株式会社日本総合研究所(代表取締役社長:谷崎勝教、本社:東京都品川区、以下「日本総研」)は、企業の人的資本経営実践におけるキーファクターの一つである、「プロアクティブ行動」が、個人、チーム、組織のパフォーマンスに与える影響、また従業員のプロアクティブ化を促進する要因を明らかにすることを目的として、2022年度の前回調査(注1)に続き企業に勤務する20,400人を対象とした大規模調査(以下「本調査」)を実施しました。なお、本調査の実施に伴い、慶應義塾大学の島津明人教授の助言をもとに、先行研究のレビュー、仮説検証モデルの構築等を行いました。

調査結果まとめ

  • プロアクティブ行動から組織パフォーマンスへの因果モデルが明らかになり、プロアクティブ人材は、自己の成長と職務を通じた組織貢献を確信している人材である一方、組織パフォーマンス展望を高めるためにプロアクティブ人材だけでなく、プロアクティブチームを増やすことが必要となる。

  • プロアクティブスコアは業務上の中核人材と言える40代・50代の人材が最も低い。

  • 個人プロアクティブ行動への影響が高いのは「自己効力感」、「職務特性」、「集団凝集性」の順であり、個人の性格・パーソナリティではなく、管理職のマネジメントによって変えられる可能性がある項目の影響度が高い。

  • チームプロアクティブへの影響が高いのは、「職場環境」、次いで「上司のリーダーシップ行動」の2つのみ。適切な職場環境と上司のリーダーシップ行動があれば、個々人がプロアクティブな集団は、チームとしてもプロアクティブになることが示唆される。

■「プロアクティブ行動」「プロアクティブスコア」の定義

日本総研は、一般的に先見的・未来志向・変革志向な行動とされる「プロアクティブ行動」を、ビジネスにおいて利用可能なものとするため、「革新行動」「外部ネットワーク探索行動」「組織内ネットワーク構築行動」「キャリア開発行動」(注2)の4つの行動からなる構成概念として改めて定義しています。

日本総研では、これらの行動の実践度合いを、独自開発した12の質問項目を活用し5段階で測定、単純平均化することでスコア化し、これを「プロアクティブスコア」と呼称しています。このスコアは、事業ポートフォリオの再構築を支える自律的な人材、その育成に向けたKPIとして、先進的な企業に活用されつつあります。

【本調査概要】

 調査名:  2023年度プロアクティブ行動に関するアンケート調査

 調査期間: 2024年1月22日(月)~26日(金)

 調査方法: ウェブアンケート

 調査対象: 企業勤務の従業員

 調査人数: 20,400名

■本調査の主な結果

1. プロアクティブ行動から組織パフォーマンスへの因果モデルを解明

 前回調査では、プロアクティブスコアの高さが、組織内における自身の評価を示す「職務成果」、自身のキャリアの実現度合いを示す「自己実現」、仕事に対する意欲・熱意などを示す「ワーク・エンゲイジメント」といったアウトカム指標(社会や業績に与える影響)に関係があることが認められました。

 本調査では前回調査で得られた示唆を踏まえ、よりその解像度を高め、プロアクティブ行動とアウトカムの因果関係に着目した独自の仮説モデルを構築した上で、20,400人のデータを基にその検証を行い、以下のモデルについて有意な結果を得ました(図1)。

(※個人、チーム、組織のパフォーマンス展望に関する質問項目については注3を参照)

このことから、以下の点が言えます。

1. プロアクティブ人材は、自己の成長と職務を通じた組織貢献を確信している人材である

モデルから個人のプロアクティブ行動は、個人のジョブパフォーマンスの展望、つまり、自己の成長・職場への好影響そして職務を通じた組織貢献に対する確信に繋がっていることがわかりました。これはプロアクティブな行動を取れる人材、つまりプロアクティブ人材が個人の成長と職場を巻き込んだ企業変革を推進する人材であることの証左でもあると捉えることができます。人材ポートフォリオの変革が期待される人的資本経営の実践において、プロアクティブ人材がキーマンとなる人材であることがあらためて示唆された形となりました。

2. プロアクティブ人材だけでなく、プロアクティブチームを増やすことが鍵である

また、モデルからは個人プロアクティブ行動から直接的にチームや組織のパフォーマンスに正の影響があるわけではないことも明らかになりました。これは、企業価値の向上という観点から見た場合、プロアクティブ行動がとれる個人、つまりプロアクティブな人材を増やすだけではなく、そのような人材で構成されたプロアクティブなチームを増やすことの重要性が示唆されました。それと同時に個人のプロアクティブ行動を高めて、個人のパフォーマンス展望を高めることが、チームや組織のパフォーマンス展望を高めることにつながることが明らかになりました。このモデルからはプロアクティブ行動を起点とした組織パフォーマンス向上のための経路・順序が明らかになったと言えます。例えば、新たな挑戦を起点に組織パフォーマンスの向上を図ろうとする場合、個人プロアクティブスコアを高め、個人プロアクティブスコアを毀損することなく、チームプロアクティブを高める具体的な施策を展開しつつ、同時に各パフォーマンス展望間が連動するよう調整を図る、というマネジメントポイントが明確になったと言えます。

