ある日突然、足の親指に激痛を引き起こす「痛風」。健診などで尿酸値が高いと指摘された「痛風予備軍」の人も少なくないでしょう。痛風対策といえば「プリン体制限」が有名ですが、どれほどの効果があるのでしょうか? 本記事では米国老年医学の専門医である山田悠史氏による著書『健康の大疑問』(マガジンハウス)から一部抜粋して、プリン体制限の効果やもっと優先すべき対策について解説します。

「痛風にプリン体制限が有効」は本当?

「この前医者に痛風だって言われて、プリン体を控えないといけないんだよ」

「痛風にならないように、プリン体の少ないビールにしている」

そんなセリフを聞いたことはあるでしょうか。「痛風ならプリン体制限」というのは半ば常識になっていることかもしれません。この「常識」は、科学的な根拠に基づくものなのでしょうか。その真相に迫る前に、痛風の原因となる尿酸やプリン体について、少しひもといてみたいと思います。

プリン体は、尿酸の「原料」なのですが、このプリン体がどこから来るのかといえば、実は少なくとも6割ほどは自分の体の中からです1。人間の体を成す一つひとつの細胞の中には、核と呼ばれる貯蔵庫があり、そこにDNAと呼ばれる遺伝子情報を載せた書物のようなものが収納されています。

一つひとつの細胞も様々なものを消費し続け、あるいは体の中で生死も繰り返しており、やがてはごみが出されていきます。この核から出たごみがプリン体と呼ばれ、これが処理されて、やがて尿酸となります。尿酸は、血液中に溶け出し、それが尿中(あるいは便中)に排泄されます。こうしてごみ処理は完了です。

では、残りの尿酸はどこから来るかといえば食物になります。牛や豚を食べたとしても、当然その豚や牛も細胞から構成されているわけで、そこにはプリン体があり、そして尿酸の源になるというわけです。これらの「ごみ処理」をやっている場所は肝臓です。

ごみ処理がごみの量相応に行われれば問題はないのですが、尿酸の作られる量が捨てる量を上回ると、やがて尿酸の値が高くなり、それが関節に蓄積すれば痛風と呼ばれる関節の炎症を引き起こす原因になります。あるいは、尿にたくさん尿酸を捨てる状況になると、尿酸が尿の中で結晶化してしまうことがあります。すると、尿の通り道に詰まりを起こしてしまう可能性があり、これを「尿路結石症」と呼んでいます。

鳥は、尿酸を分解する「酵素」というものを持っていて、尿酸が増えても分解できるので痛風で苦しむことはありません。確かに、関節を痛がっている鳥に出会ったことはありませんよね(仮に痛がっていても分からないかもしれませんが)。ところが、人間はそれを分解するための酵素を持っていないので、捨て続けなければ尿酸は溜まってしまいます。

痛風などの病気を発症した際には、尿酸値を高いままにしておくと、繰り返し同様の病態を発症してしまうため、尿酸を下げる治療をします。これは、飲み薬による治療が基本になります。

これに加えて、先ほどご説明したように、プリン体は、体内で作られるもの以外に、食事からの摂取による部分もあるため、プリン体が多く含まれる食品は制限されるべきだというのが長年の常識として知られてきました。

プリン体制限よりも優先すべき「痛風対策」とは

しかし、実際には、食品を調整してもたらされる影響は(ゼロではないものの)大きくないということが複数の研究から分かってきています。

確かに、多くの食料に程度の差こそあれプリン体が含まれているわけですし、約6割は体で勝手に生み出されるものです。食事による差分があまり大きくなさそうだということは想像に難しくはないでしょう。

このため、普通の食生活を送っている人がプリン体制限をしても、ほとんど無効であることが知られています2。実際に、プリン体制限によって平均で尿酸値は1㎎/dLしか下がらないと考えられています。

また、過度のプリン体制限は、結果としてタンパク質制限につながり、食事量に変化がない場合、かわりに炭水化物や脂質の摂取量が増えて、バランスを崩した食生活をもたらすことになり、健康への悪影響が懸念されています。

このため、プリン体制限は、極端にプリン体の摂取量が多い場合以外は、推奨されることはありません。もちろん、極端に摂取量が多い場合には、痛風の原因の一端を担うと考えられますし、制限する意味はあるでしょう3

痛風を防ぐために必要なことは、むしろ、肥満のある方のダイエット、飲酒をする方の節酒、そしてバランスの良い食生活です2

「ビールはプリン体フリーのビールに変えればいくら飲んでも良い」なんていう話を聞くこともありますが、それも間違いです。

そのプリン体摂取の量の差以上に、飲酒がもたらす痛風発作のリスクの方が、影響が大きいと考えられるからです4。ビジネス戦略にまんまと引っかかってしまっているかもしれません。

1 Griebsch A, Zöllner N. Effect of ribomononucleotides given orally on uric acid production in man. Adv Exp Med Biol 1974; 41: 443–9.

2 FitzGerald JD, Dalbeth N, Mikuls T, et al. 2020 American College of Rheumatology Guideline for the Management of Gout. Arthritis Care Res (Hoboken) 2020; 72: 744–60.

3 Choi HK, Atkinson K, Karlson EW, Willett W, Curhan G. Purine-rich foods, dairy and protein intake, and the risk of gout in men. N Engl J Med 2004; 350: 1093–103.

4 Neogi T, Chen C, Niu J, Chaisson C, Hunter DJ, Zhang Y. Alcohol quantity and type on risk of recurrent gout attacks: an internet-based case-crossover study. Am J Med 2014; 127: 311–8.

山田 悠史

米国老年医学・内科専門医

(※写真はイメージです/PIXTA)