こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。

◆世界の「オニツカ」

今、ちょっといいスニーカーが欲しいのであれば、日本のメーカーを選んでおけば間違いありません。まずは、アシックスの前身、オニツカタイガーから。ショップはいつも訪日外国人を中心にぎっしり。本社は設立以来「靴の町・神戸」です。1949年のメーカー設立当時は「鬼塚商会」としてキャンバス地の靴をつくっていましたが、現在は表参道に旗艦店を構えるまでに成長。世界各国でもオニツカのショップがあるのはどこも一等地か高級店です。設立当時から靴の町ならではのクオリティの高さで、どれもハズレはありませんが、個人的一推しは製造も日本のNIPPON MADEシリーズの「MOAL 77」。

1970年代のモデルがベースですが、レトロな外見とは裏腹に6㎜厚のGELが埋め込まれ、ソールスポンジも超軽量でへたりが来ない最新素材というギミック満載の1足。おそらくフルマラソンも楽勝で走れます。どれもシンプルでノスタルジックなのに全然疲れないという「オニツカ」の評判はかねてより海外でも有名で、特に最上級クオリティの「NIPPON MADE」シリーズは誰もが見惚れてしまいます。「オニツカ」ブランドはレトロモデルだけではなく、真逆の「超・厚底シリーズ」も並べられており、次に何が出てくるかわからないワクワク感にあふれています。

◆もう部活靴じゃない「アシックス

そんなオニツカタイガー70年代に改名。「健全な心は健全な肉体に宿る」のラテン語頭文字で「アシックス」へ。履いたことがない方はほぼいないでしょう。多くの学校の指定靴が今でもアシックスダントツです。筆者も中学校の「外履き指定靴」がはじめてのアシックスでしたが、「きちんとした靴ってこんなに丁寧につくるのか」と足元を思わず二度見しことが今でも忘れられません。今でこそわかりますが、つくりの違いは日本人特有の「小さいカカト幅」。これは写真を見ても時代をまたいで変わっていません。カカトがブレると下半身から体幹がぶれ、即ケガにつながります。甲の高さも時代に柔軟で、オニツカ時代はかなり高かった甲が、今のモデルは現代版にアップデートされ、華奢な足にも吸い付く薄めに設定されたものも多くあります。「ゲルライトⅢ」などは典型で、どんな甲の高さにも合うようになんとベロが真っ二つに分かれています。

アシックスにもうひとつ、ファッションアイテムとしての顔もあります。いわゆるY2Kと呼ばれる2000年代のファッションがトレンドですが、その中心はナイキでもニューバランスでもなく間違いなくアシックスです。代表的なモデルのひとつが「GEL-NYC」。

普通オジサンから見ると「いや、部活でこういうの履いてたよ」という印象がほとんどだと思いますが、パリコレでは各メゾンでひっぱりだこ。世界の見方は全く違うのです。理由は一言、機能美。ベースがガチ靴なので、あたりまえに履きやすい。日本人特有の小ぶりなカカト、余裕のあるつま先のスペースは、似たテイストナイキアディダス、ニューバランスの靴と比べても、足への吸いつきは比べ物になりません。

◆ライフスタイルをブラッシュアップした「ミズノ」

国産メーカーでアシックスと双璧をなすのがミズノです。本社は大阪で、創業当時から野球部門に力を入れていたのですが、次第にどの分野にも本腰を入れ始め、アシックスの分野には必ずミズノがいます。「アシックスとなにがちがうの?」と聞かれたら、私はいつも半歩先のパイオニア、と答えています。真骨頂はスポーツスタイル。2023年も即完売となった「ウェーブプロフェシーモック」などは解説しなくてもミズノがこれから何をしたいのかが一目瞭然。

決してスポーツをアスリートだけのものにせず、生活やファッション、機能性を同時に目指すとこうなった、という1足です。「○○専門の靴」という概念そのものをひっくり返し、かっこいいながらもどこのパクリもしない「生活のため」の靴は世界中から注目され、高額でもすぐに売り切れ。90年代ナイキを思わせる現象が今はミズノで起きています。

個人的な経験ですが、同じ値段でも他のメーカーよりミズノの製品は如実に長持ちします。筆者が陸上競技に打ち込んでいた当時の「スカイメダル」などは高校の3年間フルに使っても壊れなかった「神シューズ」として今でも強く記憶に残っています。頑張って買った倍以上の値段のナイキは半年も持ちませんでした。

この靴、とんねるずの『ねるとん紅鯨団』を思い出す方もいるでしょう。当時「体育会系基本靴!」としてCMをガンガン打ち出していた、あの靴です。これも今は「おしゃれ靴」として不動の人気を誇っています。特に日本人専用を目指していたわけではないのですが、どこのメーカーよりも広いベロで甲を抑え、壊れやすいパーツには惜しげなく天然革を使い、カカトのおさまりがいいので壊れようがない。ニューバランスが3万円で作っている製品とレベル的には同等、もしくはそれ以上。ボクシングシューズやF1のレーシングシューズなど、どの分野の製品でもクオリティの良さは世界中に知れ渡っているので、地球の反対側のブラジルではナイキをおさえて「一流スポーツメーカー=ミズノ」という評判が定着していると聞きます。

◆あの「パトリック」は日本製

意外なところでは、フランス発祥のパトリック。革靴以上の品のあるたたずまいはフランスならではのセンスですが、1990年からほぼすべての製品がメイドインジャパンということはあまり知られていません。人件費だけなら今でも東南アジアのほうが安いのですが、クオリティを最優先にした結果の日本製。「マラソン」が代表ですが、レトロシューズのカテゴリーではとにかく頭抜けて品質がいい。

裏をひっくり返すとわかりますが、土踏まずのラインがかなり足なりの形に引っ張り込まれてます。けっして目立たない部分ですが、たったこれだけでフィット感が段違い。

ふまず部分を靴全体が引っ張り上げるので、勝手にまっすぐ立ててしまうんです。フランスのエスプリと日本の技術が見事に融合したメーカーといえば聞こえはいいのですが、実際問題として難易度が異常に高い。「ふまず部分をえぐる技術」ひとつをとっても、ここの形状でブランドの品質が見極められると断言していいでしょう。革・布は平面、靴は立体。通常は100%シワが入りますが。手作業で素材の伸びる方向を見定めないと形になりません。こんなところにも日本の職人技が光っているんです。

どこの店に行ってもアジア系だけではなく、日本以外ではほぼ手に入らないパトリックは飛ぶように売れています。デザインもさることながら、シンプルに履いた瞬間「なんかちがう」ということがわかるからでしょう。職人技に言葉はいりません。

スニーカーはショップに行くとめまいがするほどのブランドが並んでいますが、「履き心地が本当に良いもの」は実はほんの一部です。外見ももちろん大事ですが、履き心地の良さ=フィットすると、靴も体の一部になるので長持ちします。海外の名だたるメーカーもいいのですが、せっかく靴に恵まれた日本にいるのならセンスのよい日本発、あるいは日本製のほうが必ずしっくりきます。1足は持っていると、予想以上の履き心地の差に驚くと思いますよ。ぜひお試しを。

【シューフィッターこまつ
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。HPは「全国どこでもシューフィッターこまつ」 靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ

オニツカタイガー「MOAL 77」。3万800円。写真は公式HPより