3月20日にBlu-rayとDVDがリリースされた映画「白鍵と黒鍵の間に」。池松壮亮が主演を務め、実在するジャズピアニストの書籍をもとに描かれた意欲作だ。セリフではなく感性で楽しむ部分の多い音楽映画だが、本作はよりフランクに楽しむことのできる工夫が多い。‟音楽映画”の敷居を押し下げた同作の根幹に迫る。

【写真】森田剛演じる怪しい男が池松壮亮“博”に近づく

ジャズピアニスト南博の著作を大胆にアレンジ

原作は、ジャズピアニスト兼エッセイストとして活躍する南博の著書「白鍵と黒鍵の間に -ジャズピアニスト・エレジー銀座編−」。ピアニストとしてキャバレーや高級クラブを渡り歩いた南の青春の日々を綴った回想録だ。

映画では、冨永昌敬監督と高橋知由が原作を大幅にアレンジした。南博がモデルの主人公を、夢を見失っている“南”と、未来を夢見る“博”という2人の人物に分けたほか、暴力団組員同士の揉めごと、欲望渦巻く銀座の水商売の裏側、ミュージシャンの理想と現実といった複数のエピソードを同時進行。やがて約3年に及ぶタイムラインが繋がっていくさまを描く。

舞台は昭和63年の年の瀬が迫る夜の銀座。「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を演奏することが許されている数少ないジャズピアニスト南と博の運命がもつれあい、さまざまな人物を巻き込みながら、予測不能な一夜を迎えるというあらすじだ。

※高橋知由の“高”は、正しくは“はしごだか”

■南役と博役、1人2役に挑戦した池松壮亮

主演を務めた池松壮亮は南役と博役の2役に挑戦。約半年という短い期間でピアノを猛特訓し、劇中の「ゴッドファーザー 愛のテーマ」の演奏シーンでは、実際に池松がピアノを弾いている。

ジャズというと“洒落た大人のための音楽”“理論やマナーが小難しいジャンル”というイメージを抱いている人々も多いかもしれないが、池松と冨永監督は演技と演出でそんな印象を覆した。素人に甲乙つけがたい部分をダイナミックな映像演出によって表現したり、本職の歌手クリスタル・ケイサックス奏者・松丸契という強力なサポートによってうねるような“現場の熱”を伝えたのだ。

そして池松の演技が演出に拍車をかける。音楽家につきまとう現実に当たりながら夢を見失う南、夢を追い続ける博の姿。技術や知識だけでなく、誰しもが共感できる肉体性に強く裏打ちされたセッションに挑むシーンは、音楽に詳しい人もそうでない人にも強く訴えかけるものがあった。

本作はジャズというジャンルに飲み込まれた音楽家の業に迫る作品であると同時に、南博という実在の人物のリアルな青春と、それにアレンジを加えたファンタジックな演出を楽しむ映画。そして「ゴッドファーザー 愛のテーマ」という唯一無二の「映画音楽」にスポットを当てたものでもある。

仲里依紗、森田剛ら豪華共演者にも注目

物語の舞台である昭和63年は、東京ドームが完成した年。バブル経済のなか“強い女性”のファッションとしてボディコンやコンサバ系と言われるファッションが流行した。さまざまな価値観がカオスを生んでいた当時の登場人物として相応しい、怪しい登場人物たちを演じるキャストも「白鍵と黒鍵の間に」の見どころだ。

仲里依紗は博の大学時代の先輩で、南のバンド仲間役。刑務所から出所してきたばかりの“あいつ”役を森田剛が、お調子者でギャンブル狂のバンマス役に高橋和也といったどこか刹那的なキャラクターが数多い。さらに高いプライドと実力を持つシンガーをクリスタル・ケイが、松尾貴史は銀座を牛耳る暴力団の会長役、佐野史郎は大学時代の博の恩師役を演じている。

またSMTKなどで活躍する実在の若手サックス奏者・松丸契が、博と認め合うK助役で映画初出演を果たしている点も見逃せない。フィクションとノンフィクションの境目を超えて、劇中の南博と松丸が共演しているのだ。

現実と非現実、現代と昭和63年、銀座という街の光と闇。あらゆる垣根を超越して、音楽と音楽に取り憑かれた人々の抗い難い魅力を描く「白鍵と黒鍵の間に」。3月20日に発売されたBlu-rayは、メイキング、インタビュー映像集、舞台挨拶映像、予告映像集などの特典映像を収録。

さらに特典として、劇伴&劇中歌&エンディング音楽を収録したオリジナルサウンドトラックも封入された。音楽を一本の柱として描いた同作の世界観を楽しめる特典といえるだろう。なお本編は各種配信サイトでも配信されている。

池松壮亮が1人2役で“ジャズの熱狂”を演じた映画「白鍵と黒鍵の間に」/※提供画像