2023年ベネチア国際映画祭のコンペティション部門で審査員特別賞を受賞したポーランドの巨匠アグニエシュカ・ホランド最新作「人間の境界」の予告編、新場面写真が公開された。

【フォトギャラリー】"人間兵器"とよばれた人々の運命を描く「人間の境界」場面写真

ベラルーシ政府がEUに混乱を引き起こす狙いで大勢の難民をポーランド国境へと移送する"人間兵器"とよばれる策略に翻弄された人々の過酷な運命を、シリア人難民家族、支援活動家、国境警備隊の青年など複数の視点から描き出す群像劇。安全な生活を送れると信じてポーランドへ渡ってきたシリア人家族。しかし、ようやく辿り着いた直後、武装した警備隊から非人道的な扱いを受けた上にベラルーシへ送り返され、そのベラルーシからも再びポーランドへ強制移送されるという、どちらの国からも難民を押し付け合うような暴力と迫害に満ちた過酷な状況を強いられ、無限地獄のような日々を過ごすことになる。

政府や右派勢力からの攻撃を避けるためスケジュールや撮影場所は極秘裏のうちに、わずか24日間で撮影を敢行。大量のインタビューや資料に基づき、隠蔽されかけた国境の真実を描きながら、心を揺さぶる人間ドラマとして映像化した。また、実際に難民だった過去や支援活動家の経験を持つ俳優をキャスティングし、ドキュメンタリーと見紛うほどの圧倒的なリアリズムが産み出されている。

国際的な高評価の一方で、当時のポーランド政権は本作を激しく非難し、政府vs映画という表現を巡る闘いが注目を集めたが、ほとんどの独立系映画館がその命令を拒否。ヨーロッパ映画監督連盟(FERA)をはじめ多数の映画人がホランド監督の支持を表明し、本国で異例の大ヒットを記録した。

このほど公開された予告編は、冒頭のテロップで、2021年にベラルーシがEUの混乱を狙いポーランド国境に大量の難民を移送し、この難民たちがと呼ばれることになった映画の背景を紹介。続けて、ベラルーシ経由でポーランドに渡ることで安全なうちにEUに亡命できると信じたシリア人家族たちが飛行機ベラルーシに向かう様子を映し出す。EUに暮らす親戚のサポートもあり手筈は万端なはずだったが、ポーランドにたどり着いたと歓喜する彼らを待ち受けていたのは、彼らを"観光客"と揶揄する武装したポーランドの国境警備隊による強制排除だった。一家は極寒の森に敷かれる鉄条網を隔てた両国から繰り返し暴力に満ちた迫害を受ける状況を強いられていく。映像では、ポーランドの国境警備隊に抵抗し、難民たちを懸命にサポートしようとする支援活動家グループの奮闘、警備の任務に当たる若い隊員の苦悩も切り取られている。

ランド監督は、「ワルシャワから3時間たらずの場所で、難民は彼らの運命を左右する人道的大惨事に直面している…私はその事実に心を動かされました。彼らの状況に象徴的なものを痛切に感じ、そしておそらくは、私たちの世界の道徳的・政治的崩壊につながりかねないドラマの前日譚を見たのです」などと、本作を製作することを決意した理由を明かしている。

5月3日からTOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開。

場面写真 (C)2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture