「野村さんがさ、人生でやったことない『バーン!』って。後にも先にも1回、怒って。愚痴は言うけどさ、ボヤキはするけど、怒ることないのよ」

 これは広澤克実氏が野球解説者大久保博元氏のYouTubeチャンネル〈デーブ大久保チャンネル〉に出演して回想した言葉だ。

 野村克也監督のもと、ヤクルトで4番を務めた広澤氏だが、それは1992年7月5日神宮球場での巨人戦でのことだった。

 4-4の同点で迎えた一死満塁の場面。巨人の投手は石毛博史である。代打で登場したのは、1987年に112安打、38打点、打率3割1厘で新人王に輝いた荒井幸雄。ここで問題が発生する。

 野村監督からタイムがかかると、荒井はいったん打席を離れてネクストバッターズサークルへと向かう。すると野村監督の左手がヘルメット越しに、荒井の頭をポカリとやったのだ。

 この時、巨人の捕手だった大久保氏が問う。

「あれ、なんで怒ったんですか」

「『集中しろ』って。(荒井は)サヨナラの場面で、全国ネットで、いろんな情報を得て『どうしたらいいんだ、どうしたらいいんだ』ってテンパってるわけじゃない」

「そういうことだったんですか」

「後にも先にも、野村さんと何十年とお付き合いさせていただいたけど、怒ったのは、あの1回だからね」

 結果、荒井はサードへのファウルフライに倒れ、巨人が逆転勝ち。しかしながら、野村ヤクルトは初のリーグ優勝を遂げた年でもあった。

「軽率な行動だった」とのちに謝罪したという、野村監督らしいエピソードである。

(所ひで/ユーチューブライター)

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