2.プロアクティブスコアの維持・向上にはマネジメントが必須である

前回調査においても述べた「プロアクティブスコアの年齢別および男女別の違い」について、本調査についても分析を行いました。結果は前回調査と同様、年代別みると業務上の中核人材と言える40代・50代の人材が最も低い値となりました。また年代別の差は男性のほうが大きい点も特徴として挙げられます。本調査は経年比較ではないものの、年代別の平均値を踏まえると、プロアクティブスコアは放置すると下がってしまう可能性があることを示唆しています。

また、この事実は現在、プロアクティブスコアに焦点を当てた科学的なマネジメント手法は存在せず、プロアクティブな行動がマネジメントの対象となっていないことを意味しており、その成り行きの結果がこの傾向に表れていると考えられます。そのためプロアクティブスコアを維持・向上するためには意図的、計画的な働きかけが必要であると言え、端的にはマネジメントが必要であると言えます。

3.プロアクティブスコアは管理職のマネジメントによって変えられる因子の影響が強い

 企業価値向上の要となる、プロアクティブ人材およびプロアクティブなチームを増やすために検討すべきポイントを明らかにするため、本調査では個人とチームのプロアクティブスコアを高める要因について、先行研究も踏まえたモデルの検証を行い、以下の点について有意な結果を得ました(図3)。

 まず、個人プロアクティブ行動への影響が最も高いのは、「自らのミッション等をやり遂げられると認識している状態」を示している自己効力感で、次いで「多様性や完結性、重要性や自律性が高い」職務についていることを示す職務特性、「集団の一員としての帰属意識が高いこと」を示す集団凝集性の順となっています。特徴的なことは本人の性格・パーソナリティや上司と部下の二者関係(注4)といった性格・認知・相性に大きく左右されるような、いわゆる変えづらいポイントではなく、管理職の働きかけやマネジメントによって変えられる可能性がある項目が並んでいる点であると言えます。特に自己効力感が個人プロアクティブ行動に最も影響が大きいという結果は、異動による職種転換といったハード面の施策もさることながら、管理職が果たす役割が大きいことを示唆しています。具体的には、管理職が1 on 1ミーティング等の対話の場を通じて、部下に対して能力と状況に応じたミッションを割り当て、部下に成功体験を積み重ねてもらうといった現場での地道な取り組みが重要と言えます。

 次に、チームプロアクティブへの影響が高いのは、職場環境、次いで上司のリーダーシップ行動(注5)、となっています。個人のプロアクティブと比べて要因数が絞られており、適切な職場環境と上司のリーダーシップ行動があれば、個々人がプロアクティブな集団は、チームとしてもプロアクティブになることが示唆されます。上司と部下の二者関係(dyadic relationship)ではなく、上司のリーダーシップ行動が有意であったことは留意すべき点であると言え、部下との人間関係に配慮するというよりも、個人・チームのプロアクティブ行動を上司がどうマネジメントしていくか、という手法論が重要であるという示唆を得られたと言えます。

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 下野 雄介のコメント

 今回の20,400名のデータ分析から、プロアクティブ行動による組織パフォーマンスに影響を与えるパスがクリアになり、プロアクティブ人材は、自律的な挑戦を通じ、自己の成長と企業が望む変革の推進を両立できている人材であることが明らかになりました。特に事業ポートフォリオを再構築しようとするような、大きな転換点にある企業の人材マネジメントにおいて非常に相性のよい人材像であると言えます。

 調査の結果からは、個人のみにフォーカスを当ててマネジメントをするのみでは、得たい成果である企業変革にまでは至らない可能性も示唆されました。具体的にはチームの単位でプロアクティブ行動を俯瞰し、リードするというマネジメントも必要であるということです。これは個に迫りつつ俯瞰的にチーム全体のバランスも見るということで、属人的マネジメントの範疇を超えたマネジメント力がミドルマネジメントには必要と言えます。

 今回の調査分析を通じて、プロアクティブスコアを向上させるための先行因子についても抽出を図っており、因子の特定はよりシーンを限定してさらに詳細化していく余地を残しつつ、重要な示唆としてBIG5や上司との「人間関係」など性格に依存するような項目が因子として選定されなかった点を受け、プロアクティブスコアは、性格等の「変わりづらい」因子に依存するものではなく、マネジメント可能なものであることがわかりました。

 このことから、プロアクティブ人材およびプロアクティブなチームを起点に人的資本経営を実践する上で重要なことは、それらの人材・チームをプロアクティブ化することはもちろんのこと、そういった人材・チームをマネジメントできるマネジメント人材を強化・育成することであると言えます。

 日本総研では、企業プロアクティブ人材の評価システム導入からミドル層のマネジメント介入による企業変革をサポートしており、今後もフィールドでの実践を通じた知見をもとに高度な人的資本経営の実現を図ってまいります。

注1: 株式会社日本総合研究所、アビームコンサルティング株式会社「プロアクティブ人材の実態に関する総合調査」2023年6月6日https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=105380

注2: プロアクティブ行動における各概念の定義

「革新行動」:自身および職場全体の仕事を捉え直してみたり、やり方や手続きなどを変えたりして、自身の仕事を巡る環境を変えようとする行動。自身で仕事そのものを前向きに変える行動とも言える。

「組織内ネットワーク構築行動」:職場の上司や同僚をはじめ、組織内の様々な主体と良質な関係性を構築し、自ら関係者を巻き込みながら挑戦的な仕事を進める行動。

「外部ネットワーク探索行動」:自身の知見向上のために、自身が所属する会社以外の人と積極的にネットワークを構築する行動。

「キャリア開発行動」:自身のキャリアを自身で描き、その実現に必要なスキル・知識を社内外問わずに学習して身につけたり、仕事の幅を自ら広げようとする行動。

本調査では、上記概念に対する個人としての回答「質問文の主語が『私は』ではじまる」を個人プロアクティブ行動、チームに対する回答「質問文の主語が『私の職場では』ではじまる」をチームプロアクティブ行動と定義しています。


注3:個人、チーム、組織のパフォーマンス展望に関する質問項目

個人のパフォーマンス展望

1. 知識や能力が高まるだろう(認知能力)

2. 社内外の関係者と良好な人間関係が形成できるだろう(対人関係)

3. 前向きに、かつ勤勉に職務に取り組むことができるだろう(職務遂行姿勢)

4. 職務を通じて成果を上げることができるだろう(職務遂行能力)

チームのパフォーマンス展望

1. チームは会社からの期待に応えられているだろう

2. 定められた目標を達成しているだろう

3. 新たな課題に対し前向きに取り組んでいるだろう

4. 顧客や取引先・他部門からの評判がよいチームとなっているだろう

組織のパフォーマンス展望

1. 自分の報酬が上がることが想定できる

2. 自分の会社の将来は明るいと感じている

3. この会社の雇用は今後も安定して推移するだろう

4. この会社の業績は今後も順調である


注4: 上司と部下の二者関係の質問項目

1. 私は自分の上司を人間として大好きである

2. 私の上司は友達になりたいようなタイプの人物である

3. 私の上司は一緒に働いていてとても面白い人である

4. 私の上司は、たとえ問われている問題について完全な知識を有していなくても、私のとった行動を上役に対して支持してくれる

5. 私が誰かから「攻撃」されたときには、私の上司は私を守ってくれるだろう

6. 私が誠実に働いた結果ミスを犯したときには、私の上司は組織の中の他者に対して私を弁護してくれるだろう

7. 私は私の上司のために職務記述書で明確に決められた職務以上の働きをする

8. 私は上司の仕事上の目標に合わせるためなら、よろこんで通常求められる以上の努力を投入する

9. 私は上司のために熱心に働くことをいとわない

10. 私は上司の仕事に対する知識には感銘を受けている

11. 私は上司の仕事上の知識や能力を尊敬している

12. 私は専門家としての上司のスキルに敬服している

注5: 上司のリーダーシップ行動の質問項目

1. 明確でポジティブな未来のビジョンを示すこと

2. 部下を個人として扱い、彼らの成長をサポートし、促進すること

3. 部下を励まし、認めてあげること

4. メンバー間の信頼を醸成し、関与と協力を引き出すこと

5. 問題に対して新しいやり方で考えてみたり、前提を疑ってみたりすること

6. 自分自身の信奉する価値観を明確に自覚しており、自分の言行が一致していること

7. 他者に誇りと尊敬の念をもたらし、きわめて有能であることによって人々を鼓舞すること

本件に関するお問い合わせ

株式会社日本総合研究所

【一般のお客様】 リサーチ・コンサルティング部門  下野 E-mail: shimono.yusuke@jri.co.jp

               ※2024年4月1日以降は E-mail :shimono.yusukeh7@jri.co.jp

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