2023年10月より放送中の『フリースタイル日本統一』(テレビ朝日/ABEMA)。同番組では、全国16地区で活躍するラッパーが3名1組となって、それぞれの地元の威信を賭けてフリースタイルバトルに挑戦。勝利チームは敗退チームから好きなラッパー1名を吸収し、最終的に日本統一を果たすと、その暁として賞金100万円が贈られる。

参考:【写真】決勝戦で輪入道vs裂固の“師弟対決”が実現 『フリースタイル日本統一』#22の場面カット

 今回は、3月19日に公開された【#22】のハイライトを振り返っていく。細かなネタバレもあるためご注意いただきたい。

・崇勲 v.s. 歩歩、“同い年のおじさん”同士のぶつかり合いで覚醒したのは? 

 前回の【#21】より開幕した決勝戦(百万石の戦い)。ここまで、TEAM神奈川FORK×句潤×SANTAWORLDVIEW×輪入道×崇勲×MC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻)で敗れたのはMC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻のみ。対するTEAM東海(呂布カルマ×泰斗a.k.a.裂固×楓×KANDAI×歩歩×CIMA)からは対戦順に、CIMA、KANDAI、楓と合計3名の欠落が。状況は、贔屓目に見ても五分五分とすら言い難いが、まだ巻き返すチャンスはいくらでもある。前回、歩歩がMC☆ニガリの連勝を止めたところからの第5戦目。戦局がどのように動くのかーー。

 今回の【#22】では、全4試合をオンエア。うち、紹介したいのは、句潤 v.s. 歩歩を終えた後の第6戦目。歩歩は句潤とのバトル後、スタミナ切れにより“やられた”と苦しい表情を見せていたほか、お決まりの某世紀末作品にインスパイアされた百裂拳、ならびに〈お前はもう楽しんでいる〉というキラーフレーズを〈俺が楽しんでいた〉に言い換えていただけに、この場面での敗退を予感していたはず。だが、結果は2-3でまさかの連勝。TEAM神奈川から句潤に続き、崇勲を引きずり出したバトルである。

 先攻は、崇勲。ビートは、バトルDJを務めるMr.Beats a.k.a DJ CELORYの鉄板こと「Face to Face」。ハイライトは次の通りだ。

崇勲:始めようか 歩歩との勝負 まぁ1つ言っておこうか スポーツ 何やってるって聞かれて 自転車日本一周は珍しすぎるぞ 野球やバスケ サッカー お前の事職り飛ばす 歩歩 速攻 お前の鳩ぽっぽ 豆鉄砲 俺には効かないぞ

歩歩:鳩ぽっぽ 平和の象徴 現場の即興 俺なら想像 限界突成 行くぜHIP HOPPER ちゃんと聞いとんか 日本一周は飲酒もしないぜ 日本酒ポンジュース 焼酎より このラップでしょちゅうやってるだけ 出てるぜアドレナリン あとで足りん

崇勲:ポンジュース日本酒も飲んだりする俺が崇勲 すぐに力尽きる このスキル ヤバすぎる 

歩歩:確かに人生歩いてたら転んでたりする けど七転び八起き 朝も早起き 俺の足はズル刺け だけど俺の夢なら続くぜ

崇勲:お前の昨日の活躍にも刺激もらって 頑張ってやろうって 同い年 同年代 オッサンだけどまだまだやれるよな 中古の日産 転がしてる毎日なのにさ/だけどさっきのは一転び一起きだぜ ブルーライトがよく似合う神奈川が必ず勝つわ

歩歩:負けてチキショウ だけどまた握ろう 一握りの奴ばっかり 俺はガッカリ続くこの物語 こんな空間ブッ飛ばす かったりい

 崇勲からもあった通り、同い年の“おじさん”同士がぶつかったこのバトル。その内容はとにかくよい意味で赤裸々かつ明け透けで、相手のバースを聞いてリアルタイムに思いついた感想を呟き合う、本当の意味でフリースタイルで、かつトップオブザヘッドなものだった。

 そのなかで、歩歩が1バース目で、かつてのZORNに似たフロウを披露する場面も。“日本一韻踏むパパ”の異名を持つZORN。そのフロウに近いということはつまり……歩歩も同じく、名詞を細かく、とにかくタイトに踏み倒していく。このあたりは、審査員のKEN THE 390も高く評価をしていた通りで、言葉の力と逞しいライムが具現化してか、終盤になるにつれて、まるでプロレスラーオカダ・カズチカが繰り出す“レインメーカー”のような動きで、一発一発を崇勲に叩き込む姿が印象的だった。

 崇勲もまた〈中古の日産 転がしてる毎日なのにさ〉や〈ブルーライトがよく似合う神奈川が必ず勝つわ〉など、バトルというより詩的な部分でラッパー然としていたのだが、同い年の頼もしい姿に喰らいまくって、しばしば天を見上げてしまっていた。

 その振る舞いに、このバトルの結果も表れていたよう。0-5の満場一致で、歩歩がもうひと伸び、優勝まで手を伸ばすことに。崇勲は試合後、あくまで言い訳だと前置きしながら「めちゃくちゃ疲れてましたね」とコメント。いや、ここまでの活躍ぶり。さすがにもう言い訳ではなく事実だろう。

・輪入道 v.s. 裂固、師弟対決のポイントは“弾みで出たライムの返し方”

 その後、歩歩は自身と同じ立ち位置の4番手・輪入道と対決。おそらく審査員も含めて、明らかに体力切れの歩歩を“早く倒してやってほしい”と思っていたことだろうが、その願いもようやく実現。3-2の僅差だったものの、ようやく歩歩がステージから去った。

 すると、次なるバトルは、輪入道 v.s. 泰斗 a.k.a.裂固の“師弟対決”に。かつて、前身番組『フリースタイルダンジョン』にてモンスターを務めたもの同士、という簡単な言葉では語りきれないほど、裂固は輪入道からたくさんのことを学んできた。逆もまた然りだろう。

 そんな見応えしかないバトルの結果は、4-1で輪入道の勝利に。手数の多い一戦だったが、 輪入道の余裕さ……言い換えれば一枚上手だった部分がよく表れていたのが、裂固が放った“商店街”の返しの部分。

 裂固は〈喧両成敗 俺は証言台に立たされた 想定内 いや想定外 奇想天外 まるで商店街みたいなもん アンタマイク交わしたら当然ハイだろ?〉と、おそらくライムの弾みから流れとしては綺麗だが、文脈上はほとんど関係ない言葉を並べてしまった。が、輪入道はその言葉を抱え直して〈どっか行かんといかんの? いや違うよ ずっと自分の地元に居りゃいいよ だから商店街のショーウィンドウ よりも俺のパンチライン 起こしてるぜ脳震湯〉と、文脈に乗せ直してみせる。

 あくまで勝敗を決定づけるポイントではないが、こうしたバトル中の余裕ぶりや、脊髄反射以外でライムをしてみせる部分もまた、この番組を楽しむ上で、我々の視聴スキルも磨かれた部分だったのではないだろうか。

 ということで、TEAM東海は残すところ、あと一人。しかも残っているのは、ここまで本人曰く「意味がわからん」という結果続きな呂布カルマである。ここまで2戦0勝。黒星続きの男に最後、勝利の女神は微笑むのか? 次回、この天下分け目の戦いにも、いよいよ決着がつく。

(文=一条皓太)

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