反響の大きかった2023年の記事から選ばれたジャンル別トップ10。今回は集計の締切後に、実は11月12月に大反響だった記事に注目。惜しくもトップ10入りを逃した記事を順不同で紹介!(集計期間は2023年11月~2024年1月。初公開2023年10月25日 記事は取材時の状況)
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新型コロナウイルスの猛威も薄れ、新たにオープンした飲食店を見かけることも増えました。居抜きで利用できる物件も多くあることも、飲食店に挑戦する人の背中を押しているようです。

今回、話を聞いた久能翔吾さん(仮名・27歳)さんも、ずっと自分のお店を持ちたいと考えていた1人で、最近生まれ育った北関東でラーメン店を開業。以前は、都内にある有名ラーメン店で7年間に渡って修業を続けていたそうです。

◆7年で1500万円貯めて、夢を実現

「18歳で高校を卒業してから、ずっと開店資金を貯めていました。お店を持つために、知り合いの紹介で都内の雑誌にも掲載される有名店でみっちりと修行。お店が休みの日には運送業などのバイトも入れて、彼女も作らずに貯金をしていましたね。結果として、7年間で1500万円貯めて自分のお店を持つ軍資金ができました

久能さんは、都内でお店をオープンすることも考えましたが、そんな矢先に新型コロナウイルスの影響で飲食業界が低迷期に入ってしまいます。修行していたお店も休業が多くなり、資金繰りが苦しい現状を目の当たりにしました。その影響もあり、自分のお店を持つ際には徹底してコストパフォーマンスの良い物件を選ぶことにしたそうです。

「味はもちろん重要ですが、どれだけ人が行き交っている物件に入れるかが成功のポイントになります。でも、都心の繁華街やテナントは賃料も高く固定費がとんでもない額になってしまう。そこで、少しでも固定費を浮かせるプランをたてようと考えました。物件の賃料も都心より格段に安い、地元に戻ってラーメン店をオープンさせたんです

◆好条件の居抜き物件を発見

久能さんがお店をオープンしたのは、2022年の夏。徐々に日本でもコロナ禍が落ち着きはじめた頃で、飲食店を新規にオープンさせるには絶好のタイミングだったそうです。

「全国的にコロナで廃業した飲食店が多くなり、特にラーメン店はたくさん潰れていました。なので、繁華街でも安くて良さそうな物件が多く、その上で居抜きもありラーメンに適したものもいろいろあった。そんな中で見つけたのが、つい数ヶ月前までラーメン店をしていた居抜き物件で、内装や厨房機器などもそのまま使っていいという好条件を提示していました

◆「飲食店ならではの問題」に直面

思っていたよりも安い資金でお店を始めることができたそうです。しかもその物件は、飲み屋や商業施設もある繁華街で人通りも回復していました。ただ、意外な問題に直面したそうです。それが、害虫だったとか。

「飲食店を営業する上で、ゴキブリやネズミなどの問題はどうしても付きまとうもの。自分も、開店前にはしっかりと害虫駆除の業者に入ってもらって対策はしました。ただ、夏だったこともあって、ゴキブリやコバエなどが調理場で頻繁に発生していた。あと、繁華街だったこともあって他の飲食店から出るネズミにも苦労しました。結果的に害虫駆除だけで、結構なお金を使うことになってしまいました

◆「人の口に戸は立てられぬ」で…

しかも、飲食店としては最悪な“事件”も引き起こしてしまいます。

営業中にゴキブリを見たというお客さんが出てしまったんです。飲食スペースではなかったですが、トイレで見たとのことで気持ち悪いからと食事をせずに帰ってしまい……。その影響からなのか、客足も徐々に減っていき……。小さな繁華街なので、噂はすぐに広まりますからね。仕入先の八百屋さんにも、『ゴキブリが出たって噂になっているけど、平気か?』と心配され、噂はかなり広まっているんだなと実感しました」

思い悩んだ久能さんは、開業時にお願いした害虫駆除業者に相談したそうです。

「お店自体が古かったのもあり、もしも完全に害虫をいなくするにはかなりのリフォームをしないといけないという話で。開店したばっかりで資金を使いたくないところでしたが、仕方ないとリフォームも検討していました。ただ、そんな時に原料高や電気料金の値上げなども重なって、資金繰りがかなり狂ってきた。このままだと、悪評もついてしまったし頑張ってもあと数年で資金が底をつくかも知れなくなってきた。まだ余裕があるうちに撤退しようと、1年も経たないうちにお店を閉店することにしました

◆修行先に出戻りすることに…

間接的とは言え、害虫問題で閉店せざるをえなくなった久能さん。現在は、体制を立て直すために、元いた修行先で雇ってもらっています。

安いからといって手軽な物件でお店をオープンしたのは間違いでした。まあ、原料高や光熱費の問題もありますが、しっかりと害虫にまで気をつけられなかった自分が悪いわけです。ひとまずは、僅かに資金も残ったので、もう一度自分の夢を叶えるために、心を入れ替えて修行をしています」

さまざまな要因で厳しい営業を続ける中、害虫という天敵とも戦わないといけない飲食業界。ゴキブリやネズミを根絶やしにはできないだけに、飲食店を経営している人たちには、永遠の課題になりそうだ。

<TEXT/高橋マナブ>

【高橋マナブ】
1979年生まれ。雑誌編集者→IT企業でニュースサイトの立ち上げ→民放テレビ局で番組制作と様々なエンタメ業界を渡り歩く。その後、フリーとなりエンタメ関連の記事執筆、映像編集など行っている

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