第96回アカデミー賞の作品賞と脚本賞にノミネートされた「パスト ライブス 再会」から、幼なじみの24年ぶりの再会シーンをとらえた特別映像を、映画.comが独占入手。また同シーンは、是枝裕和監督作品を参考にしていることが明らかになった。

【動画】「パスト ライブス 再会」特別映像

本作は、ソウルで初恋に落ちた幼なじみのノラ(グレタ・リー)とヘソン(ユ・テオ)が、24年後に36歳となり、ニューヨークで再会する7日間を描くラブストーリー。久しぶりに顔を合わせたふたりは、ニューヨークの街を歩きながら、互いの人生について語り合い、自らが「選ばなかった道」に思いを馳せる。「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のA24と、「パラサイト 半地下の家族」の韓国・CJ ENMが初の共同製作を担当。セリーヌ・ソン監督が、長編映画監督デビューを飾った。

特別映像では、ノラが物語の重要なキーワードである「イニョン(運命)」について語るナレーションとともに、ソウルでふたりが別れる場面が映され、それから24年後、ニューヨークで運命的な再会を果たすシーンへと切り替わる。すれ違いを重ねた再会に、落ち着かない様子のヘソン。そんなヘソンを見つめながらゆっくりと歩き、ハグをするノラ。同シーンは、繊細で、非常にロマンティックな仕上がりとなっている。

ソン監督は、「ノラに会いに来たヘソンは、初めてのニューヨークで心細さを感じている。その不安とワクワクが同時に襲ってきていて、何を期待していいのか分からない子どものよう。髪を触るなどの仕草がその心情を表している。ノラが目の前に現れ、まるで霊を見ているような感覚に陥る。ずっと楽しみにしていたが、それが現実となり少し恐怖も感じている」と、ヘソンの心境を語る。この場面では、互いが子どもの頃を思い返していて、ノラからヘソンにハグをすることで、ふたりの間にある壁がなくなっていくことが表現されている。「セリフも最小限のシーンであったため、再会の瞬間の、この感情をどう表すかが全てだった」とソン監督が振り返るように、期待と不安が入り混じるふたりの表情を、グレタ・リーとユ・テオが見事に表現している点も見どころだ。

ソン監督は、「へソンだけを映している時、観客はヘソンの嬉しそうな表情を見て心がほころぶ。でも次第にノラの表情も見たくなる。するとカメラがゆっくりとスウィングしてノラを映す。ノラの姿を見られて、この瞬間を彼女とともに体験できて、観客は嬉しくなる。でもしばらくすると、ヘソンのことが再び気になるし恋しくなり、カメラはヘソンにスウィングする」と、ノラとヘソンの感覚を、観客にも体感させる狙いがあったと解説する。

前述の通り、ひとりずつの表情を交互に映す手法を、ソン監督と、撮影監督のシャビアー・カークナーは"スウィンギン・カメラ"と呼んでおり、是枝監督の技法を参考にしたという。ソン監督は、「誰かに会いたい、そして恋しくなるという感覚……。そして最後は嬉しそうな表情のふたりを見送る」と、みずみずしい再会シーンにこめたこだわりを紐解いた。

是枝監督のほかにも、さまざまな映画監督から影響を受けているというソン監督。お気に入りの映画として、フォルカー・シュレンドルフ監督作「ブリキの太鼓」、マーティン・スコセッシ監督作「エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事」、ジェームズ・アイボリー監督作「ハワーズ・エンド」などをリストアップしている。さらにはA24製作、スパイク・リー監督、デンゼル・ワシントン出演でハリウッドリメイクも決定している、黒澤明監督作「天国と地獄」も挙げている。長編初監督にして世界を虜にしたソン監督が本作にちりばめた、日本映画のエッセンスにも注目だ。

「パスト ライブス 再会」は、4月5日に東京・TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。

セリーヌ・ソン監督「再会の瞬間の、この感情をどう表すかが全てだった」 (C)Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved