2022年に英国ロイヤルシェイクスピアカンパニーの名誉アソシエイト・ディレクター、ジョン・ケアード翻案・演出で舞台化した、宮崎駿監督による名作アニメーション映画千と千尋の神隠し。世界初の舞台化は大きな反響を呼び、2023年に名古屋御園座で再演。2024年は全国ツアーとロンドン・コロシアムでの海外公演が行われる。

帝国劇場公演は2024年3月11日(月)に橋本環奈が演じる千尋で開幕。初演から引き続き登板の上白石萌音、新キャストの福地桃子の初日も開け、3月27日(水)夜の回より新キャストの川栄李奈の初日が幕を開ける。それに伴い、川栄出演公演のゲネプロ(総通し稽古)が同日の昼に行われた。

【動画】川栄李奈初日スペシャルカーテンコール映像~2024年3月27日(水)夜の回


 

この日のゲネプロでは、千尋を川栄李奈、ハクを新井海人カオナシ澤村 亮、リンを髙橋莉瑚、釜爺を萬谷法英、湯婆婆を桜雪陽子、兄役を水野栄治、父役を伊藤俊彦、青蛙を藤岡義樹、頭を五十嵐ゆうや、坊を武者真由が担当。メインキャラクターの多くをアンダースタディが演じていることに伴い、アンサンブルは湯屋チーム犬飼直紀小川莉伯広瀬斗史輝福島玖宇也木村和毛利アンナ可奈子ヤマグチリオが加わり、新鮮かつレアなチームによる公演を見ることができた。

川栄が演じる千尋は、不思議な世界に対する戸惑いや恐怖の中に子供らしい素直な好奇心を感じさせる。神々や魔法の力など、馴染みのない光景に目を丸くして驚いたり慌てたりする様子が可愛らしい。無邪気さや多少わがままな部分も見え、油屋で働き出してすぐの頃はリンが言うようにどんくさい印象が拭えない。そんな千尋が油屋で多くの従業員とともに働き、ハクや両親のピンチに立ち向かって大きく成長していく姿が爽快だ。中盤までは表情・声に千尋の不安、未熟さが強く出ているぶん、後半で見せる気丈さや明るく屈託のない笑顔が際立っている。千尋の変化をイキイキと表現していると感じた。

新井によるハクは穏やかなしっかり者という雰囲気。落ち着いた声とキレのある動きで存在感を放っている。ハクが千尋に向ける優しい表情や声が印象的だ。無垢で危なっかしい千尋と、そんな彼女に寄り添うどこか人間味のあるハクに微笑ましさを覚える。

リン役の髙橋は力強い瞳が印象深い。乱暴な言葉遣いの中に千尋への思いやりが伺える。釜爺を演じる萬谷も、ぶっきらぼうだが優しく千尋やハクを見守る。千尋にとっては慣れない世界で次々に事件が起きる中、2人がかけてくれる言葉のあたたかさにホッとした。一方、澤村は得体の知れない不気味さを感じさせるカオナシとして千尋の前に現れる。顔は隠れているが、カオナシを演じるキャストによって様々な心の動き・感情が伝わってきてチャーミングだ。

桜雪が演じた湯婆婆は、迫力があり老獪なだけでなく気っ風の良い一面も目立つ。ラストでは千尋やハクに対する情のようなものも覗かせ、恐ろしいが魅力的な魔女を作り上げた。また、銭婆は堂々とした佇まいと温和な言動で双子の妹との違いを見せている。

五十嵐演じる頭、武者による坊は公演の中でさらに円熟味を増しており、ユーモラスな表情や動きに客席からは何度も笑い声が上がっていた。最初は千尋を邪険にしていた父役(伊藤俊彦)や兄役(水野栄治)、青蛙(藤岡義樹)をはじめとする従業員たちが変わっていく様子もあたたかさに満ちており、緊張感と和やかさの緩急が心地いい。

チームワークの良さが随所から感じられ、神様たちを含めた油屋一同での舞やラストの盛り上がりは非常に和気あいあいとした雰囲気。客席を巻き込むような明るくパワフルなカンパニーによって、油屋を訪れた一人のような気分に浸ることができた。

川栄演じる千尋とプリンシパルキャストとの化学反応が楽しみになりつつ、アンダースタディの面々が作るキャラクターたちにもまた会いたいと思わせられたこの日のゲネプロ。日々の公演を通してますます進化していくだろうカンパニーに改めて期待が高まる。

本作は、3月30日(土)まで帝国劇場で上演された後、4月から6月に名古屋・御園座、福岡・博多座、大阪・梅田芸術劇場メインホール、北海道・札幌文化芸術劇場 hitaruでのツアー公演を開催。並行し、4月から8月までイギリス・ウェストエンドのロンドン・コロシアムでの上演もスタートする。
 

取材・文=吉田沙奈

『千と千尋の神隠し』千尋=川栄李奈