市原市木更津市君津市、柚ケ浦市、富津市で開催中の『百年後芸術祭-内房総アートフェス-』は、「LIFE ART」「LIVE ART」のふたつのイベントを両軸としている。

アートを主とする「LIFE ART」では、梅田哲也、小谷元彦、SIDE CORE、さわひらき、島袋道浩、名和晃平、リーロイ・ニュー、保良雄、ディン・Q・レなど気鋭の現代アート作家を国内外から招聘。絵画、彫刻、映像、インスタレーションなど、様々な手法を用いた作品が内房総5市で展開されている。

そして「LIVE ART」は、木更津のクルックフィールズをはじめ、4つの会場で開催。櫻井和寿スガ シカオ宮本浩次、アイナ・ジ・エンド、荻野目洋子、綾小路翔らと小林武史プロデュースによるスペシャルライブが行われる。

「通底縁劇・通底音劇」と題された「LIVE ART」のコンセプトや概要について、小林武史に語ってもらった。

――「LIVE ART」のタイトル「通底縁劇・通底音劇」は、“シュルレアリスム宣言”で知られる詩人アンドレブルトンの「通底器」という作品に由来しているそうですね。

「つながるはずのないものがつながる、つながっている」というイメージですね。どこまで遡れば解決できるのかわからないような歴史的な要因による戦争、自然災害による物理的な分断もそうですが、今の社会には様々な分断が起き続けています。

しかし我々は、「根底でつながっている」つまり「わかりあえる」のではないかと感じているんです。中沢新一さん(宗教学者・文化人類学者)が学問の分野を越えてつながることの重要性を語っていらっしゃいますし、村上春樹さんも現実に対してフィクションを加えることで、別の世界に通じる、出入り口を見つけるという物語を描いていて。僕もそういうふうに感じながら生きてきてた人間だと思っているんです。

この時期に『通底』を掲げたライブを行うことは、つながるはずのないものがつながるというイメージを提示するうえでも大切なことなのかなと。

――そのイメージを具現化したのが、「LIVE ART」の4つの公演というわけですね。

僕はミュージシャンなので、やはり音楽が起点になるんです。音楽は時間を使った表現だし、モノを作るというよりも、時間軸を使うのが得意と言いますか。「LIVE ART」の軸になるのは4月20日(土)、21日(日) にクルックフィールズ(木更津市にある「農」「食」「アート」を軸とした複合施設)で開催する『super folklore(スーパーフォークロア)』です。

“フォークロア”(民族、民間伝承)は人々を含む生き物の営みを表す言葉。それはもちろん大事なことなんですが、個人の生活、小さなコミュニティが存在している一方、大きなシステムーー大企業や国家もそうですがーーによって動かされることも多いじゃないですか。もっと大きな視点に立つと、見上げる星空であったり、地球と太陽の関係、宇宙観みたいなもののなかで僕らも生きている。つまり全体と個は必ずしも敵対していないし、そぐわないわけでもないと思うんですよ。

表現の世界もそうで、ジャンルや領域の枠を超えることで生まれるものが必ずある。そういうことを踏まえて、『super folklore』というタイトルにつながりました。具体的に言えば、農地や牧場もあるクルックフィールズだから実現できる表現を追求したいと思っています。

それを象徴しているのがドローンを使ったアート・パフォーマンス。大学でDimensionAdobeソフト)による3D表現を研究している人たち、ドローンを使ったショーの経験を重ねているチームとやり取りしながら準備しているんですが、“アート”“エンタメ”といった枠を超えるような内容にしたいと思っています。

もうひとつは「Butterfly Studio」(小林が総合プロデューサーをつとめるクリエイティブ/プロデュース/パフォーミングチーム)。コンテンポラリーダンスや映像などを含め、これまでにはなかったパフォーマンスになるんじゃないかなと。

――『super folklore』には櫻井和寿さん、スガ シカオさんなども出演します。

ふたりとも積極的に関わっていて、ワクワクしてくれていますね。櫻井くんとは選曲やアレンジの話から、演出のことも含めてかなり詳細にやり取りしています。彼のアイデアも取り入れているし、Mr.Childrenの名曲も含めて、ここでしか体験できないコンサートになると思いますね。スガくんからはじまって、すべての曲が必然性のなかでつながって。ap bank fesからの流れも感じてもらえるだろうし、集大成的な表現になるんじゃないかな。

