアンは主にテレビとミュージックビデオの界隈で活躍し、アメリカにおけるゲイ & レズビアン運動の歴史を 描いたドキュメンタリーシリーズや、反植民地主義思想家として影響力のあるフランツ・ファノンを描いたドキュメンタリー・ フィクションを制作しました。最近では、2002年に「ブラックスプロイテーション」と呼ばれる映画のジャンルについての ドキュメンタリーを、2008年には自らがアシスタントを務めた映像作家デレク・ジャーマンの人物像を伝える作品を発表。 同時に、彼はいくつかの作品を展覧会形式に再構成し、マルチスクリーンと斬新な音響処理を駆使して、美的に作り込まれた ビジュアルと音に形を与え、新たな表現空間を創り出しました。そのような中においても、音とイメージの変化を通して表現 される移住やディアスポラの在り方など、テーマは一貫して存在しています。

《Ten Thousand Waves》(2010年)は、ジュリアンの最も野心的なインスタレーション・プロジェクトの1つです。9つのスクリーンに 映し出される本作品は、数々の受賞歴を誇る女優マギーチャン(張曼玉)や映像作家のヤン・フードン(楊福東)など中華圏の 芸術界の主要人物たちをはじめ、ロンドン音楽家ジャー・ウォブル、チャイニーズ・ダブ・オーケストラ、作曲家マリア・デ・ アルべアールなどとの協働により制作されました。役者、場所、時代のポリフォニーそのものである本作品は、書道や映画、さまざまな神話が交差する中国文化へのオマージュでありながら、強制的な移動と移民の問題を中心に据えています。ジュリアンがこのプロジェクトを開始したのは、モーカム湾の遭難事故がきっかけでした。2004年に、イギリス北部の海岸で わずかな賃金のもと貝を収穫していた違法就労の中国人労働者23名が、潮流に巻き込まれて命を落としたのです。作品の中で この事件は、船乗りが女神媽祖に助けられたという16世紀の中国の伝説と呼応します。1930年代の中国映画への関心と共存 するこの物語は、作家によれば、より広く比喩的な意味で理解されるべきものです。映画の主人公たちの悲劇的な運命は、 大西洋を渡ったアフリカ人奴隷の記憶をも呼び起こします。

PHOTO CREDIT:

<<展示風景写真すべて共通>> ISAAC JULIEN - TEN THOUSAND WAVES

エスパス ルイ・ヴィトン大阪での展示風景(2024年)

TEN THOUSAND WAVES

2010年

9スクリーンインスタレーション、デジタル変換された35mmフィルム、カラー、9.2サウンド

Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris

Photo credits: (C) Jeremie Souteyrat / Louis Vuitton

アーティストについて

アイザックジュリアン卿は、西インド諸島のセントルシア島からイギリスに移住した両親のもと、1960年ロンドンで 生まれました。1984年にセント・マーチンズ美術学校を卒業し、美術・映像の学士号を取得。ロンドンと米国カリフォルニア州 サンタクルーズの間を行き来しながら活動しています。1980年代マーガレット・サッチャー政権下のイギリスが抱えていた社会不安への応答として、1983年マルティナアティールや モーリーン・ブラックウッド、ナディーンマーシュ=エドワーズ、ロバート・クルスらとサンコファ・フィルム・アンド・ビデオ・ コレクティブを共同設立。また、1991年には自らの映像プロダクション会社ノーマル・フィルムズを設立。同年、長編映画 『ヤングソウル・レベルズ』がカンヌ国際映画祭批評家週間で受賞。その他多くの賞や称号を手にしますが、中でも2001年には ターナー賞にノミネートされ、2003年にはドイツケルンで開催されたクンスト・フィルム・ビエンナーレで審査員大賞を 受賞しました。2017年には大英帝国勲章コマンダー(CBE)を受勲し、2022年にはナイトの称号を授与されました。 ジュリアンの作品は、ニューヨーク近代美術館やホイットニー美術館ニューヨーク)、インスティテュート・オブ・コンテンポラリー・ アート(ボストン)、テート・ブリテン(ロンドン)、ポンピドゥー・センター(パリ)、グッゲンハイム・ビルバオ(スペイン)、ハウス・デア・クンスト(ミュンヘン)など、数多くの展覧会、上映会や映画祭で紹介されています。

フォンダシオン ルイ・ヴィトンについて

フォンダシオン ルイ・ヴィトン現代アートとアーティスト、そしてそれらのインスピレーションの源となった重要な20世紀の 作品に特化した芸術機関です。公益を担うフォンダシオンが所蔵するコレクションと主催する展覧会を通じ、幅広い多くの 人々に興味を持っていただくことを目指しています。カナダ系アメリカ人の建築家フランク・ゲーリーが手掛けたこの壮大な建物は、 既に21世紀を代表する建築物と捉えられており、芸術の発展に目を向けたフォンダシオンの独創的な取組みを体現しています。 2014年10月の開館以来、1000万人を超える来館者をフランス、そして世界各地から迎えてきました。 フォンダシオン ルイ・ヴィトンは、本機関にて実施される企画のみならず、他の財団や美術館を含む、民間および公共の施設や 機関との連携においても、国際的な取組みを積極的に展開してきました。とりわけモスクワのプーシキン美術館とサンクト ペテルブルクのエルミタージュ美術館(2016年の「Icons of Modern Art: The Shchukin Collection」展、2021年の「The Morozov Collection」展)やニューヨーク近代美術館(「Being Modern: MoMA in Paris」展)、ロンドンのコートールド美術研究所 (「The Courtauld Collection. A Vision for Impressionism」展)などが挙げられます。また、フォンダシオンは、東京、ミュンヘンヴェネツィア、北京、ソウル、大阪に設けられたエスパス ルイ・ヴィトンにて開催される所蔵コレクションの展示を目的とした 「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムのアーティスティック・ディレクションを担っています。これらのスペースで開催 される展覧会は無料で公開され、関連するさまざまな文化的コミュニケーションを通じてその活動をご紹介しています。

配信元企業:ルイ・ヴィトン ジャパン株式会社

企業プレスリリース詳細へ

PR TIMESトップへ