青山学院大学に在学する現役女子大生で、演技やバラエティなどマルチに活躍している中川紅葉さんによるエッセイ連載「ココロすっぴん」。かなりの読書家で、大学生・タレント・インフルエンサーなどのさまざまな顔を持つ彼女が日々感じたことを、忖度なく書き綴ります。

【写真】中川紅葉の1stフォトエッセイ「ココロすっぴん」よりアザーカット10枚

■#31「聖域がない。」

仕事に繋がらなくても構わない、というほど熱中できる何かがある人は、その人だけが知る聖域を持っていることと同義だと思う。そんなオアシスが私にはない。

私にとっての聖域は何なのかずっと分からなかった。寝食忘れてのめり込むこともない。休日はどう過ごすのか聞かれても、寝ることだと笑いに逃げることしかできなかった。

そもそも、日々辛くはないが、超楽しい!と感じることも、これをしている時が幸せ!という時間もあまりない。そう自覚し親に相談すると、本気で心配された。当たり前である。

飲み会も、カラオケも、ボウリングも好きじゃない(珍・大学生)。映画や読書は仕事に繋がってしまう。そう思いゲームを始めてみたが、やはりどうしても身体に合わない。一体何が好きなのだ、私は。

そんな私がエッセイ本を出した。実を言うと、今でも誰が読むのだろうと思う。色んな人が手伝ってくれたのにそんなことを言うのは失礼だ。でもやっぱり、私自身がこんなに暗めなのに、読んでいる人が救われるのかとても不安だった。

本が世に放たれてから燃え尽きてしまった。何かを言われても、「本を読んでくれ、全部書いてあるよ」と思えるようになった。良くも悪くも、焦らなくなった。これから何を目標にすれば良いか分からなくなっていて、ということは、本を書くこと(出すこと)が一番の夢だったことに今頃気がつく。そして、それ以外に夢だと思っていたことが実はまやかしだったことにも。

そもそも趣味でさえなくて、それはもちろん仕事にも当てはまってきていた。何を本職にしたいのか年々形がぼんやりしていき、薄くなっていた気がする。そんな中叶ってしまった書籍化だった。

目標がなくなったときだとか、視野が狭かったことに気がつくときだとか、そんな時に人は迷うのだろう。発売日を過ぎてからの私は、まさしくその感覚の中で浮遊していた。

エッセイを書き、更に感想を読み、言われても困ると前から言っていてた「気にしすぎ」「悩みすぎ」という言葉を受け取る。考えを言語化するのが“真っ当なエッセイ”ならば、そう言われても困ってしまう。“自身を書く”という仕事なのだ。やはりとても困る、が、その通りだと思った。

自分の夢、そして自分が何を好きかすらも曖昧なことくらいちゃんと気がついている。本を出してから、それが一層強くなっていた。そんなことも「普通」の人は、悩まずにいられるのだろうか。

発売から10日後。仕事帰り22時。チェーン店に入ろうとすると、青山学院大学のトートバッグを持った男子5人組がエレベーターに乗り込んでくる。今日は大学の卒業式だった。去年も届いた「卒業アルバム撮影会」の小冊子を、今年も封を開けずに捨てた。

今日はレギュラーのラジオ番組の収録で、現役女子大生という肩書きをもうやめたいと言い出せない雰囲気を感じ、言葉を飲み込んだ。最近、SNSの自己紹介文から大学名と学年を消した。たったそれだけなのに、何を書く場所だったのかすら急に分からなくなって、今も自分の紹介を書けずにいる。

■当たり障りのないように生きると自分の色が薄くなっていく

オンラインのお渡し会で、「誰かと比較して劣等感を抱くなら、比較されないところで強みを作れば良いのだ」と答えた。現に私が23年間意識し続けていたことだった。

他人の強みを見つける能力に長け過ぎている私にとって、自分の持つ強みのカードを増やすことで盾を増やしてきた。だからこそ、ある人は「女子大生」、ある人は「本を書いた人」、ある人は「タレント」だと、色んな方面から見てくれていたのかもしれない。でも本人は、自分が何者なのか、それがやっぱりピンとこない。

そんな見え方に、今まで一つづつ対応していた。こう言われないように、違う意味で取られないようにと。今考えれば、そりゃ気にしすぎになっても仕方ないような気がする。このまま当たり障りのないように、誰からも反感を買わぬように生きていくのはやめようと、ふと先日思った。自分の色が確実に薄くなっていく感覚があったから(あんな中川が鬼詰まりしていた本を書いておいて?笑)。

みんなに分かってもらえるように、は、分かってくれよ、という私のエゴにすぎないのかもしれない。

もうすぐ新学期。「仕事にならないからやらない」と言っている場合じゃない。もっと本当に興味のあるものを見つける必要がある気がしていた。新しいものに出会いたいと願うことは、今の環境や考え方を持ち続けるなというサインだ。特にこの数日、私にとっての聖域を探し続けていた。

すると、肩書きや目標を忘れた先に、意外にも簡単に、純粋にやってみたかったことを思い出した。

みんなに理解されるものを作ったり書いたりするのはやめよう。全員の共感を得るものづくりには、きっとオリジナリティが足りない。きっと文章でもそうなんだろう。馴染もうとするから自分が分からなくなるのだ。そんな前向きな成長を、今は感じている。

【ヒトコト】

そんなこんなで、new趣味ができました。いや、1st趣味。いつか公開します。

本は読んでいただきましたか?私にとって大事でかわいい本です。ちなみにどの章が好きか教えてくださいませ。私のおすすめは「熱海の市民プールにて」「父親」「ギリギリ埼玉県、川口」。

そういえば父から長文で褒めちぎられ、最後に「書いてくれてありがとう」とのLINEが来ました。匠にしなくて良かった、とも。都合のいいジジイとか言ってごめーん。許せ

現役女子大生タレント・中川紅葉のエッセイ連載「ココロすっぴん」/ 撮影=千葉タイチ/スタイリスト=稲葉有理奈(KIND)/ヘア&メーク=加藤志穂