具体的なことは言わない方がいいと思いますが、「この楽曲がこんなふうにつながるのか」という演出もあります。ap bank fesでは「to U」が重要な役割を果たしてきましたが、『super folklore』ではむしろ露払いのような位置になりそうですね。参加してくれるミュージシャンも素晴らしいので、音楽的な一期一会と言いますか、即興性みたいなところも取り入れられると思っています。

――オーディエンスにとってもまったく新しいライブ体験になりそうですね。

そうだと思います。従来のエンターテインメントの流儀を越えている部分もあると思いますが、そこに向かっていかないと、新しい化学反応は起きないと思うので。櫻井くん、スガくんもそうですが、出演してくれるアーティストもそこに期待してくれているんですよ。どんなライブにも予想外のことが起きますが、『super folklore』はその比重がとても高い。演者もワクワクしながら臨むと思いますし、ぜひ期待してほしいですね。

――4月6日(土) に富津公園ジャンボプールで行われる『不思議な愛な富津岬』には、アイナ・ジ・エンドさん、“生き様パフォーマンス集団”を掲げる東京QQQが出演します。

東京QQQはコンテンポラリーダンスの即興性を重視しているチームなんです。一般的なコンテンポラリーダンスは陰影を上手く使った照明のなかで行うことが多いですが、富津岬の公演は真っ昼間で、しかも公園のなかにある野外プール。まったくごまかしようのない空間のなかで、ひびのこづえさんのデザインによる衣装を含めて、非常に面白い公演になると思います。

アイナさんとは去年、岩井俊二監督の音楽映画『キリエのうた』でご一緒して。ちょうどソロ活動がはじまるタイミングでもあったし、「百年後芸術祭で即興的なステージをやってみませんか?」と話し合ったんですよね。これは偶然なんですが、アイナさんと東京QQQアオイヤマダさんとは既につながりがあって。同じく東京QQQの高村月くんというダンサーが「Butterfly Studio」に参加してくれたり、いろいろな場所でつながりはじめていますね。

――そして5月4日(土)・5日(日) には君津市民文化ホールで『dawn song(ドーンソング)』が開催。こちらは宮本浩次さんが出演します。

dawn song』もとても面白い公演になると思います。宮本くんのカバーアルバム(『ROMANCE』/2020年11月 『秋の日に』/2022年11月)をプロデュースしたのですが、コロナ禍以降、昭和の時期のバイブレーションみたいなものに注目が集まっている気がしていて。やり過ぎと感じるようなことを受け入れる大きさもそうだし、あの時代にあった渦のようなものとも繋がりたかったんですよね。

そのために宮本くんはまさにピッタリだなと。あとは“落花生ズ”(ヤマグチヒロコ、加藤哉子)という2人組のコーラスグループにも注目してほしいです。ザ・ピーナッツオマージュでもあるんですが、ふたりの表現力がとにかくすごくて、宮本くんが音源を聴いた時に泣きそうになってたんですよ。

――落花生ズは5月12日(日) に柚ケ浦市民会館で行われる『茶の間ユニバース』にも出演。荻野目洋子さん、MOROHA綾小路翔さんの参加もアナウンスされています。

“時代を越えた日常”というものを考えたときに、テレビ、お茶の間という感覚に結び付いたんですよね。そのイメージにピッタリなのが荻野目洋子さんだと思っています。

MOROHAは去年のap bank fes(「ap bank fes’23~社会と暮らしと音楽と~」)にも出てくれて。UKくんのギター、アフロくんの語りは、アメリカ発祥のヒップホップとは違った凛とした強さがあるし、僕のまわりででも「すごくよかった」「泣きました」という感想が多かったんです。アフロくんは石巻を舞台にした映画(『さよなら ほやマン』)で主演していて。僕が石巻でReborn-Art Festivalをやっていることを考えると、つながりを感じるところもあったんですよね。

もうひとりのゲストである“翔やん”は何と言っても内房総の主ですから。氣志團は2017年のReborn-Art Festival(『松島ファンタスティック音楽祭 ×Reborn-Art Festival 2017』)にも出てくれたし、木更津のクルックフィールズにもメンバー全員で来てくれたことがあるんですよ。翔やんが出ることで、さらに広がりが出ればいいなと思っています。

Text:森朋之 Photo:品田裕美

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2449508

公式サイト:
https://100nengo-art-fes.jp/

小林武史